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PC:カイ ヘクセ
NPC:アティア
場所:カフール国、スーリン僧院
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アティアを背負い山から下りたカイ達を迎えたのは、武装した僧兵の一団だった。しかも大半は座り込み、一部は横になり、さらに一部は嘔吐するという惨状だ。
「……ヘクセ」
「ほら、無用な被害は避けたいじゃないかw」
どうやら彼らの足止めをしたのは意図的なものであったらしい。
「解け、今すぐ」
「まあまあ、彼等には余韻が残っているだけだからね、じきに回復するだろう。
それよりアティアを運ぶのが先じゃないかな?」
アティアの表情は随分と落ち着いていたが、確かに静かな所へ運ぶ方が先かもしれない。
カイは僧兵団の頭と思われる男に声をかけた。
「すべては終わった。霊廟前に異形の亡骸があるはずだ。
……亡くなった仲間たちとともにとは言わない。手厚く葬ってやってくれないか」
「なんだ……と?」
顔色が悪いながらも気丈に立っていた男は、信じられないというような顔をしてカイを見上げた。
「敵であり仇であったかもしれないが、一方で悲しい被害者だ。切り刻むのは大僧正も望んではいまい」
「だが……」
「頼む」
カイは静かに頭を垂れた。
「お人よし」
「ほっとけ」
僧兵の間を抜けながらヘクセは笑う。カイは若干眉根を寄せると苦言を呈した。
「皆の気がたっている。ここで笑うな」
「ふうん、そういう気遣いも出来る子なんだ。えらいえらい♪」
「……」
何を言っても無駄だと思ったのか、カイは黙々と歩く。ヘクセも気にした様子はなくついていく。
僧兵に声を聞かれなくなるまで離れたころ、カイは疑問を口にした。
「俺の中に入れたおまえの欠片はどうするつもりだ」
カイは前を向いたまま、ヘクセに目も向けない。そのことにヘクセは苦笑した。
「ほっとけば、じき消える。
人は言葉を交わし、響き合って心を変化させることもあるだろ?
あれと同じだ。
お前の中の私の"言葉"は、お前に影響を与えるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
どちらにせよ、お前の中で消化され、おまえ自身のものに変わるだろう。
そういうことだ」
ヘクセがにいっと笑う。カイはぽつりと呟いた。
「正直、おまえはアティアを見届けることなく去っていくと思ってたよ」
「まあそれでもよかったんだけどさー、ほら、何か余韻を残すのも悪くないだろ?」
今度はカイが苦笑する番だった。
「探しもの、見つかってよかったな」
「ああ、あれは得難い体験だった。思い出すだけで震えてくるね。それに……」
ヘクセが天を仰ぐ。
「なんとなくわかったんだ。ラスカフュールがその後、力を使わなかった訳」
「へえ」
「カフール錬気術は、人を超える業などではなかったんだ。
人のありようを受け入れ、自然のありようも受け入れる業だったんだなぁ。
ラスカフュールは人のまま、生きて、死んだんだ。
必要もないのに力を使うわけもない。
それが彼にとって一番あたりまえのことだったんだ。
…すごいよなぁ。
不死にすら至れる境地に立ちながら、それを手放すなんて…」
それからしばらく無言で歩いた。この数日がとても濃い時間だったように感じていた。
カイがアティアを奥の院に横たえると、ヘクセはアティアを軽く撫で立ち上がった。
「行くのか」
「頃合いだろう?」
そして大きく伸びをする。
「カイ。人生は短い。そして世界は遥かに広大だ。
君が踏み出した"武"への一歩。それを極めるだけでも、時間は足らんだろう。
なら、やるべきことを探して足踏みするのはもうおしまいにしてはどうだ?
やるべきことが解らねば、やりたいことをやってみたまえ。
踏み出せば見えてくる世界もあるさ。
水のように流れ続けろ。変わることを怖れるな。
心を"凝り"にするなよ」
ヘクセの表情は晴れ晴れとしていた。カイも止める気はなかった。
もう会うことはないかもしれない。それでもお互いさよならは言わなかった。
カイは僧院での後始末をそこそこに少ない荷物を纏めていた。自分は客だ。後はここにいる者たちで乗り越えなければいけない問題だろう。
アティアは目覚めた後、大僧正が亡くなったことには号泣したが、ヘクセのことでは泣かなかった。
もう大丈夫だ。淋しそうに見上げるアティアの頭を軽く撫でた。
「おにいちゃん、ずっとおともだちだよ」
「……ああ、そうだな」
「ヘクセもだよ」
「ああ、知ってるよ」
偶然出会って触れ合った二人が、響きあって、少しずつ変化しながら、また互いの道を歩いていく。
それを自然に受け入れられる自分は、何か変わったのだろうか。
「結局ヘクセは何者だったんだろうな」
「何言ってるの、ヘクセはヘクセ、だよ!」
アティアに笑って見送られ、カイは自分の道へと足を踏み出す。
目指す先にあるものは、首都ケルン。
fin.
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PC:カイ ヘクセ
NPC:アティア
場所:カフール国、スーリン僧院
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アティアを背負い山から下りたカイ達を迎えたのは、武装した僧兵の一団だった。しかも大半は座り込み、一部は横になり、さらに一部は嘔吐するという惨状だ。
「……ヘクセ」
「ほら、無用な被害は避けたいじゃないかw」
どうやら彼らの足止めをしたのは意図的なものであったらしい。
「解け、今すぐ」
「まあまあ、彼等には余韻が残っているだけだからね、じきに回復するだろう。
それよりアティアを運ぶのが先じゃないかな?」
アティアの表情は随分と落ち着いていたが、確かに静かな所へ運ぶ方が先かもしれない。
カイは僧兵団の頭と思われる男に声をかけた。
「すべては終わった。霊廟前に異形の亡骸があるはずだ。
……亡くなった仲間たちとともにとは言わない。手厚く葬ってやってくれないか」
「なんだ……と?」
顔色が悪いながらも気丈に立っていた男は、信じられないというような顔をしてカイを見上げた。
「敵であり仇であったかもしれないが、一方で悲しい被害者だ。切り刻むのは大僧正も望んではいまい」
「だが……」
「頼む」
カイは静かに頭を垂れた。
「お人よし」
「ほっとけ」
僧兵の間を抜けながらヘクセは笑う。カイは若干眉根を寄せると苦言を呈した。
「皆の気がたっている。ここで笑うな」
「ふうん、そういう気遣いも出来る子なんだ。えらいえらい♪」
「……」
何を言っても無駄だと思ったのか、カイは黙々と歩く。ヘクセも気にした様子はなくついていく。
僧兵に声を聞かれなくなるまで離れたころ、カイは疑問を口にした。
「俺の中に入れたおまえの欠片はどうするつもりだ」
カイは前を向いたまま、ヘクセに目も向けない。そのことにヘクセは苦笑した。
「ほっとけば、じき消える。
人は言葉を交わし、響き合って心を変化させることもあるだろ?
あれと同じだ。
お前の中の私の"言葉"は、お前に影響を与えるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
どちらにせよ、お前の中で消化され、おまえ自身のものに変わるだろう。
そういうことだ」
ヘクセがにいっと笑う。カイはぽつりと呟いた。
「正直、おまえはアティアを見届けることなく去っていくと思ってたよ」
「まあそれでもよかったんだけどさー、ほら、何か余韻を残すのも悪くないだろ?」
今度はカイが苦笑する番だった。
「探しもの、見つかってよかったな」
「ああ、あれは得難い体験だった。思い出すだけで震えてくるね。それに……」
ヘクセが天を仰ぐ。
「なんとなくわかったんだ。ラスカフュールがその後、力を使わなかった訳」
「へえ」
「カフール錬気術は、人を超える業などではなかったんだ。
人のありようを受け入れ、自然のありようも受け入れる業だったんだなぁ。
ラスカフュールは人のまま、生きて、死んだんだ。
必要もないのに力を使うわけもない。
それが彼にとって一番あたりまえのことだったんだ。
…すごいよなぁ。
不死にすら至れる境地に立ちながら、それを手放すなんて…」
それからしばらく無言で歩いた。この数日がとても濃い時間だったように感じていた。
カイがアティアを奥の院に横たえると、ヘクセはアティアを軽く撫で立ち上がった。
「行くのか」
「頃合いだろう?」
そして大きく伸びをする。
「カイ。人生は短い。そして世界は遥かに広大だ。
君が踏み出した"武"への一歩。それを極めるだけでも、時間は足らんだろう。
なら、やるべきことを探して足踏みするのはもうおしまいにしてはどうだ?
やるべきことが解らねば、やりたいことをやってみたまえ。
踏み出せば見えてくる世界もあるさ。
水のように流れ続けろ。変わることを怖れるな。
心を"凝り"にするなよ」
ヘクセの表情は晴れ晴れとしていた。カイも止める気はなかった。
もう会うことはないかもしれない。それでもお互いさよならは言わなかった。
カイは僧院での後始末をそこそこに少ない荷物を纏めていた。自分は客だ。後はここにいる者たちで乗り越えなければいけない問題だろう。
アティアは目覚めた後、大僧正が亡くなったことには号泣したが、ヘクセのことでは泣かなかった。
もう大丈夫だ。淋しそうに見上げるアティアの頭を軽く撫でた。
「おにいちゃん、ずっとおともだちだよ」
「……ああ、そうだな」
「ヘクセもだよ」
「ああ、知ってるよ」
偶然出会って触れ合った二人が、響きあって、少しずつ変化しながら、また互いの道を歩いていく。
それを自然に受け入れられる自分は、何か変わったのだろうか。
「結局ヘクセは何者だったんだろうな」
「何言ってるの、ヘクセはヘクセ、だよ!」
アティアに笑って見送られ、カイは自分の道へと足を踏み出す。
目指す先にあるものは、首都ケルン。
fin.
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