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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:クレア
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「そういえば兵舎にこしてくるのか?」
一応兵舎というものが用意されているのだから、金を払って宿を取る必要はない。
カイもそんなに資金が有り余っているようには見えなかったが、なんとなく兵舎よりも自分で宿をとりそうな気がして、念のため聞いてみたのだ。
「そうだな……。この部屋を見る限りは、悪くないところのようだしな」
「ああ、ただの割には良いだろ?」
「部屋は全部同じなのか?」
「まーな、金のあるやつは選ぶ幅もあるが……」
「これ以上を望むのは無駄金をもつものだけだろう」
「そういうこと」
「……ちょっと! 無視しないでよ!」
腹を立てたように……いや、腹を立てたクレアが甲高い声をあげる。
それをジト目で一瞥したクレイは、
「……そうそう、金は要らないけれど、窓とか壊したときの修理は自前で……」
「って、何事もなかったように話し続けるな!」
クレイはそこでようやく、クレアに向き直った。
「やれやれ。お姫様がこんな下賎なところにいつまでいるんですか?」
たとう大貴族の、それも国でも上の方の家のものといえ、こんな小娘に媚を売るのは、クレイには到底できないことだった。
だから今も、全身から迷惑そうなオーラを発しながら、実に迷惑そうな口調でクレアにむかっていた。
(もっとも出会ったのが、もっと艶っぽい貴婦人であったらはなしはべつだが……)
さすがにそれは口にせずにいた。
「あなたをお婿さんにするまでよ!」
「うーん、姫君の心を射止める俺の美貌が罪なのだろうが……。愛を育てるには時間が……」
(それに胸も……)
クレアはおそらく十人のうち八人ぐらいは可愛いといわれるだろう。
だがクレイにしたら、どーかんがえても「お嬢ちゃん」になってしまうのだ。
ちらりとカイをみれば、事の推移を面白がっているのか、あえて助け舟を出すつもりはないらしい。
「そもそもなんで家を出てきたんだ?」
ややなげやりに質問する。
「そ、それは父様が……」
なんとなくいい辛いのか、口の中でごにょごにょとつぶやく。
「と、とにかく! あなたは私のお婿さんになるの!」
何がとにかくなのか、クレイにはわからなかったが、その後に続いた言葉には衝撃を受けずにはいられなかった。
「いいから父様にあってよ」
「あ、あほか!」
最初は冗談かと思っていたが、これは本気でやばいらしい。
さすがに冷たい汗が滲み出すのを、感じずに入られなかった。
その様子を見ていたカイは内心首をかしげていた。
かつての経験から、上流貴族というものについてよく知っているカイからすれば、クレアがどんなにおかしいことをいっているかがよく分かるのだ。
地位が高い貴族の姫というものは、自分で相手を見つけるという考え方すらないのが常識だった。
(ひょっとすると、ただの悪ふざけではないのかも。)
そう思いつつも、あえて意見を言う気はないカイであった。
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