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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:クレア
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「お父様を、呼んでもらうことだって出来るのよ」
相手にされないことで、クレアは拗ねきっていた。
「おいおい……」
クレイは兵舎のカイに割り振られた部屋で、簡素なベッドに腰を下ろした。
カイはカバン一つに纏められた少ない荷物を紐解いている。
「家を出た理由も教えてもらえないってのに、それはないだろ」
脱力するクレイは、この少ない時間で疲弊しきっていた。
クレアを人目に晒すと本当にお父様を呼ばれかねない。そう判断したクレイは、カイの同意の元、兵舎の一室に籠もっているのだ。職務もあることだし、ずっとこのままというワケにはいかない。ついつい頭を抱えてしまう。平穏な生活を夢見ることも、なかなかうまくはいかないらしい。叶いそうな、手の届きそうな夢だと思っていたのに。
「お屋敷の中の人間しか知らないからって、カイだってイイじゃないか」
彼女の相手が自分である理由も思いつかない。物珍しいだけで選ばれたんじゃ溜まったモンじゃない。
「だってこの人、影みたいで」
会話をしてくれることに喜んでいるのか、クレアはにっこりと笑った。
「それに、クレイは」
隣に腰掛け、向き直る。
「金や名誉に媚びを売らないわ」
媚びておけば良かった。絶対しないであろうコトを後悔しても、もう遅かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カイは部屋の壁に寄り掛かり、二人のやりとりをじっと見ていた。
どうも気に懸かることがあった。普通の名家のお嬢様、ではないということだ。
彼女が本物で、何かしら事情があるとしても、並のプロ以上というスリの腕を持っているというのは、明らかに異常なのだ。砕けた物言いや、子供っぽい仕草では隠せないようなしつけの良さは見て取れる。本物のお嬢様ではあるのだろうけれど……まだ分からない。
「巡回に出よう、カイ」
クレイが重い腰を上げた。
「付いていく」
「駄目だ」
予想していたのであろう。クレアの声が出るかでないかで制止の声が重なる。
「何を話すのか、何を話せないのか。仕事が終わったら聞いてやるから、ここでゆっくり考えなさい」
相変わらず子供を相手にしているようなクレイの態度だが、相手にされるだけマシだと思ったのか、クレアは小さく頷いた。
「話せることが思いつかなかったら、一人で家に帰ることだ」
クレイの最後の一言は、果たしてクレアに聞こえていたのだろうか。扉を開け、クレイが部屋を出る。カイは何も言わずに後に続いた。
カイは指先の器用さだけでは説明の出来ない技術を、誰に習ったのかを考えた。
深窓の令嬢と親しくできる人物、しかも他の者達に気付かれずにソレを行える人物。高度な技術を有した人物、だとすると、彼女の側に入り込む大きな理由が別にあるのかも知れない。恐らくは女性。そして……。
「有名な窃盗団か、義賊がこの街にはいるのか?」
カイは前を歩くクレイに問うた。
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