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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:クレア
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「……なるほどねぇ」
一瞬虚をつかれものの、カイの言葉の意味を理解したクレイは、思わず感心したようにつぶやいた。
普通のスリは、繰り返すことで技術を磨き上げる。
子供のうちなら見逃してもらいやすいが、大人が思い立ったようにスリをはじめることはない。
そういう意味で、クレアのスリの技術とその前後の素人っぽさが、不自然といるのだ。
自身で習得できないなら、師がいるのはあたりまえ。
技術だけを教え込まれ、実地経験がなかったとすれば、技術とのギャップも納得できる。
王族さえ狙える公爵家の姫であることを考えても、此方のほうが自然だ。
「そこら辺の資料は、城の治安部にいったほうがそろっている。特に公爵家のあるあたりは俺たちの管轄外だから、出向いたほうが確実だな」
「うわさ程度でもわからないのか?」
「うーん、噂が多すぎて絞れねーんだ」
貴族の派閥争いが激化する最近、それぞれに義賊を囲ったり、私兵を偽装したり、盗賊騒ぎを装って政敵を陥れたり、またはたんなる嫌がらせだったりで、盗賊騒ぎは絶えないのだ。
賊とはいえ、さすがに王都では命を奪うような事はやらない。
むしろどれほど見事に事を成すかを競う節もあり、関係のない平民にとっては、良い話の種にもなっていた。
「クレアに、というより、公爵家の姫君に近づけるもの……。なんだか嫌な予感がするなぁ」
やれやれといわんばかりに、首を振る。
カイはそんな様子を見ながら、
(クレアに関わった時点で巻き込まれていると思う)
そう思ったものの、黙ってクレイの後をついていった。
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王城の敷地の一番外の郭に立てられた治安維持部の建物は、同時に王城への出入りを審査する憲兵所も兼ねている。
ここを抜けなければ、王宮(王城本丸)、東宮、西宮、離宮へと続く二の門へ行けないのだ。
「ほんとだって!」
「うるさい! もういい加減かえれ!」
クレイとカイがむかう治安部の入り口前で、衛兵らしき男と、それにすがるように何かを訴えている10を越えたころと見える少年がいた。
クレイは厄介ごとには首を突っ込みたくないし、衛兵が暴力を振るっているわけでもないので、何も見なかったように通り過ぎようとした。
それはカイも同じらしく、ちらりと現状を確認すると、すぐに興味を失い、クレイに習おうとした。
「ほんとなんだって、信じてくれよ」
少年は嘆くというよりも、怒りをあらわにした様子で食い下がっていた。
「あのなぁ、いいか? ハーネス公爵家といえば三大公にもあげられるほどの家だぞ。伝説の怪盗か何か知らんが、そんな素性の知れんのを招かなくても、ほしいものは手に入れられるところだ」
「じゃ、じゃあ、公爵さまが気が付いていない……」
しかし、衛兵は全てを言わせなかった。
「もちろん、素性を隠してと普通なら思うが、ああいったところは、ただのした働きにいたるまで身元が確かでなくては、門をくぐることさえできんのだ」
返す言葉をなくした少年は、それでも何かいいたげにたちつくす。
「……はぁ。なぁ、何も聞かなかったことにできんものかなぁ」
「俺はかまわない。クレアに迫られているのは俺ではないからな」
ハーネスの名前と、あまりにタイミングのよい内容に、運命のいたずら、いやいたずらを越えたいじわるさを感じて、クレイは情けない顔つきで頭をかいた。
「しゃーねぇわな」
そういうと、実に嫌そうに、少年のほうへと振り返った。
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