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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:(クレア) キット
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「少年、向こうで話を聞こうか」
イヤそうにクレイは声をかけた。
言葉を失い、立ちつくしていた少年の目がにわかに輝く。
「信じてくれるんだね?」
「いや、それは話を聞いてから決める」
渋々、という表情が抜けない。
事を荒立てないように衛兵から引き離し、もう一度声をかける。
「聞くだけ聞こう。信じるかどうかはそれからだ。分かるか?」
少年は自信満々で首を縦に振った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「だから、公爵様の家に‘伝説の怪盗’が出入りしてるんだってば」
人目を引かないところまできて、我慢しきれなくなった少年が訴える。
「その前に名乗んなさい」
コレだから子供の相手は疲れる、と言わんばかりのクレイと、その後ろで注意深く少年を観察するカイ。少年は親指で自分を指すと、胸を張って名乗って見せた。
「おいらはキット。‘緑の義賊団’のカシューの孫さ!」
えっへん、と咳払いをするキット少年と、頭を抱えて座り込むクレイ。
カイはキットに声をかける。
「その‘緑の義賊団’とは何だ」
「あんた余所モンだね? 金持ちから裏金をたんまり頂戴して、貧民街に配ったという貧乏人の英雄さ」
胸が上を向きそうなほど鼻を高くし、キットは誇らしげに緑のスカーフを見せた。
「で、その英雄はとっくの昔に解体したはずだよな?」
座り込んだまま、クレイが言う。
「おまえさんも生まれてなかったんじゃないか?」
「あ、足は洗っても爺ちゃんは立派な‘緑の義賊団’だい!」
後ずさり、わかりやすい動揺を見せる辺りが子供らしい。
ちょっとうわずった声で、早口にまくし立てる。
「だから恩のある公爵様のピンチを助けようと忠告に来たんじゃないか!」
カイがちらりとクレイを見る。クレイは仕方なさそうに補足説明を始めた。
「あー、その盗賊団はハーネス公爵家で捕まって、当時公爵位を継いだばかりの現公爵の温情に助けられたという経緯があるんだよ。もちろん足を洗うことも条件に含まれてたし、律儀なことにそれ以降の活動は自粛され、解体されたって話」
キットはカイに詰め寄った。
「公爵様に恩返しがしたいんだよ。恩返しになるよな? この情報」
カイには、キットがウソを付いているように見えなかった。
「もう少し、詳しく聞こう」
キットはあからさまに喜びを顔に出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カイはクレイと歩きながら、聞いた話を整理してみた。
キットの装飾の多い話から掻い摘んで要点を抜き出すと、
・伝説の怪盗と呼ばれる‘琥珀のカラス’が公爵家に出入りしている
・‘cは女性で右肩にカラスの入れ墨がある
・‘琥珀のカラス’は変装が得意で、誰も素顔を知らない
・‘琥珀のカラス’は十年くらい仕事から遠ざかっていた
・‘琥珀のカラス’は琥珀を装飾に使ったモノだけを狙う
・‘王家の宝剣’には金粉混じりの大きな琥珀が使われている
何とも壮大な話だ。
「さ、て」
クレイは空を仰ぎ、一度大きく伸びをする。
「聞いちゃったモンはどうするかな」
日は傾き始めていた。
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