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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:おやじ
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「おやじ~、いるか~?」
夕日が色つきの光で街を染め上げる中、みすぼらしさをいっそう際立たせる風情のあばら家にクレイとカイはいた。
軋みを上げる扉を慎重に押し開きながら(今にもくずれそうなのだ)、クレイが奥に向かって呼びかける。
「おーい。おやじ~」
しばらく待ってもう一度呼びかけると、奥のほうで人の気配が動くのが分かった。
ガタガタと荷を崩したような音と、埃のにおいと共に現れたのは、白髪を無造作に後ろで束ねた男であった。
老人というにはまだ若さを感じる、おそらくは50前後と思われる。
「なんだ、クレイかよ」
着ているもはみすぼらしいものの、身にまとう雰囲気はどこか精悍さを感じさせる。
(そう、「ただの素人ではない」というところか)
男を観察するカイに、クレイが紹介する。
「えー、情報通のおやじだ」
「……で?」
「いや、そういや、俺も名前知らねーんだわ」
はははと困った笑みを浮かべながら、おやじに目を向ける。
「ふん、どうせ言っても覚えやせんくせに」
そういいながら笑ったおやじは、二人を奥に招いた。
中は予想通り雑然とした部屋で、あちらこちらに物が積み上げられており、それを無理やり押しやって、テーブルと椅子を用意したのだった。
「さて、今日は何だ?」
席についてすぐに、おやじが切り出す。
「ああ、ちょいとめんどーなことになりそうでさ……」
クレイは(クレアのことは置いといて) 大まかに今日のことを話した。
おやじは聞きおえてからしばらく、目を閉じて考え込んでいるようだった。
そして、慎重に口を開いた。
「琥珀のカラスが集めていたのは『琥珀』のお宝だってのは知ってるな? 宝石とは実にさまざまな物があるが、なぜ『琥珀』なのか不思議に思わないか?」
宝石とはいわゆる鉱石の一種であることは知られているが、琥珀は石ではない。
保存もそれなりに気を使うし、品質の安定性において他の宝石類に一歩劣る。
伝説となったほどの怪盗がこだわったにしては資産価値が今ひとつだ。
かといって『手際のよさ』を売り物にする『貴族の子飼い』だったふうでもない。
「琥珀は命が封じられているという。ほら赤玉といわれることがあるだろ? あれは『血』をさしているのさ」
石に秘められた命の欠片……、それは『力』でもあった。
「カラスの集めたものは、どれも強い力を秘めているといわれた本物の宝ばかりなんだ。そして、ハーネス家に預けられた王家の宝剣にほどこされているものもまた」
「……思い出した。たしかずいぶん昔に琥珀を祭る部族があったとか……」
クレイは歴史だったかなにかで聞いたような知識をひきずりだそうとしたが、よく思い出せなかった。
「ああ、カラスが狙うのは、その時イスカーナが奪い取った『霊宝』と裏では言われていた。そして、当時遠征軍を率いていたのが、今は引退している前ハーネス公というわけだ」
おもわずクレイとカイは目を合わせた。
つまり、クレアの祖父がということなのだ。
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外に出ると、すっかり暗くなっていた。
「まいったな、たんなる家出騒動ですまんかも知れんなぁ」
おやじの話、キットの話、クレア、朝の出来事。
クレアを追い返して、あとは忘れるってわけにはいかなくなってきた。
そんなことを考えながら、クレイはうなるようにつぶやく。
「えらいことになりそうだ」
意識して忘れていたが、クレアもほったらかしにしておけない。
「とりあえずもどるか」
クレイはカイを促すと、重い足を踏み出した。
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