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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:クレア
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「表から三人、裏から一人」
そう告げると何事もなかったかのように、手にしたカップを置くカイ。
「倒す・逃げる・捕まえる。どれを優先する?」
彼はクレイに問いかけた。
『逃げる!』
間髪入れずに答えた声は重なっていて。
「聞かれたのは俺だろ?」
そう言うのはクレイ。
「よく分かんないけど物騒なら逃げるが勝ちよ」
そう胸を張るのはクレア。
カイは何となく微笑ましく思った。
「参考までに。裏は通路が狭そうだ」
そう言ったカイとクレイがほぼ同時に立ち上がる。クレアは慌てて後に続いた。
カイが一歩踏み出したのと、扉が開くのはどっちが早かっただろうか。内側に押し開けたはずのドアを一気に押し戻され、一人がバランスを崩す。体勢を立て直そうと寄りかかったドアが更に強く押し返され、後ろにいるもう一人を巻き込む形で派手に転んだ。
「あと一人」
カイは扉から手を離すと、転んでいる二人を避けて表に飛び出した。
クレイはその二人の武器を器用に蹴り飛ばして後に続く。
「邪魔よ」
クレアが二人の顔を踏みつけてようやく表に飛び出したときには、カイとクレイが剣を抜いて一人の男と対峙していた。
初老の男だった。紳士的な服装はけして華美なモノではなく、口元の髭に几帳面さが滲み出ている。先ほどの二人が下仕えの下男だとしたら、執事といったところだろうか。
「お嬢様をお返し願おう」
男はそう言うと、剣を収めた。クレイはカイに目配せをするとあっさり剣を収め、カイもそれにならう。
「私としても戦うのは本意ではありません」
クレイは小さく「行こう」とカイに声をかける。
初老の男は頭を下げた。
「突然の無礼、大変失礼致した。さ、お嬢様。帰りましょう」
「冗談でしょ? 帰らないわよ」
クレアが腕を組んでそっぽを向く。何が何でも行く気はないらしい。初老の男から手が伸びる。振り払おうとして手首を掴まれ、クレアはやっと男の顔を見た。
「この人、違うわ!」
クレアが叫ぶ。クレイはすれ違いざまに剣を抜くと、柄を男の首筋に叩き込んだ。
カイはクレアを引き寄せ、ドアを蹴る。
二人の男が膝から崩れ落ちた。一人は付け髭の取れかけた執事に扮した男、そしてもう一人は裏口から入ってきた男だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「どうして偽物だって分かったの?」
クレアは立ち去ろうとする二人を追いかけてきて問うた。
「ねぇ、どうして?」
クレイは頭を抱えた。
どうやら彼女は答えるまでずっとくっついてくるつもりらしい。
「君はもう少し警戒しなさいね」
クレイは呆れている。
なかなかに精巧な付け髭ではあったが、クレイに分からないモノではなかったし、カイが警戒を解いていないのを考えると怪しむ要因としては十分だった。
「顔も見ないってどうかと思うよ」
クレアは頬を膨らませる。
「君、じゃないわ。ク・レ・ア!」
「はいはい」
「私あなたのこと気に入ったわ。お婿さんにしてあげる」
少し幼さが残る彼女の顔は、冗談を言っているようではなくて。
「……冗談、だろ」
誘拐騒動の次にはお婿さんにしてあげる宣言。これ以上の厄介事があるだろうか。
逃げ出そうとするクレイの右腕に、とっさにクレアがしがみつく。
カイは吹き出しそうになるのをこらえるために、小さく咳払いをした。
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