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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
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「じゃあ、ためさしてもらうぜ!」
先に大地を蹴ったのはクレイと名乗ったまだ若い青年。
カイは静かに呼吸を整える。
最初の一撃。いや、連続して剣が打ち込まれた。
少し重いか?
手に構えた模擬戦闘用の剣を試すように、一撃を弾き、いなす。
使い慣れた刀とは勝手が違うのだということは分かっている。
少し、馴染む必要があるかも知れない。
「おいおい、倒すってのは口だけかい?」
一歩も動いていないカイに向かって野次が飛ぶ。
実際クレイが一方的に攻めているのだから、判定負けを取られかねない状況だ。
ふむ。まぁこんなものか。
重さが手に馴染んできたらしい。
カイは初めて一歩踏み込んだ。
「お? ようやくやる気になったようだな、兄ちゃん」
野次を黙殺して、カイはクレイを見据える。
コレだけの運動量の割に息の乱れも少なく、ブレも少ない。
どうもココで一番というのは本当らしい。
カイは剣の構えを中段からゆっくりと脇構えに移行させる。
受け続ける分には問題なかったのだが、立て続けに攻められると、なかなか攻めに移行できないのだ。
流れを変える。
カイはわざと相手の剣に向かって、剣を押し出した。
キィィィィン!
今まで力を逸らすようにしていたのを、直接相手に力が返るように弾いたのだ。
ホンの一瞬の腕の痺れ。
その一瞬で十分だった。
カイは大きく懐に飛び込むと、剣をクレイの首にピタリとつける。
気が付くと、野次は止んでいた。
「おい、クレイ」
「油断したのか?」
見物していた仲間が、一斉に声をかける。
見ている間、ずっとクレイが優勢だったのだ。納得がいかないらしい。
「いや……、彼は使えるよ」
剣を交えた相手にしか分からないなにかがあった、のかもしれない。
息一つ乱れていなかったことに気付いたのは、クレイだけだったのだから。
仲間に囲まれるクレイと対照的に、一人たたずむカイは自分の手を見ていた。
震え…?
そう、後になってから手に残る痺れ。
クレイの剣を受け続けた代償は、しっかり体に刻まれていたのだ。
剣の重さというモノは甘くない。
「よろしく」
人の輪を抜けて、クレイが手を差し出す。
「君と組むことになりそうだ。ようこそイスカーナへ」
カイは一度手を強く握り、痺れを少しおさめてから無言で握手に答える。
その一瞬の行為を見逃さなかったクレイは、にっこりと微笑んだ。
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