――――――――――――――――――――――――――――
PC:カイ クレイ
NPC:クレア デュラン・レクストン ルキア ウルザ
場所:王都イスカーナ
----------------------------------------------------------------
「さて、カラスにとって難関といえそうなのは、ここに入る抜け道に気づけるかどうかだが……」
「それは難関とはいいがたいな」
ボーっと待ってるのも暇をもてあますのか、誰にともなくつぶやいたクレイにカイが冷静に返す。
「上から来るなら、井戸を通らなくても、じかに屋敷から降りてくればいい」
そういったカイは自分たちが招かれた扉ではなく、部屋の奥にあるもう一つの扉を指でさす。
「あー、まあどっちみち……」
いいかけたクレイは後ろをいきなり振り返ったかと思うと、いつの間にか手の中に現れた紙の束―――遠い異国でハリセンとよばれる道具で、こっそり忍び寄ってきていたクレアの頭をはたく。
「いったー。なにすんのよー!」
音はでかくても、大して痛くないのが特徴なのだが、クレアはあえて大げさに痛がって見せる。
そもそもの予定では屋敷にいるはずだったクレアには当然ながら役割はない。
むしろ足手まといなのだから、と部屋の奥でおとなしくさせられていたクレアはついに我慢の限界に来たらしい。
「おまえは状況わかってんのか?」
「私だって、伝説の怪盗にあいたいー」
わかっててわざとであろうが、だだをこねるクレアに困ったようにため息をつくクレイ。
カイも「姫」にはどこか弱いようで、とばっちりを喰らわない限りは、なるべく見てみぬふりを決めたようで、クレイから視線をそらしたりしている。
「だいたい、こんな穴のそこにいたら、ほかのやつらに手柄取られちゃうよ!」
これにはさすがに考える顔になって、カイとクレイは顔を見合す。
手柄なんかはそんなに期待していないので、むしろどうでもいいぐらいだったが、ほんとの目的である「真の敵を見つける」ためには、外にいる必要があるのは確か。
クレアがきたことで、なんとなく篭っていたが、それでは屋敷にいるのと状況は変わらない。
「……賭けになるか?」
「……いや、向こうはそこまで知らないはずだろう」
冷や汗を浮かべて慎重に問いかけるクレイに、冷静に首を振るカイ。
二人を見比べて、一人わけがわからずに、また不満そうに頬を膨らませるクレア。
「なんのはなし?」
「ああ、いや、警備の方針についてだな……。」
こんなところでばれてしまっては、あの姉妹……いや、この国の頂点にいる三大公の一人を敵に回しかねない、クレイはおもわず下手なごまかし方をしてしまい、余計にあやしさを演出してしまう。
さすがに手助けしようとカイが話を変えてやろうとしたとき、それまで奥のいすでボーっとしていたデュランが思わぬ提案をしてきた。
「なんなら皆で上でまってみるか?」
「ああ?」
「?」
「え?」
なにをいいだすのか、と三人そろって疑問に思う。
ダミーの住処を用意して、大事なものは地下に隠すようなよう慎重深さを見せたデュランがする提案ではないからだ。
「ひょ、ほほほほ。なに、か弱い年寄りだけならまだしも、頼もしい騎士が二人もついているうえ、敷地の外は大賑わい。となればかえって穴
倉にいるより、連携をとりやすいよう上に出ていようと思ったわけじゃよ」
(うさんくさい)
口に出しこそしなかったが、怪しさはますばかりである。
とはいえ、渡りに船だったのもたしか、そうなれば、ここは乗っておくほうが良いだろうと考えて決断する。
「わかった、そういうことなら上に出よう」
クレアはもちろん、カイも賛同したので、四人連れ立ってへやをでることにした。
日が落ちると荒廃ぶりに拍車がかかって見えるその屋敷(と言い切るにはいささか躊躇してしまう有様だが)は、大貴族の警戒態勢時並の警備体制が敷かれていた。
露骨に目立つように巡視をしているものもそうだが、闇に潜むもののかずを入れれば、たかが怪盗ごとき相手にするには異常といっていいシフトだ。
まるで戦時下の基地のごときその廃屋に小さな灯がともるのを、少し離れた屋敷の屋根の上で眺める影が二つあった。
「どーやら向こうも準備いいみたいね」
「ご老人をたきつけたのは、やはり姉さんだったのですね……」
ルキアが楽しそうにいうのを聞いて、ウルザがため息をつく。
二人は全身黒ずくめの格好で、武器らしい武器も持たずにいた。
「おやー、なぜかクレア様が紛れ込んでたのを昼間見たけど、あれはあんたの仕業でしょ?」
ウルザもため息で返す。
こうして同じしぐさをされると、やはりというべきか、鏡に映したように同じに見えるから不思議だ。
こういうときウルザは言い訳はせず、ただ静かに微笑を返す。
「……いいけどね。また私のせいになるだろうけど」
とはいえ、ルキアもウルザがいつだって、ルキアやクレアのことを考えて行動していることはわかっているのだ。
ただ、普段の行いが帰ってくるだけだということも。
それにしても不思議なものだとルキアは内心おかしくなる。
計画を始めたときは、敵を討つとかクレアの未来とか考えて、かなり熱くなっていたのだが、こうしてウルザが隣にいると、不思議と余裕が出て落ち着いてくる。
「なんですか?」
愚痴っていた姉が急におかしそうに含み笑いをしているのを見て、首を傾げるウルザ。
「なんでもないよ」
ルキアは軽く流すと、黒い覆面用の布を取り出して顔にまき始める。
「いい? かき回すのは私がやる。タイミングがありそうなら宝もいただいてくる」
自分にも言い聞かせるように確認をするルキアに、ウルザも顔を布で覆いながらうなづいてみせる。
「私は敵を見定めます」
用意を整えた二人は、軽く手を合わせて挨拶すると、そのまま浮かび上がるように宵闇に身を躍らせた。
「さ、パーティーをはじめるわよ!」
PR
トラックバック
トラックバックURL: