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PC:カイ クレイ
NPC:デュラン・レクストン
場所:王都イスカーナ
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古びた井戸の底には水が湧き出す代わりに、胡散臭げに続く横穴が掘られていた。
人一人で背いっぱいの横穴を、心もち頭を小さくしながら潜り抜けていくと、程なく樫の木作りの無骨な扉に出迎えられる。
重厚なきしみ音とともに開かれた其の先は、室内灯のオレンジ色に染められたレンガ造りの小部屋であった。
「ようこそ、対カラスの総本陣へ」
部屋のほぼ中央に立っていた老人はそういうと、不敵な笑みを
うかべて歓迎した。
「……クレイ、この国の年寄りって……」
「……」
なにかいいかけたカイはクレイの顔を見て言葉を飲み込む。
そしてかわりに軽く肩をたたく。
まるで激励してるかのようだった。
「……って、おい!」
さすがにこらえきれないらしく、クレイは老人――デュランを怒
鳴りつけた。
「ひょーほっほっほっ。」
何が嬉しいのかデュランの笑い声がこだまし、それがクレイを余計に腹立たせたのだが、こんどはぐっとこらえる。
(カイのほうは冷静に二人を見ていたりする。)
「まあまあ落ち着いて茶でもどうだね」
「結構だ。それより早く詳しい話が聞きたい」
「せっかちじゃのー」
デュランはふたりをテーブルのほうへ誘い、自分も正面に腰をかける。
「もともと書斎じゃから、いささかくつろぐには窮屈かもしれんが、ま、堪忍してくれ」
いわれたとおり、周りを見渡すと壁沿いには本棚が並び、それ以外にも本や書類が乱雑に詰まれている。
そんななか、無理やりスペースを作ってテーブルをおいたりしたらしく、どうにも部屋の中では浮いた感じになっていた。
正面のデュランは小柄で老人らしく白髪としわだらけの顔をしていた。
しかし、その目はまだ炯炯と光をたたえ、まだまだ元気なという言葉がふさわしいぐらいだった。
「くつろぐつもりはないから、詳しい事を聞こうか」
「つれないのー。……では、これをみてもらうか」
デュランが出してきたのは一枚の黒いカードだった。
手のひらで隠せるぐらいのカードで、ただ真っ黒に塗られている
だけのシンプルなものだった。
「これはカラスが盗みに入る家にとどけられた予告カードじゃな。そして、このカードが届いた次の満月の夜にカラスは宝を奪うのじゃ」
普通に考えれば暗い新月の夜を選びそうだが、そこをあえて満月の夜に盗んでいくところが、カラスをただのこそ泥から一種の英雄に称えられるゆえんでもあった。
あえて予告とも取れる印――カードを送りつけて警戒させた上で、最も明るい夜に挑み、誰一人傷つける事もなく、ついには一度も縄にかかったことがない、琥珀のカラスがいまなお人の記憶に残るのは当然ともいえることだった。
「そこらへんはいいんだけど、何で俺たちがご指名されてんだ?」
「それはハーネス公の推薦があったからじゃよ。」
「公爵が?」
クレイとカイはおもわず顔を見合わせる。
「そうじゃ。お前さんらは和解から知らんじゃろうが、公はかつて治安を担っておられた事もあって、カラスとも何度も遣り合っておられる。
カラスこそ捕まえられなかったとはいえ、実に優秀な指揮ぶりで、手柄も幾度となく立てておられる方じゃよ」
クレもカイもなんとなくピンと来るものがあった。
「なるほどな、カラスを捕らえる側を指揮していたのがあの方だったとはな」
カイの言いたい事を理解したクレイもにがい顔つきになる。
「そうじゃ。そのような方が推薦してくださるのじゃから、期待しておるというわけじゃ」
カラス捕縛というよりも、おそらくはドタバタを……。
(でも、騒動を楽しんでるって事は、元神官っつてもあれとは関係なしか)
クレイもはじめから当て馬とおもっていたので、さしてがっかりしたわけではなかったが、面倒ごとの予感は確信に変わっていた。
「やはり引っかかるのを待つ必要があるようだな」
デュランに聞こえない程度につぶやいたカイに、クレイはかすかに頷き返した。
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