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PC:カイ クレイ
NPC:デュラン・レクストン
場所:王都イスカーナ
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「あのつかまらないまま引退したって言われてた怪盗が、再び戻ってきたんだ。おかげで朝から緊急シフトの準備とかで大変さ。おれも担当に加えてもらおうと、志願届けだしにいくところさ」
そう興奮気味に話す同僚の前で、眩暈がしそうなクレイの肩にカイが手を置いた。
「場所は?」
「ああ、ソレが妙なんだよ」
一拍おいて、意味深に小声で続ける。
「隠居した神官の家なんだ……おっと、じゃーな!おれ行くわ」
早く志願届けを出しに行きたくてウズウズしている彼は、それだけ言うと振り返りもせず駆け出していく。後にはクレイとカイだけが残された。
「……どういうことだよ」
「……コッチが聞きたいな」
知らず知らずの内に溜め息が漏れるクレイ。
「……で、勤務シフトはどうなってた、いつもの特殊勤務か?」
「いや」
驚きで顔を上げるクレイに返ってきたのは、意外な返事だった。
「デュラン・レクストン邸警備だ。恐らくは……予告が届いた家だろう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
急いで到着したソコは、こういっては失礼だが廃屋だった。
屋根は半分落ち、壁は剥がれ、庭の手入れもされていない。玄関にはツタが絡みつき、扉は人一人通れるやっとの透き間を空けて固定されている。
「こんな所に本当に人が住んでいるのか?」
先に到着したらしい同僚がぼやいているのが聞こえた。
屋敷を取り囲む人の数は約30、そのうち半分が神職に就いているモノらしい。
警備を巡って、責任者同士が口論になっていた。
「カラスの予告状が出ている以上、この件は神殿側に任しておくわけにはいかない」
「一度神職に就いた者は私たちの保護下にあります」
「街の治安が関わっているのだ、そう簡単に引くわけにはいかん」
「帰りなさい、神を侮るおつもりか」
「神職を辞した以上、我々は彼を一般市民として考えている」
しかし主人の姿は見えない。
「……主人はどこだ?」
「どちらも睨み合って、まだ邸内には足を踏み入れていないようだな」
「でも、これだけ騒いでりゃ、出てくるよな普通」
「ココに済むくらいだ、普通の老人ではないのだろう」
そうかもしれない。
クレイはもう一度屋敷(と呼べる代物だろうか?)を仰ぎ見た。すると。
「……窓ガラスの向こうで、陰が動いたぞ」
「ああ、気付いたか」
どうも他の人間は派閥争いに目がいって、気付いた者はいないようだった。
「……計ったようなタイミングだな」
カイがぽつりともらす。クレイも同感だった。
「さりげなく近づいてみよう」
カイにも異論はなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おい、警備の仕事は名指しなのか?」
破れたガラスを背に、クレイは声を掛けてみた。
「やっときたかね色男」
しわがれた男の声。おそらく彼がデュラン・レクストン本人だろう。
「何で出てこない」
「用があるのはあんたらだけじゃ」
「この状態じゃ俺たちも入れないけどな」
「そんなことはない」
老人はくっくっとくぐもった笑いを漏らす。
「こんな家に人が住むと思うかね?答えは否じゃ」
「……」
「この家はダミーじゃからな。二件隣の空き家の井戸から入れ」
「……一応聞いてもイイかな」
面倒なことになりそうだ。クレイは頭ををわしゃわしゃと掻いた。
「まだダメじゃ。地下にある書斎で待っとるよ」
「いこう、ココに長くいると怪しまれる」
カイに声を掛けられたときには、老人の気配は消えていた。
「行くしかないのか……」
ちょっとうんざり気味に、クレイはその場を離れた。
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