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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:クレア ウルザ ギルベルト ルキア
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「あらあら、ウルザにまで相手を連れきたのですか?」
「ルキア! 帰っていたのね」
青の間へ続く廊下でとももつれずに立ち話に華を咲かせるクレアとウルザに近づいてきたのは、二人によく似た顔立ちをした女性だった。
いや、顔こそにているもののその目や表情の作り方はクレアよりもウルザよりもさらに年上の印象を与える。
そのせいか個別にくらべれば似ていると思うものの、クレアとウルザほどに「同じ顔」とはおもえない。
クレアとウルザを別のところで見れば同一人物とおもうがルキアだとおそらく姉妹の誰かと思うのではなかろうか。
実際ルキアとクレアが抱擁しあう姿は、中の良い姉妹が喜び合っているように見えた。
「クレア様、首尾よく男を引っ掛けてこられたようですね」
「ふふ、ルキアの言うとおりにして抜け道つかったから、うるさいばあやたちにもつかまらずに住んだのよ」
その言葉を聴いてウルザはあきれた思いで納得した。
「クレア様がいつになく用意が良かったのはお姉さまがかんでらしたからですね」
「そうよ。私は……私たちはクレア様だけのためにいるのだから当然でしょ?」
ルキアのこの言葉はクレアが物心ついたときから良くきいてきたものだった。
スリのスキルを教えてくれたとき、政略結婚の話が出てることを教えてくれたときも。
なぜハーネスでなくクレアなのか……。
しかしクレアにとっては乳兄弟であり世話役でありほとんど唯一の「友達」でもある。
その事実さえわかっていればささいな言葉の違和感などないも同じことなのできにしたことはなかった。
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重たい空気。
予想していたことであったが、やはり気持ちのいいものではない。
「情報というが、君たちはクレアを保護して連れ帰してくれたのであろう? 報酬を望むならまだしも情報とは何を言っているのかね」
しかしそう告げたカイはただ黙ったままクレイに目を向ける。
(げ! 振るだけ振っといて……)
とはいえ切りかかった上は振りぬかねばなるまい、と覚悟を決めたクレイは動揺も全て隠して公爵の目を見た。
「きっかけはクレア様のことを報告しようと王城に向かった先で、琥珀のカラスなる賊のこと、さらには神殿の剣呑な雰囲気、そうしたことを知ったことでした」
きりだしたクレイに公爵は何も言わずに、うなずきで話を進めるように促した。
「長くなるので詳細は省かせてもらいますが、どうも閣下――いえクレア姫を中心に回っているようなのです」
「ほう」
「イスカーナの治安を預かるものとしてももちろんですが、イスカーナで剣を帯びるものとしてもか弱い姫様のためにもちからをつくしたいと思っています」
なんとなく巻き込まれて、厄介払いしようと宮殿に向かったらきな臭くなってきて、気がついたら抜けれなくなっていたとはさすがにいえない。
「僭越ながら――」
クレイが説明している間おとなしく黙っていたカイが、間髪いれずにたたみかける。
「――屋敷の様子、あのメイド、閣下は全ての事情を承知しているのでは、と」
「むう……。」
はじめは軽くあしらうつもりでいたギルベルトはおもわず言葉に詰まった。
(こやつら思ったよりも頭が回るようだ)
この件についてどこまで知っているにせよ、交渉の仕方としては堂に入っている。
少なくとも目先の小金にとびつくような思慮の浅いものではないだろう。
(それに影のことにも気付かれている、か……)
このときクレイもまたどこまで言うべきかに頭を悩ませていた。
(クレアの素性なんて迂闊に言い出したら……この屋敷を生きて出られんだろうなぁ)
お互いになんとなく次の言葉を探りあい、妙な沈黙が訪れる。
はたから見たら実に奇妙な事態であるが、おなじクレアを守りたい目的があっても立場の違いが大きすぎる以上慎重になるのも仕方のないことなのだ。
そんなに二人にしびれをきらして、というわけでもないだろうが、沈黙を破ったのは再びのカイだった。
「閣下、琥珀のカラスの本当の宝をご存知ですか?」
ギルベルトに緊張が走る。
(……ば!……それはいくらなんでも直球すぎんだろ!)
クレイはとっさに脱出のことまで考えをめぐらす。
しかしカイはクレアと歴史の闇については触れるつもりはなかった。
「神殿はそれが何かしらないらしい」
カイは何を言いたいのか……、クレイとギルベルトがそれに気がついたのはほぼ同時だった。
公爵はクレアを守りたい、カラスもどうやらクレアを守りたいらしい。
しかし危険と考える相手は、自分たちが何を求めているのか知らない。
ならば戦い方もあるだろう。
敵は血の問題を暴こうとする政敵ではないのだから。
そう神殿がちまなこになって探す宝とは、者ではなく物なのだ。
ここにいたりクレイは余裕を取り戻したのか、公爵にむかって唇の端で笑みを浮かべてみせた。
「閣下、賊がうごめいている今クレア様を動かすのは危険と思われます」
結婚話はおいといて……なんでかはわかるな、とまさに恐喝とも取れる提案だがギルベルトも面白そうにして笑う。
「そうだな。それはそうとそなたらは情報を求めているのだったな?」
「はっ! 琥珀のカラスなるものが狙う『宝』、それがどのような宝物なのか教えていただきたい」
さっきまでの腹の探りあいから一転、クレイ晴れやかに聞いたものだった。
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