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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:クレア ウルザ ギルベルト
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開け放たれた扉の向こうは、思っていたほど広い部屋ではなかった。
しかし、華美ではないが細かい装飾の施された絨毯など、隅々まで気を配られた内装を一見しただけで、部屋の大きさなどは大公家の威厳を揺るがしたりしないのだと痛感させられる。
部屋の奥には一人、壮年の男が座っていた。
「お父様、お連れしました」
クレアが優雅に会釈する。スカートをそっとつまむ仕草も可愛らしい。
若干表情をゆるめ、娘を一別したギルベルト。この国の大公その人である。
クレアの後ろに続く二人の青年に視線を移し、思わず表情を険しくした。
「以前何処かで会ったかな」
もちろんカイには覚えがない。
クレイにしても遠目にしか会った覚えなど無かったのだが。
「クレアは下がっていなさい」
有無を言わせない大公としての顔だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さて、不法侵入の言い訳を聞こうか」
ギルベルトは二人を交互に見ながら声をかけた。
そしてその視線はクレイの上で止まる。
「城下で不審な者に襲われましたクレア嬢を護衛して参りました」
嘘ではない。
が、大公は鼻で笑った。
「ほう?外泊の理由も何もかも『護衛』という言葉で片づけられるという訳だ」
クレイの背中に冷や汗が流れる。
「イリス姫と互角に戦えもしない君に、護衛が務まるのかね」
何処で見かけたのか思いだしたらしい大公は、クレイに冷たく言い放つ。
そうか。あの御前試合で顔を覚えられていたのか。
恥ずかしさに頬が紅潮する。
「君は新参者の傭兵か。目的は何だ」
カイの方を見る。
東方の小国カフールを故郷とする者など、この国では殆ど目にすることがない。
ギルベルトの眉間に皺が寄る。
「報酬か。名声か。」
カイの眉がぴくりと動いた。
「……どちらも欲しくはございません。私が欲しいのは……情報です」
ギルベルトの後ろのカーテンが、かすかに揺れたような気がした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
クレアは青の間へ続く廊下を行ったり来たりしていた。
「お父様ったら、追い出さなくてもいいのに」
すっかりふくれっ面である。
「まあまあ。心配かけたんですから、少しはいい子にしましょうね」
なだめるウルザはメイド服。
服装・表情・髪型など、明らかに違うにも関わらず、二人はとてもよく似通った顔立ちをしていた。それぞれが別の役を演じる役者の一面のように。
「クレイにはお婿さんに来てもらうんだから、お父様がイジメないように私から紹介するつもりだったのよ?」
迷惑そうなクレイの顔が浮かんで、思わずウルザは吹き出した。
「カイはねー、あなたに会わせてみたかったんだ」
思いも寄らない一言に目が点になる。
「何となく雰囲気が似てるときがあるのよ。気が合うかと思ったんだけどなー」
やはり彼は影なのか。
ロマンスを期待するクレアをよそに、ウルザは表情を引き締めた。
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