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NPC:ギルベルト ルキア
場所:王都イスカーナ
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「―――そうか、カシューがな……。」
報告を聞き終えた男はそういって、豪奢な革張り金装飾の椅子に深く腰をかけなおした。
公爵家の屋敷の執政室を使っているといえば、ギルベルト・ハーネス公爵その人であろう。
武人気質の多いこの国の大貴族にしては細面のどちらかといえば戦場よりも国政において働くのがふさわしそうに見えるほどだ。
外見は育ちのいい優男ではあるが、大公と称されるには親の財産を食いつぶすだけでは決してりえない。
それを裏付けるように、その目は内面を写しているのか鋭い光を放っていた。
「といっても彼がそんなことをする理由がありませんから、おそらくあの少年が正義感でも発揮したのでしょう。私と彼はカシューと会ったときに顔をあわせてますし、おそらくお使いにでも出てウルザを見てしまったのでしょうね」
そういった女性は窓際にもたれかかるようにたっていた。
シンプルなシャツにズボン。飾り気も何もない黒一色の服装は仕立てもよく機能性もよさそうだったが、公爵家で働くものとしてはいささか不釣合いの格好だった。
「そうか、あの子の息子だったな。クレアが男を連れてくる年頃になるわけだ」
そういって懐かしそうに目を細める様子は……まるでなにか企んでほくそえんでいるかのようではあったが、とにかく父親の素顔であった。
だがもちろんの容姿にふさわしい切れ者であるギルベルトはクレアがつかった抜け道のことも知っているし、警備もぬかりはないので、とうにクレイとカイのことは承知済みであった。
「ふふ、カシューがキッドの行動にきづかなかったとも思えん。ひょっとすると忠告かも知れんな」
「……王宮の介入を?」
「そこまで露骨でもあるまいが、ハーネスだけで神殿とは戦えんといいたいのだろう。だが、クレアのこともあのときの事もあるからな慎重に
ならざるをえん。お前たちには苦労をかけるが」
「はい。私もウルザもクレア様を…………。あの時は幼くてお方様を守るどころか泣いていることしかできなかったけど、今度こそは必ず守り
通して見せます」
「ルキア……それは私も同じだよ」
ふたりがかみ締めているものは同じ思いなのかもしれない。
今脳裏に浮かぶのはあのときの光景、そして絶望と怒り。
「それはそうと、クレアの連れてきた者の方はどうだ。さすがにまだ手を回したところで詳しい資料がないのだが。」
公爵は話題を変えるため、というよりも実のところこちらが本題とも言うべき質問をする。
クレアが屋敷に近づいてきた時点で、抜け道を使って帰還、ただし二人の男を同伴の報告を受けていた。
「クレアを信用してはいるが、へたなチンピラが小金ほしさに近づいたということもありうるからな」
もっともらしくいう公爵を見て、初めてルキアも笑顔を見せる。
「そんなに心配ならはじめから結婚話などちらつかせなければよろしいのに」
「あ、あれはだな、あれにもいい加減大貴族の一人娘としての自覚を、その……」
公爵の地位を前公爵より奪い取るようにしてついで10数年。
変わったといえば変わったのだが、こういうところはいまでも「若様」のままに見えた。
ルキアは懐古にひたるにはまだ若すぎたが、何事もなくただ幸せに包まれていたあのころを思い出すのは悪い気がしなかった。
「ふふふ、困った人ですね。大丈夫ですよ。なかなか面白そうな方々でしたよ。もう少し姫様の目も信用してあげてください」
「む、そうか。しかし実際にあってそれ次第ではクレアのわがままにも付き合いきれなくなることもあるからな」
切れ者と名高いギルベルトもこういうところはただの父親と変わらないらしい。
「閣下。先に申し上げて起きますが、わたしもウルザもクレアさまの味方ですからね」
そういったルキアの顔はまだ笑を消しきれてはいなかったが、その目は馬鹿な姿をさらしたら容赦しないといっていた。
権外の圧力に気がついた公爵は我に帰り、咳払いを一つすると苦笑いを浮かべてごまかす様にいった。
「そうだったな。お前とウルザが使えているのは私でなくクレアだったな」
どことなくすねた感情もまざってはいたが、テレをごまかすつもりだったのだろう。
それに対しルキアは、窓辺を離れ戸口へとあゆみだしながら不敵な笑みを返した。
「忘れたのですか? 一族から名前と歴史を奪われようとも、カラスは常に守護者として存在し続けるのですよ。さ、そろそろころあいもいいでしょう。私はクレア様をお呼びするように伝えてきますので、閣下は青の間のほうに」
そういうとそのまま戸をあけるルキアを見ながら、ギルベルトも腰を上げる。
「ふむ、いいだろう。クレアのつれて来た男をみてやるとするか」
部屋を出るルキアは肩越しに公爵を一瞥し、ため息をつきながら戸を閉めた。
(閣下は命の恩人で、貴族にしては珍しく尊敬できる方だけど、クレア様のことになるとほんとに)
そう思いつつも、おそらく大貴族との面会に緊張しまくっているであろうクレイとカイを思い浮かべると、自然とおかしさがこみあげてくる。
彼らがギルベルトのこんな一面を知ったらどう思うだろうか?
なにより、彼らはなかなか頭がよさそうだったが、「父親」の部分がおさえられないギルベルトと、「大公閣下」のつもりで話すとした
ら……。
(ふふ、クレイのことは御前試合でのイリス姫との負け試合で顔をあわせているはず。あえて言わずにいたけど、いきなり顔をあわせたとし
たら、閣下はどんな顔をされるのかしら)
そう公爵はわすれていたのかもしれない、カラスはなかな好奇心旺盛でかいたずら心満載の生き物でもあることを。
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