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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:クレア ウルザ
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「……手をひいとくべきだったか?」
珍しく冗談めかした口調でカイがお茶をすすった。
大事なことを忘れていた、というか、他のことに気を取られて考えがそこまで及ばなかった、というか。クレイは無言でこめかみを押さえる。
ウルザは思いがけず、吹き出しそうになってしまった。
クレアがそのつもりでつれてきているのなら、タダで返すはずはない。二人の大胆な行動をみても、彼らに大公家の当主の座を狙う気がないにもかかわらず。
クレアはどういうつもりで彼らを連れてきたのだろう?
いつも手を焼かしてくれるが、自分にとって職務以上に大事なクレア。
あの子が自分で連れてきた、私以外の最初の人間。
ウルザは複雑に入り交じった感情と、押さえきれない興味に驚いた。
彼らを好意的に見ている自分と、小さな嫉妬のようなしこり。
そして、その感情と興味に流されそうな自分。
手を口元に寄せ、くすりと笑う。
ダメね。感情はコントロールできるうちに手を打たないと。
カイがカップを置く。それを待っていたかのようにウルザは一歩進み出る。
「こちらへどうぞ。青の間までご案内させていただきます」
大丈夫。いつもの私。
「閣下をあまりお待たせするわけにはいきませんからね」
ちょっと意味深にクレイを見る。
困ったような、少しあきれたような、そして少し諦めたかのような表情。
本当に面白い……。
ウルザは時々後ろを確認しつつ、二人を青の間まで先導したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「遅いっ!」
青の間の前でクレアが待ちかまえていた。
短時間で仕上げたにしては上出来の化粧と結い上げられた髪。肌の露出が抑えられ
た清楚なドレス。そして、それらに不似合いな仁王立ち。
「……良家のお嬢様のする格好じゃないぞ……」
クレイがぼそりと呟く。
聞こえていないのか、聞こえていても無視しているのか。
クレアは気にせず、にーっこりと微笑みかけた。
「よかった。帰っちゃったかと思った」
ちょっと小首を傾げて付け加える。
「でも、私がいなくちゃ無事に帰れないか」
(……確信犯?)
ウルザも含めた3人の頭にそんな言葉がよぎる。
そう疑いたくもなる言動だが、気にしている暇はなさそうだ。
「お父様がお待ちかねだよ」
目の前の重厚な扉は大きく、その前に立つ者を押し潰すほどの威厳を放っている。
この扉の向こうに待つのは、ハーネス大公、その人なのだ。
クレイは思わず、生唾を飲み込んだ。
カイも少々気圧されているようだ。
「お父様、お客人がお見えになられました」
クレアが取っ手に手をかける。
樫の木の、重く厚みもある扉の隙間から、ゆっくり光が広がった……。
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