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2025/03/09 11:33 |
琥珀のカラス26/カイ(マリムラ)

――――――――――――――――――――――――――

人物:カイ クレイ

場所:王都イスカーナ

NPC:クレア ウルザ

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「……手をひいとくべきだったか?」

 珍しく冗談めかした口調でカイがお茶をすすった。

 大事なことを忘れていた、というか、他のことに気を取られて考えがそこまで及ばなかった、というか。クレイは無言でこめかみを押さえる。



 ウルザは思いがけず、吹き出しそうになってしまった。

 クレアがそのつもりでつれてきているのなら、タダで返すはずはない。二人の大胆な行動をみても、彼らに大公家の当主の座を狙う気がないにもかかわらず。

 クレアはどういうつもりで彼らを連れてきたのだろう?

 いつも手を焼かしてくれるが、自分にとって職務以上に大事なクレア。

 あの子が自分で連れてきた、私以外の最初の人間。

 ウルザは複雑に入り交じった感情と、押さえきれない興味に驚いた。

 彼らを好意的に見ている自分と、小さな嫉妬のようなしこり。

 そして、その感情と興味に流されそうな自分。

 手を口元に寄せ、くすりと笑う。

 ダメね。感情はコントロールできるうちに手を打たないと。



 カイがカップを置く。それを待っていたかのようにウルザは一歩進み出る。

「こちらへどうぞ。青の間までご案内させていただきます」

 大丈夫。いつもの私。

「閣下をあまりお待たせするわけにはいきませんからね」

 ちょっと意味深にクレイを見る。

 困ったような、少しあきれたような、そして少し諦めたかのような表情。

 本当に面白い……。

 ウルザは時々後ろを確認しつつ、二人を青の間まで先導したのだった。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「遅いっ!」

 青の間の前でクレアが待ちかまえていた。

 短時間で仕上げたにしては上出来の化粧と結い上げられた髪。肌の露出が抑えられ

た清楚なドレス。そして、それらに不似合いな仁王立ち。

「……良家のお嬢様のする格好じゃないぞ……」

 クレイがぼそりと呟く。

 聞こえていないのか、聞こえていても無視しているのか。

 クレアは気にせず、にーっこりと微笑みかけた。

「よかった。帰っちゃったかと思った」

 ちょっと小首を傾げて付け加える。

「でも、私がいなくちゃ無事に帰れないか」

 (……確信犯?)

 ウルザも含めた3人の頭にそんな言葉がよぎる。

 そう疑いたくもなる言動だが、気にしている暇はなさそうだ。

「お父様がお待ちかねだよ」



 目の前の重厚な扉は大きく、その前に立つ者を押し潰すほどの威厳を放っている。

 この扉の向こうに待つのは、ハーネス大公、その人なのだ。

 クレイは思わず、生唾を飲み込んだ。

 カイも少々気圧されているようだ。

「お父様、お客人がお見えになられました」

 クレアが取っ手に手をかける。

 樫の木の、重く厚みもある扉の隙間から、ゆっくり光が広がった……。
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2006/08/02 00:46 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス

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