――――――――――――――――――――――――――
人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:クレア ウルザ
----------------------------------------------------------------
「そう、あのカシューが……。」
目を丸くしたウルザは、驚いた表情を隠そうとはしなかった。
(もう少し動揺を隠そうとしそうなものだが)
カイの予想は外れているのだろうか?彼女は思っていたほどの影らしさがない。
それとも、わざとそう振る舞っているというのか。だとしたらこの女は怖い。
「そろそろクレア様のお着替えをお手伝いしなければ」
こちらに向ける表情は笑顔。
何かを言いかけたクレイを手で制して、優雅に背を向ける。
「本当に面白い……」
最後の一言は独り言なのか、こちらへの投げかけなのか。
彼女は扉の向こうに消えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カイがクレイに視線を移すと同時に、二人の視線がぶつかった。
何かを言おうとしているのだが適当な言葉に行き当たらないような歯痒さ。
結局口火を切ったのはクレイだった。
「彼女に会って、どう思った?」
「……ツワモノだな」
「ああ、一筋縄じゃいかなそうだ」
頭を掻くクレイから視線を外し、カイは彼女の消えた扉へ視線を向ける。
「ツワモノというのは強者という意味だけじゃない。あれは兵だ」
「……どういう意味だ?」
「組織に存在する影、だ」
クレイの視線も同じ扉へ向いている。
「神殿、大公家、どちらでもないだろうしなぁ」
「……<名を消された民族>……そう考えると琥珀に特別な価値が出てくる」
「根絶やしにされたはずだろ」
「全てを消し去るのと一部の者が地下に潜るのとではどちらが容易だと思う?」
「んー……だな」
カイはクレイに向き直ると、これまでよりも更に小声で付け足した。
「そして、クレアの母は素性が知れない」
「おい!」
「彼女をその民族の長の直系ではないかと考えていたのだが……」
カイの考えはこうだった。
クレアの母は<名を消された民族>の長の家系の者ではなかったか。
大公家はそれを承知で、情報を隠匿したのではないか。
その民族の影の組織が<カラス>ではないのか。
集められた琥珀はすべて<名を消された民族>のものだったのではないか。
クレイは頭を抱える。
「そうだと仮定して、クレアは何故狙われる?」
「神殿に情報が漏れた、と考えるのが妥当か」
ガチャリ。
扉が前触れもなく開けられる。
「本当に面白い推論ですね。一大叙事詩でもお書きになるのかしら?」
メイド服に着替えたウルザと思われる女性。
というのも、状況証拠でしかないのだ。
彼女がクレアではないという証拠など、何処にもない。
何処まで信じて何処まで疑えばいいのかも計りかねる。
「クレア様は旦那様へご挨拶を済ませてからいらっしゃいます」
お茶でもどうぞ、とトレイにはティーセットとクッキーが乗っている。
「是非あなたの考えがお聞きしたいですね、クレイ・ディアスさん?」
何処から聞いていたのだろう。
いや、全部最初から聞いていたのだろうか。
二人の考えを余所に、彼女はお茶の支度を始めた。
PR
トラックバック
トラックバックURL: