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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:クレア
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「ってこたぁー、あんたがカラスなのか?」
クレイはあきれた様にいった。
いきなり初対面で「何から聞きたい?」はないだろう。
「ふふ、さあ? 私がクレア様としてここにいたのは家のものなら誰でも知っていますよ。第一、数日とはいえ公人もよく訪れる大公家の姫が行方をくらませていたのでは、影でもつかわない限り話に上らないわけないでしょ?」
とぼけている、というより、全てを知った上でかわされている感じにクレイもうめくしかない。
隊に通知が来たのも、クレイとカイがクレアを助けたつもりのことが、かどわかされたと誤解されたからだし、もし三人が出会わなければ、人知れず終わっていたかもしれない。
それはつまり、ウルザが影の仕事をしていた証拠ともいえる。
「ぐ……、だったらさっきの聞き方はおかしかねーかよ?」
「あら? たいていの人は私とクレア様を一緒に見たら、いろいろ聞きたくなるみたいですので」
これも実にさらりとかわす。
横にいるカイにははっきりとクレイの不利がわかった。
(……)
とはいえ、クレイが口で勝てない相手にでしゃばるつもりはもうとうない。
カイはそれとなくウルザを観察するにとどめた。
「……大公が追っ手をかけていたってのは屋敷のものもしらないのか?」
「ええ。というよりも、影かどうかを詮索しないようになってるのよ。入れ替わりを知るのはごく一部よ」
苦し紛れに聞いてみたのだが、その答えがクレイには気になった。
(完璧な影の使い方だ)
二線級の警備では影を立てても周囲の反応で見分けがつくことは良くあることだ。
影を影として置くのでなく、どこまで本人として置くのかは気を使うべきところとしては最たるものかもしれない。
(ただし、最重要人物ならだ。大公本人ならともかく、なぜクレアに? 過保護にしても過ぎるってもんだ。だとすると……)
大公にもウルザにもクレアこそがもっとも危険とわかっているということだ。
「……カラスはなんで琥珀を狙うんだろーな?」
クレイは、ふと思いついたように話を変えた。
ウルザもカイも戸惑いを浮かべてしまう。
「まーここで細かいこと言っても仕方ないから結論から言うと、奪われたものを取り戻しているんじゃないかって思うんだよな」
「……」
「カラス、琥珀、神殿、それらの中心に大公家、ならクレアはどんな位置にいるんだ?」
「……私もひとつきいていいかしら? あなた達はなかなか頭は悪くないようなのに、この件にかかわるのが危険を伴うことに気がつかないの? もし金儲けをたくらんでいるなら忠告しておくけど、そんなに甘いはなしではありませんよ」
そう、クレイの推測では神殿はひとつの民族を根絶やしにしている。
いやそれどころかうわさでは、ここ数十年の戦争のほとんどにかなりふかくかかわっているともいわれている。
流れ者のカイは言うに及ばず、下級貴族のクレイも平気で消せる相手だ。
「あー、なんていうか……」
クレイは少し言いにくそうに頭をかきながら、ちらりとカイと目をあわせて笑う。
「知らないならともかく、あんな子が難事に巻き込まれてるのに、ほうってはおけないってね」
おなじくカイも少し笑いを含んだように後を続ける。
「なにしろ、王都の民を守る治安警備隊の一員でもあるから」
その二人の様子に真実を嗅ぎ取ったのか、ウルザもそれまでのどこか攻撃的な気配をけし、思いもかけずやさしい笑みを見せる。
「後ひとつ。あなた達ははじめから私がカラスかその関係者と思っているようだけど、なぜかしら?」
カラスとウルザ。
かつてのカラスとの関係、先のカラスと思われるものとの関係。
本人なのか、それともカラスとはひとりでないのか。
はっきりしたことはわからないままだが、たしかにクレイもカイもウルザをはじめから『関係者』としてみていることを隠してない。
「‘緑の義賊団’のカシューだったか?」
めずらしくカイがつぶやくようにして口にしたのは、ある意味すべての始まりをもたらした名前だった。
「そう。かの英雄とも言われたカシューが見たんだそうだ。大公家にカラスが入り込んでるってな」
さすがのウルザも、あまりにも唐突に出てきた名前に目を丸くする。
「そう、あのカシューが……」
どうにも手強そうな相手ではあるが、そのウルザを驚かしたことにおもわず喜んでしまうクレイであった。
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