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2024/11/01 10:21 |
琥珀のカラス22/カイ(マリムラ)

――――――――――――――――――――――――――

人物:カイ クレイ

場所:王都イスカーナ

NPC:クレア

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 壊れかけた祠がひっそりと佇んでいた。

 木陰に紛れるように。誰かを待ちくたびれたかのように。静かに。

「ココ、他の人には秘密だからね?」

 クレイとカイを先導して歩いていたクレアは、唇の前に人差し指をそっと立てた。

 もちろん、二人とも口外する気は毛頭ないのだが、

「わかってるよ」

「ああ」

 小さく肩をすくめて答える。

 彼女は目元をほころばせると、手招きをしながら蝶番の外れた扉の隙間に入ろうとした。が、袖をクレイに掴まれ、首を傾げながら振り返る。

「あー、念のため聞いておく。」

「ん?何?」

「何処に続いてる?」

「私の部屋のクローゼット」

 それ、本当に安全なんだろうか。

「だいじょぶだいじょぶ。最後の扉は内側からしか開けられないから」

 昔からある王城等には、緊急時の脱出路が設けられていることがままある。主の寝室、要人の客室、場合によっては台所の竈の奥なんかにもあったりするのだ。

「中は迷路になってるから、ちゃんとついてきてね~」

 意気揚々と歩き出すクレアに、二人はついて行くしかなかった。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 あっちこっちに曲がるのだが、彼女は迷わずに歩き続けた。

(目印らしきもの、見つからないよな)

(馴れてる、な)

 ちょっと試しに振り返ってみれば、一本道に見えた所さえ枝分かれしている。

 行きは良い良い帰りは怖い。侵入者にも逃亡者にも、迷路は優しくないらしい。

「そろそろだよ」

 最後の階段を上った先は、行き止まりのようだった。

 取っ手もなければ、隙間もない。

「かん、かかん、かん、かかかかかん、かん、かん」

 何処から取り出したのか、クレアは細い金属棒で一カ所を突き始めた。

 おもむろに、耳を壁に寄せる。

『とととん、とん、とととととん、ととん、ととん、とととととととん』

 それは、壁の向こうからの返事だった。

「ウルザが待ちくたびれたって。人払いをしてから開けるからもう少し待ってね」



 待つことしばし。

 取っ手すらなかった壁は、面白いほどスムーズにスライドした。明るさに目がくらんだ。

「クレア様、お待ちしておりました」

 光を背に立つのはドレスの女性。顔はまだよく見えない。

 声質は若干クレアに似ているような気もする。

「……おとが…………したか?」

 扉の向こうから誰かの声がする。

「しばらく一人になりたいのよ。誰も部屋に近づけないで」

 クレアの声で答えたのは、クレアではなかった。……ウルザだ。

 ようやく見えてきた顔。クレアのドレスを着て影武者が務まるほどの、双子かと見間違うほどの、クレアにそっくりな女性が立っていた。

「クレア様はあちらで湯浴みとお着替えをなさってください。お二人は……何からお聞きになりたいですか?」

 少なくともさっきの<カラス>ではない、カイはそう思った。
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2006/07/30 00:45 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス

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