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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:クレア
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壊れかけた祠がひっそりと佇んでいた。
木陰に紛れるように。誰かを待ちくたびれたかのように。静かに。
「ココ、他の人には秘密だからね?」
クレイとカイを先導して歩いていたクレアは、唇の前に人差し指をそっと立てた。
もちろん、二人とも口外する気は毛頭ないのだが、
「わかってるよ」
「ああ」
小さく肩をすくめて答える。
彼女は目元をほころばせると、手招きをしながら蝶番の外れた扉の隙間に入ろうとした。が、袖をクレイに掴まれ、首を傾げながら振り返る。
「あー、念のため聞いておく。」
「ん?何?」
「何処に続いてる?」
「私の部屋のクローゼット」
それ、本当に安全なんだろうか。
「だいじょぶだいじょぶ。最後の扉は内側からしか開けられないから」
昔からある王城等には、緊急時の脱出路が設けられていることがままある。主の寝室、要人の客室、場合によっては台所の竈の奥なんかにもあったりするのだ。
「中は迷路になってるから、ちゃんとついてきてね~」
意気揚々と歩き出すクレアに、二人はついて行くしかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あっちこっちに曲がるのだが、彼女は迷わずに歩き続けた。
(目印らしきもの、見つからないよな)
(馴れてる、な)
ちょっと試しに振り返ってみれば、一本道に見えた所さえ枝分かれしている。
行きは良い良い帰りは怖い。侵入者にも逃亡者にも、迷路は優しくないらしい。
「そろそろだよ」
最後の階段を上った先は、行き止まりのようだった。
取っ手もなければ、隙間もない。
「かん、かかん、かん、かかかかかん、かん、かん」
何処から取り出したのか、クレアは細い金属棒で一カ所を突き始めた。
おもむろに、耳を壁に寄せる。
『とととん、とん、とととととん、ととん、ととん、とととととととん』
それは、壁の向こうからの返事だった。
「ウルザが待ちくたびれたって。人払いをしてから開けるからもう少し待ってね」
待つことしばし。
取っ手すらなかった壁は、面白いほどスムーズにスライドした。明るさに目がくらんだ。
「クレア様、お待ちしておりました」
光を背に立つのはドレスの女性。顔はまだよく見えない。
声質は若干クレアに似ているような気もする。
「……おとが…………したか?」
扉の向こうから誰かの声がする。
「しばらく一人になりたいのよ。誰も部屋に近づけないで」
クレアの声で答えたのは、クレアではなかった。……ウルザだ。
ようやく見えてきた顔。クレアのドレスを着て影武者が務まるほどの、双子かと見間違うほどの、クレアにそっくりな女性が立っていた。
「クレア様はあちらで湯浴みとお着替えをなさってください。お二人は……何からお聞きになりたいですか?」
少なくともさっきの<カラス>ではない、カイはそう思った。
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