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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
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朝焼けが街の陰影を際立たせ、黄昏時とはまた違った幻想感を演
出する。
「――え~こちらが、かつて宰相補佐まで排出しながら、ちんけな屋敷一つ
かろうじて都に残すのがせいぜいなとこまで堕ちてきた、中流貴族の、ロイ
ヤー家でございます。」
どこかしら、おどけた様子で、カラス2号ことルキアが案内してくれる。
目の前にはクレイあたりからすると、「これの何が不満?」といいたいぐら
いの屋敷がそびえている。
装飾こそ華美ではないが、しっかりした作りの屋敷が二棟、裏には街の中に
もかかわらず私有地の林があるようだ。
少し離れた建物の影から、屋敷の正門を指しているルキアのとなりでは、一
号ことウルザがニコニコとたたずんでいる。
クレアから離れたからなのか、覆面をしていても、言葉やしぐさ、伝わって
くる雰囲気が普段の二人にもどっているようだ。
「さて、どうする?」
カイがクレイを見ると、ウルザ・ルキアも注視する。
「殺るか?」
「皆殺しにする?」
「誰と誰を消せばいいのかしら?」
一応この中では穏便な意見を言うウルザはともかく、カイとルキアはかなり
目が本気だった。
(いやいやいや、ちょっとまて! ウルザもやばいだろ!)
とっさに自分に突っ込みを入れたクレイは、少し汗ばみながら三人を見る。
自然体ながらまったく隙をうかがわせないカイ。
陽気さをかもし出しながら影に鋭い刃の気配を持つルキア。
気配と同じようにどこかつかみ所の無いウルザ。
いつもどおり……のはずだが……。
(まさか寝不足とかじゃなかろうな?)
確かにこれまで調査や準備に忙しく、昨夜は予想以上に相手が乗ってきたた
めに一息つくまもなくいまに至ってるわけだから、あながち影響なしともいえ
ないだろうが。
「おいおい。 まさかこのまま乗り込んで……とかいわねぇだろうな?。」
冗談に紛らせるつもりで言ったクレイは次こそほんとに凍りついた。
「ん? 違うのか?」
淡々と疑問を口にするカイ。
「え? 違うの?」
不思議そうに小首をかしげるルキア。
「え? じゃあ火でもかけてあぶりだします?」
あら、と口元に手を当てて聞き返すウルザ。
……クレイは視線を東に向けて昇りつつある太陽に目を細める。
(ああ、わが相棒と夜の女神たち……。)
それでは俺たちのほうが悪党だよ、と口に出さずつぶやくと、手近な朝食の
取れるところまで移動することを伝えた。
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「……まずはロイヤーが石を求める理由だ。」
スープを軽く流し込んで落ち着いた四人は、そのままテーブルを囲んで話し
合いを始めた。
朝市のなかにある店はそれなりににぎわっており、こういう雑踏の中のほう
が密談には帰って最適なのである。
「特異能力者の製造じゃないの?」
スープだけでは物足りなかったのか、胡桃のパンをかじりながらルキアはク
レイにきいた。
「いや、それはかつて神殿が失敗したとデュランがいっていた。」
食後のお茶を手に取りながらカイが補足する。
「そうだ。 もしそっちの線だとすれば、神殿が見つけられなかった改善策
を見つけたということになる。
「つまり、過去の因縁と思いきや、関係ないロイヤーが出てくるからには、
きっかけが必要ってことね。」
ウルザはスープで満足したのか、つけあわせのピクルスを舌に載せてクレイ
に応じる。
どうでもいいが、覆面を取らない二人も二人なら、それで誰も気にしない周
りも周り……クレイがこの街に愛着を感じるのはこういうときかもしれない。
「たんに皆殺しにしたのでは俺たちはともかく、クレアの過去に弱点を残す
ことになる。」
クレイのような身分の低い貴族や、カイのような流れものならともかく、大
公家をせおっていくクレアはこれからどんな些細なことが致命傷になるかもわ
からない人生を歩くことになる。
そんななかに過去に理由の明らかにできない惨殺事件があってはまずすぎる
というクレイの考えは至極的を得ていたので、三人も納得して聞いた。
「いいか、まず神殿に捨てられたやつらトロイヤーの接触、ロイヤー家自体
の事情、この二点に絞って裏を取ろう。 根を突き止めれば最小限の攻撃で戦
果を挙げれるからな。」
「4人では戦争はできんしな。」
クレイとカイにん対の意見は出なかった。
「よし、俺たちはロイヤーの家に仕えていたことの有るやつらからあたって
みるが、こういうときは『裏』を期待したいところだ。」
そういったクレイに笑顔で答えたルキアとウルザは席を立つ。
「OK。 じゃあ夜にもう一度会いましょう。」
「どのみち閣下に報告に行くのでしょうし、そのまま屋敷でお待ちください
ね。」
お金を机に出しながらクレイも席をたつ。
「クレアをいつまでもほうっとくわけにも行かないからな。 可能な限り最
速でいこう。」
こういうところは貴族だな。
カイは机の上に4人分のお金があるのを確認すると、自分も席を立った。
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