忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/18 23:33 |
火の山に望み追うは虹の橋 第十節 angstlich/狛楼櫻華(生物)
PC:ノクテュルヌ・ウィンデッシュウグレーツ 狛楼櫻華 スイ
場所:ダグムス村~ヴァルメスト山・廃鉱
NPC:アール・グレイ

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 夜もすっかり更けてきた。ノクテュルヌはまだあの三人組と飲んでいるのだろう
か。開け放った窓から月明かりが差し込む。雲一つ無い星空を櫻華はぼんやりと眺め
ていた。
「やれやれ、大変な娘についてきてしまったか」
 ため息を一つついて湯のみに口をつける。淹れてから大分時間が経ってしまってぬ
るくなってしまった緑茶は渋みが一層際立っていた。
「渋い顔してるな」
 窓の下から声が聞こえてきた。顔を向けると先ほどまでノクテュルヌと飲んでいた
男の一人だ。
「よう、そういやまだ名乗ってなかったな。俺はアール、アール・グレイだ。あんた
は?」
 大柄なアールは豪快な笑みを櫻華に向けた。武装は外していたが服装は動きやすそ
うなごく普通の冒険者の格好だ。茶色の髪の隙間から同じ色の瞳が鋭く光っていた。
「狛楼」
 短くそう返した櫻華にアールは額に手を当てて大きく笑った。よく笑う男だ。
「はっはっは、いや、あんたには嫌われたかな。金髪の嬢ちゃんとは仲良くなれそう
だったんだがな」
 屈託の無い顔で笑うと、酒瓶をあおる。ノクテュルヌとのやりとりを見ていたが、
なかなか豪胆な男のようだ。
「それで、お前は私になにか用か?」
 櫻華は月明かりに照らされながら無表情にアールを見下ろす。
「美人に声をかけるのに理由がいるのか?」
「理由も無く声をかけられる方としては迷惑なんだがな」
 櫻華の容赦の無い言葉にアールは苦笑する。そして少し考えるような表情をしたか
と思うと真摯な視線を櫻華に向けた。
「理由がないとは言わない。ただ、口説き文句にしては硬かったもんでな」
 櫻華の部屋から正面に位置する木にもたれかかると、アールは再び酒をあおった。
「あんたら、本当にヴァルメストの廃鉱に入るつもりか?」
「ああ、そのためにここまで来たのだからな」
「それはあんたの意思でか?」
 アールは鋭い眼差しを櫻華に向ける。それは修羅場を数多く体験してきた者の眼だ
った。アールがよく笑うのは常に死が隣り合わせの日常を一時でも忘れるためではな
いかと、櫻華はふと思った。
「私の意志でもある」
「なるほど、金髪の嬢ちゃんに付き合ってか」
 顔を少し伏せてアールは呟いた。
「私達が廃鉱に入るとなにか不都合があるのか?」
「別に、あんたらがあそこへ入るのには問題無い。ただな、あんたの連れの一人、な
んて名前だったかな、あのぼーっとしてた奴だ」
「スイのことか」
 いつの間にか姿を消したスイ。必要以上に干渉するつもりは櫻華にはないが、ダヴ
ィードの私兵ということもあって警戒は怠るべきはないとも思う。
「まあ、名前はこの際どうでもいい。奴はダヴィードに雇われた傭兵だろ?」
「知っているのか?」
「ダヴィードには俺達も雇われてたからな。その時に見たことがある。なぜ一緒にい
るかは知らないが、もしもまだダヴィードに雇われているのなら気をつけたほうがい
いぞ。野郎は腹黒いからな」
 そこまで言うと、アールは再び笑顔を浮かべた。
「まあ、名高い狛楼山の仙女にこんなことを言ってもしょうがないがな」
「食えん男だな」
 櫻華は少し微笑んで、それから窓を閉じた。
「……、玉砕覚悟で誘った方がよかったかな」
 アールは苦笑すると、酒瓶を肩に担いでふらふらと歩き出した。

        ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ダグムスの村から二時間ほど山を登ったところに廃鉱はあった。案の定、出発は昼
前になったが――原因は言うまでもなくノクテュルヌである――それほど離れていな
かったことが救いである。
「廃鉱ってわりには魔物とかの気配しないね」
 ノクテュルヌが廃鉱の中を覗き込みながら少し残念そうに言う。
「ダヴィードが管理しているし、残った水晶や遺跡目当ての冒険者が集まってくるか
らな」
 ランプに火を灯していたスイが答える。ランプを持って立ち上がったスイを櫻華は
黙って見据えていた。
 アール達は朝早くに村を去ったと聞いた。何を思って櫻華にあんなことを言ったの
かはわからない。ただ、やはりスイには注意しておいた方がいいだろう。
「なんだ?」
「いや、道はわかってるのか?」
 当たり障りの無い言葉で櫻華はその場を濁す。短い沈黙が漂ったが、ノクテュルヌ
が相変わらずの表情で二人の間に割って入った。
「ほらほら、行けばわかるよ、なんとかなるよ。しゅっぱーつ」
 櫻華とスイの手を握って、ノクテュルヌは廃鉱の中へと二人を引っ張っていった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
angstlich[独]おじ気づいた、心配そうな
PR

2007/02/10 17:23 | Comments(0) | TrackBack() | ●火の山に望み追うは虹の橋

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<火の山に望み追うは虹の橋 第九節 trascinando/スイ(フンヅワーラー) | HOME | 火の山に望み追うは虹の橋 第11節 Carolina Rua/ノクテュルヌ(Caku)>>
忍者ブログ[PR]