忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/18 23:47 |
火の山に望み追うは虹の橋 第九節 trascinando/スイ(フンヅワーラー)
PC:ノクテュルヌ 狛楼櫻華 スイ
NPC:イーサ、ナンパ3人衆
場所:街道 
----------------------------------------------------------------
「……朝に出て、四半日かかる道のりで、なぜ、こんなにもとっぷりと日が暮れ
ているのだ?」

 眉間に手を当てながら、櫻華は赤い空が深い青に染まりかけ始めた空に向かっ
て嘆いた。

「ねー。不思議だねぇ。
 あの、おじさん、嘘ついたのかなぁ?」

 櫻華の着物の裾をつかみながら、ノクテュルヌが応ずる。
 それを振り払いながら、櫻華はノクテュルヌをチラリと睨む。

「蝶が舞っていれば追いかけ。クローバーの群生を見つけたら、四葉のクロー
バーを見つけ出すまで動かず。何もなくても、突如野原に寝転んで、ゴロゴロ転
がったりした人のせいだとは思わないのか?」

「……まぁ、尺度は人それぞれだからな。多少の誤差は仕方ないだろう」

 蓮華の花の輪を、頭に載せたスイがボソリと呟く。先ほど、ノクテュルヌが
作ったものだ。櫻華にも、あやうくおそろいの花飾りを載せられそうになった
が、丁重に断った。
 思うに、スイは、心なしか椿に甘くないだろうか。
 スイの頭上の蓮華の花飾りを見ながら、ほんのりと、櫻華はそう感じた。

「ある程度の旅費はダヴィードから貰っている。
 今日は、ここで泊まるか」

 辺りの様子は、小規模な村にしては、夕方だというのにそんなに静けさと寂し
さを感じさせない雰囲気であった。
 向こうの方から、3人ほどの人の影が見えた。その人影の風体は、どうみても
まっとうな生活をしているというようには見えなかった。恐らく、この小さな村
にありがちな雰囲気でない原因は彼らによるものだろう。
 その3人が、こちらに気づいた。

「よぉ、あんたらも、お仲間かい?」

 真ん中の男が気軽そうに、声をかけてきた

「今、ここに来たばかりか? 今から、飲みに行くんだが、付き合わないか?」

「いや、いい。遠慮する」

 これに答えたのが櫻華だ。
 特に、相手から下卑た感じはしないが、かといって、応じる理由も無い。

「それより、泊まれる所を教えてくれると助かる」

「つれないなぁ。そんなに、怪しく見える?」

 苦笑いしながら、頭をかく。

「それじゃぁ、さ。ただで泊まれるところ教えてあげるから……って、一緒に泊
まるとかそんなんじゃなくて……だから、30分ほどだけでいいから、付き合っ
てよ」

 左隣の男が、少し気弱そうに切り出す。

「どうせ、ご飯まだなんでしょ? 食事ができるところって、今から行くところ
だけだから、ついでに、さ」

 右隣の男が、少し強引に薦める。

「たまにはさ、綺麗な女の子と食べて潤いたいっていうお兄さん達の小さな願
い、叶えてよ。ね?
 そこの、彼氏も、ちょっとぐらい、潤い分けてもらってもいいでしょ?」

 そして最後に、再び真ん中の男が、今度はスイに向かって拝む。
 スイは、表情を何一つ変えていない。彼氏でないのだから、反応の仕様が無
い、というところだろうか。
 それでも、断ろうとした櫻華の台詞の前に、ノクテュルヌのお腹が返事した。
 すなわち、ぐぅ~、という、空腹を示す音。

「お腹空いたぁ~」

 その彼女の様子に、櫻華は思わず苦笑した。自分一人の旅とは違うのだ、とそ
の時、実感したのだ。
 食事を必要としない彼女一人の旅とは違い、普通の人間は「空腹」を感じ、そ
して「食事」のことを考えなければならないのだと。

「すまない。それじゃぁ、頼む」

   *     *     *

「それじゃぁ、ヴァルメストの山の廃鉱は、鉱物が尽きたということではないの
か」

 櫻華が、水を口にしながら、男たちに切り出した。
 スイは、少し離れたところで、一人でスペアリブにかじりついていた。まだ、
花飾りは頭に載せている。……気に入ったのだろうか。

「そうそう。あまりにも無計画に掘り進めたから、迷路のようになってね。
 崩れやすくなって、閉鎖されたんだよ」

「んで、俺達みたいなのが、そのおこぼれを細々と採掘してるわけ」

「ひのひはけ?」

 溶いた小麦粉と野菜をあわせたお焼きを頬張りながら、ノクテュルヌが質問す
る。どうやら、「命懸け」と言いたいらしい。

「そうそ! そのとおり!
 それにね、そこには残った水晶だけじゃないんだよ。
 どうやら、遺跡も埋まってるようでね。それ目当てのヤツも結構いるんだよ
ね。ってか、俺らも、それ目当てだけども」

 ここで、男は、声のトーンを落とす。別段、他に人がいるというわけでもない
ので、それは、気分的なものなのだろう。

「噂によるとね、虹をかけるための『楽譜』があるっていうんだよ、あの伝説
の」

 ……とっくに、知っている(むしろ、目的である)情報であった。
 折角、誇らしげに語るのだ、ここは、「へぇ」だとか「ほぉ」だとかの、相槌
を打っておくほうが相手の為であろう、と櫻華は大人の対応を取ろうと決めた。
 その、まさしく、「ほぉ」という言葉を言おうとした時。

「知ってるよ? っていうか、それの為に来たんだもんねー、櫻華ちゃん」

 ……何故、この娘は、こうも天真爛漫なのか。
 思わず、額に手を当てる櫻華。
 堂々と、商売敵だと宣言してどうする。
 軽く、覚悟を決める。
 しかし、それを吹き飛ばす豪快な笑い声がその覚悟を掻っ攫った。

「そうか! お嬢ちゃん達もそうか!」

 思わず、拍子抜けする櫻華。

「いやぁ、あんた達みたいな別嬪さんが、もし、虹を架けることがあれば、さぞ
や絵になるんだろうネェ!」

「『もし』、じゃなくて、架けるんです」

 にっこりと、しかし、一歩も引かない様子で、受け答えするノクテュルヌ。
 それを聞いて、さらに大きな笑い声が沸く。
 それは、多少のからかいの色が含まれていたが、決して悪意的ではなかった。

「こりゃぁいいや、期待してるよ。
 呑みな呑みな! 気に入ったよ、お嬢ちゃん」

「わーい。いただきまーす」

 両手でグラスを煽るノクテュルヌの耳元に、櫻華は小声で囁く。

「少しは言動に気をつけろ。一つ間違えれば、険悪なモノになってもおかしくな
かったぞ」

「大丈夫」

 声のボリュームを落とした櫻華の気遣いを無視して、ノクテュルヌは普通の声
のトーンで返してきた。

「これでも結構、人、見る目あるんだよ?」

 極上の笑顔。
 何度、その顔で黙らされたことか。……そう、自覚しながら、櫻華はまたも
や、何も言えなかった。
 それだけの魅力が、彼女の笑顔にはあった。

「……もう、いい」

 諦めたように、吐息する。
 そこで、ようやく気づく。

「……スイはどうした?」

 カウンターの上には、晩餐の残骸である骨と、ソースの付いた皿、そしてしお
れた花輪が置いてあった。

   *     *     *

「イーサ」
「うおぁぁぁぁぁ!!!」

 不意に、暗闇からぼそりと静かな声に、イーサは過剰反応した。
 背後を振り返ると、そこにはスイが、眉間にしわを寄せて、耳を塞いで立って
いた。

「……馬鹿でかい声を出すな。耳が痛い」

「て、てめぇが、イキナリ声をかけるから……!」

 イーサの目の端に、キラリと光るモノがあったが、スイはあえてそれについて
言及しなかった。

「……いきなり以外での声のかけ方を聞きたいものだが……。
 まぁ、いい。そんなことを話しに来たんじゃない。お前も、そんなためにここ
に来たわけじゃないだろう」

「そ、そうだ。
 スイ、オメェ、一体……どういうつもりだ?」

「それこそ、こちらが聞きたい。
 どういうつもりだ。出発前、アンタが襲うことを聞いて、正直驚いた」

 聞いていたのか。
 イーサの目が大きく見開く。

「じゃ……じゃぁ、なんで……」

 擦れた声が聞こえなかったのか、それとも無視されただけのことなのか。スイ
は、良く徹る声を出した。

「何故、仲間で、命のやり取りをするような、馬鹿な真似をふっかけた」

「し、死人がでてるんだぞ!? こっちはよ!!
 お、オマエが、殺したんだ!!」

 たまらず、叫ぶイーサ。しかし震えでその声は、夜の空気にそんなには響かな
かった。

「馬鹿な真似!? それはオマエだよ! 殺すことはなかった。アンタはそれを
分かっていたはずだ!
 何故、殺したんだ!? あんなに圧倒的なら、殺さずに済んだろうに!!」

 イーサは、顔を上げて、スイを見た。
 スイは、いつもの無表情ではなかった。その顔は……形容するなら、そう。
『キョトン』とした顔、という表現がぴったりだった。
 イーサの背筋に、戦慄が走った。

「……刃を向けたら、死を覚悟しているのは当然だろう?」

 イーサは絶句した。
 コイツは、世界が違う。
 生きている世界が、違う。
 見ている世界が、違う。

「おま……えは……。女だろう。
 何故、そんな……」

 苛烈な生き方をするのか。

「男女の差に、何故、それが関係する?」

「お、オレが……」

 イーサが何か言いかける。
 しかし、スイはそれをまたもや塞ぐ。

「警告はした。
 言ったはずだろう。『私一人でやる』、と」

 あの、台詞は、イーサに放ったものだったのか……。
 どうでもいいと思えた台詞が、イーサの内で色身を帯びて蘇る。

「死んでしまった人や、怪我をさせてしまった人に哀れみは持てるが、謝罪の気
持ちはない。
 少なくとも、私は、死ぬ可能性や、腕を切り落とされる覚悟で、いつも臨んで
いる」

 もう、言葉は出てこない。
 なんだかひどくやりきれない思いになったが、だからといって、その思いが言
葉になるとは限らない。

「何を思ったのか、知らないが……。私に、任せてくれないか」

 わずかに、スイの声に懇願が含まれた。少し、申し訳なさそうに。

「私は、できれば、イーサ、お前を殺したくない」

 しかし、それゆえに、その台詞の残酷さが際立った。

 先ほど、イーサが言いかけた台詞。……今では、完全に、その言葉は、イーサ
の内で冷たく横たわっているが。
 それは、「何故、自分がお前の仕事を横取りするような真似をしたのか」とい
う、答えを用意した問いかけだった。
 『女』だからだ。
 その言葉に内包された、労りと蔑み。イーサはそれに気づいていない。そこま
で考え込める男ではなかった。ただ、イーサにとっては、それだけで、十分に理
由付けられたものだったのだ。
 しかし、そんな、愚かな男ですら、理解できた。
 スイは、女でも、男でもない。

 ただの、トチ狂った人間だ。

「狂っている、と思うか」

 まるで、イーサの思考を読んだかのように、スイが言い当てる。
 その言動に、思わずビクリと身体を強張らせるイーサ。

「大抵、そんな目をした奴は、私に、そう言う」

 イーサは、何も反応できない。
 一刻も早く、この狂った空間から逃げ出したかった。
 それを感じたのか、スイが、イーサに背を向け、歩き出した。
 イーサは、呆然としながら、その背中を見送っていたその時。スイの足が止
まった。

「そうだ。
 私に、ある女性がこう言ったんだ。
 私を、神に仕え戦う高潔で潔癖な騎士、だと。一角獣に似ていると。
 イーサ、どう思う?」

 吐き捨てるように、イーサは言った。

「その神様は、きっと狂っているんだろうよ。
 ……なんにしても、それを言った女は、頭のイカれた女だ」

 スイは、その回答を聞いて、少しだけ満足そうな顔をし、再び歩き出した。

   *     *     *

「椿」

 櫻華がノクテュルヌに呼びかける。

「人を見る目があるというのなら……スイはどうなんだ?
 信用していいのか?」

 ワイングラスを持ったノクチュルヌの手が止まる。

「んーーーー。
 スイちゃんは、指針がシンプルだから。
 誰かの為に、方向を合わせるってことは、しないと思うんだ。
 だから、信用とか……違うんだけども、信じられる、みたいな。
 何かの方向に向かっているっていることだけは確かみたいなんだよね」

「……なんだ? それ」

「あはははー。私もわかんないや」

 そう言って、無邪気な笑顔のトラビアータは、ワイングラスを煽り、グラスを
空にした。

 頭のイカれた女
        ――――トラビアータ

----------------------------------------------------------------
trascinando〔伊〕 (トラシナンド)     
 引きずるように、おさえて
 || →trascinare  「他動」 引きずる、無理矢理連れて行く、導く、魅惑する

PR

2007/02/10 17:23 | Comments(0) | TrackBack() | ●火の山に望み追うは虹の橋

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<火の山に望み追うは虹の橋 第八節 『悲歌(エレジー)』/ノクテュルヌ(Caku) | HOME | 火の山に望み追うは虹の橋 第十節 angstlich/狛楼櫻華(生物)>>
忍者ブログ[PR]