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2024/05/18 23:07 |
火の山に望み追うは虹の橋 第八節 『悲歌(エレジー)』/ノクテュルヌ(Caku)
PC:ノクテュルヌ 狛楼櫻華 スイ
場所:街道 


―――――――――――――――――――――――――――――――――

「スイちゃんねぇ、私の大好きな人に似てるんだよねぇ」
哀れ野党一味が殲滅されかかったのは少し前、スイの見事な手際を見たゆえ
か、彼女はいきなりそう切り出した。
「恋人か?」
と、櫻華が疑問を口に出した。
といいつつも、ノクテュルヌの隣に立てる人物像が特定できないらしく、興味
と疑惑を等分に配置した視線で問いかける。
スイは、無言であった。

女三人で歩きつつ、彼女はどこか遠くを眺めた。
「多分、恋人とゆーかなんとゆーか。相手は30代だったしねぇ」
その後半部分に、思いっきり咳き込む櫻華。スイも何故かこちらに視線を投げ
るリアクションを披露。
「いくつ離れてたんだ!?」
[えと、15ぐらい?かな]
「・・・私はそんなに老けて見えたのか」
「問題はそっちなのか!?」
「あ、違う違う。心のほうが似てるの、スイちゃんはまだ若いよー」
頭をなでなでされても、さして肯定も否定もしないスイ。これも傍目から見る
と謎の一場面である。


「結婚とか、そういうは考えなかったのか?いや、無粋なら答えなくて
も・・・」
「もーしてるよ?」

「・・・・・・・・・・・」

「と、いっても戸籍だけだけど。あ、結婚式の引き出物欲しいって思ったでし
ょ?」
「違うだろ」
即答切り返し。さすが剣の名手であった、それは会話にも発揮される。
「何が貰えるんだ?」
「スイちゃん欲しいの?」
「モノによるが」
会話の論点はずれまくる。テンポがいいのか悪いのかはご愛嬌。


なんとか話が修正されたのはそれから30分後の事。
「駄目なんだよ」
「何がだ?」

ぽつりと呟いた後の微笑みは、意表をついた。
それは『虹追い』ではなく『人』としての微笑だった。
浮世めいた仕草と言動で、まるで人間ではなく物語の主人公のような違和感を
もつ彼女だが、その時は確かに「人」だった。

「私の好きな人は“一角獣”。
それはね、神様の獣。神様に仕え戦う高潔で潔癖な騎士。
彼は神様のために戦い、走るの。駆ける剣となって、神の座、天上を目指す者
だから」
彼女は、そのとき一人のただの女性だった。
「彼は神様の場所まで行かなきゃいけない。だって、彼の主は天にいるんだか
ら。
だから、彼は駆けるの。大地を駆けて、海を越えて、山を飛び越え野を過ぎ
る。でも、彼には翼がないから、直接空へは行けないの。だから駆けるの。
空と大地が出会う“地平線”まで。決して届かない場所を求めて世界を駆け
る」
ここはヴァルカン、山々が地平を支配し、その地平線は見えない。
それでも、彼女は地平線を見ているように遠くを見ていた。

「どんなに走ってもね、彼は空に辿り着けない。
だって、おかしいじゃない?天空は上に、大地は下に。大地から離れられない
彼は、大地と空が触れ合う場所までいって、そして空へ行こうとするの。大地
を必死に駆けて。
だから空には、神様の場所には、彼は決して行けないの」
だから、と続ける。
「私たちは瓜二つ。
神様の場所を求め、神様の書物を求め。彼は地平線を見、私は空を見上げる。
おんなじようなものを求めてるのに、おんなじものを探してるのに、私と彼の
道は絶対重ならないの。
だって彼は常に地平線を求めて駆けて、私は虹を求めて空を見上げるの。どっ
ちも手に入らないし、触れられないのにね」
それに、と最後はどこか諦めのような微笑で。

「見つめ合ったままじゃあ、青空の向こうは見えないしね」


ラルヴァの村まで、もう少し。
ヴァルメストの偉大な峰が、青空の向こうに聳え立つ。

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2007/02/10 17:22 | Comments(0) | TrackBack() | ●火の山に望み追うは虹の橋

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