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2024/05/19 01:29 |
火の山に望み追うは虹の橋 第七節 tempestoso/狛楼櫻華(生物)
PC:ノクテュルヌ・ウィンデッシュウグレーツ 狛楼櫻華 スイ
場所:ヴァルカン~街道 
NPC:イーサ以下悪党ご一行様

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 スイが紹介してくれた宿を出て櫻華は少し歩く。東の空が薄く朱に染まり始める。
もうじき夜明けだ。

「ふぅ」

 街外れの丘まで来て櫻華は溜息をついた。ダヴィードの息のかかった――聞こえは
悪いが事実その通りである――宿は思いっきり豪華だった。普段こういう所に慣れて
いない櫻華はあまりよく眠れなかったのだ。

「この程度で眠れなくなるとは、修行不足か」

 ノクテュルヌは自分のベッドの中で今も夢の中だ。自嘲気味に笑って空を仰ぐ。東
から明るくなる空は茜、空、紺、のグラデーションの中に星が瞬いていた。

「夜明けの空を眺めるのも久しぶりだな……」

 手頃な大きさの岩に腰掛けて櫻華は呟く。ふと修行時代の想い出がよぎる。夜通し
翁や兄弟弟子と仙術と体術の修行をして夜明け頃になると昇って来る日を眺めてい
た。

「そろそろ戻るか」

 すっかり日が昇りきり、櫻華はもと来た道を引き帰す。ノクテュルヌはもう起きて
いるだろうか?

 目覚め始めたヴァルカンの街を横目に櫻華は宿、ブルーディランに向かう。早起き
の――もしくは徹夜の――鍛冶屋から鉄を打つ音が響いてくる。その音を聞きながら
櫻華は宿のドアを開く。

「早いな」

 ドアに手をかけたまま櫻華はロビーのソファーに座っているスイに言った。

「……朝迎えに来ると言ったと思う」

 人通りの少ない通りをガラス越しに見ながらスイはそう返した。

「そうだったな。今椿を呼んでくる」

 スイに告げて、絨毯の敷かれた階段――やり過ぎだと思う――を上がり、櫻華は部
屋の前で立ち止まりノックをする。が、返事は返って来ない。まだ寝ているのだろう
か。

「椿、まだ寝ているのか?」

 返事は無い。やはり寝ているのだろう。

「入るぞ」

 一言断って櫻華は部屋へと入る。カーテンの閉められた部屋は薄暗く、開きっぱな
しのクローゼットにはハンガーにノクテュルヌのコートとパンツがかかっていた。ブ
ーツが脇に置かれたベッドの上でシーツがもぞもぞと動いている。

「起きろ椿、出るぞ」

 ベッドの横でとりあえず声をかけてみる。が、反応は無い。

「起きろ、朝だぞ」

 今度は揺さぶってみる。

「うーるーさーいぃ」

 恨めし気な声を上げ、ノクテュルヌは手をぶんぶん振り回す。運悪くその手が櫻華
の顔面にぶち当たる。

「あうっ」

 顔を押える櫻華をよそにノクテュルヌはシーツを頭から被り直して再び夢の世界へ
入り込む。

「くっ、起きろ!」

 櫻華は大声を上げて、ノクテュルヌの被っているシーツを引っぺがし床に投げ捨て
る。

 うー、と枕を抱きしめながら唸ったと思うと、ノクテュルヌはゆっくりと上体を起
こした。ようやく起きたか。

「スイも下で待っている。いつまで寝ぼけてないで早く用意をしろ」

「とおりゃあ」

 半目のノクテュルヌは枕を抱きしめたままいきなり櫻華に足に蹴りをいれて床に倒
すと、枕を放り投げ今度は櫻華に抱き着いてくる。

「うぅん、わんこぉ……ふわふわぁ」

「こら、誰が犬だ! 寝ぼけるな!」

 思いっきり抱き着いてくるノクテュルヌを押しの返しながら叫ぶ。今まで押し倒さ
れそうになった経験などないが、このままだと何か物凄く嫌な予感がする。

「わんこ、わんこぉ。よしよしぃ」

「待て! いい加減にしろぉおお!」

 上の階から聞こえてくる櫻華の叫び声を聞きながらスイは朝のコーヒーをウェイタ
ーに頼んでいた。

      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……遅かったな」

 三枚目のガーリックトーストをかじりながらスイは疲労を顔一面に湛えた櫻華と、
眠そうにあくびをしているノクテュルヌに言葉を投げる。

「ああ……。すまないな」

 櫻華がノクテュルヌを起こしに行ってからかれこれ四半時は経っている。遅いと非
難されても仕方が無い。

「ねぇ、櫻華ちゃん。お腹減った」

 寝癖のままのノクテュルヌがのほほーんと言い放つ。その言葉に櫻華のこめかみと
眉間がぴくっと動いた。

「好きなだけ食えばいいだろう……」

「やぁ、櫻華ちゃん怖い」

 台詞とは裏腹にノクテュルヌは笑いながらスイの隣に座り、ウェイターを呼ぶ。溜
息を漏らしてから、櫻華も同じテーブルにつく。

「えっとね、コーヒーとベーグルサンド。あ、コーヒーはミルクとお砂糖たっぷり
ね」

「かしこまりました」

 慇懃に頭を下げてウェイターは戻って行った。

「櫻華ちゃんは何も食べないの?」

「私は基本的に食べなくても生きていける」

 髪を直しながら尋ねるノクテュルヌに櫻華は溜息混じりに応える。ノクテュルヌと
出会ってから櫻華は自分の修行不足を実感させられるような気がする。

「へぇ、でも昨日は食べてたよね?」

 感心した様子のノクテュルヌに、櫻華は苦笑しつつ言葉を続ける。

「純粋に食を楽しむために食べることもある。私達、俗に仙人と呼ばれる者は食事を
摂らなくても死なないが、食の楽しみが無くなるとやはり生きていて味気ないから
な」

「そういうものか?」

 スイがコーヒーを飲みながら呟く。まあ、浮世離れしすぎて、俗世の人間に言わせ
ればそうなのだろう。

「そうだよねー。やっぱり食べるって楽しいよね」

 運ばれてきたベーグルサンドを笑顔で頬張るノクテュルヌ。その様子を見て櫻華も
食欲を刺激される。

「やはり私も何かもらおう」

 そう言って、櫻華は軽い食事を注文した。

      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「くそっ! まだこねぇのかよ」

 木の陰に隠れてむさ苦しい顔を更に見難く歪めてイーサは毒づいた。もうとっくに
お天道様は頭の上を通り過ぎていた。

「スイの野郎、朝に出るつったじゃねぇか。ありゃ、ウソか? あぁ?」

 野郎という表現は間違っているが、イーサのボキャブラリーではそれに代わる言葉
が浮かばないのだ。

「そ、そんな、俺に言わないでくれよ兄貴ぃ」

 八つ当たりされ、弟分のブランは冷や汗流して慌てる。しかし、イーサの苛立ちも
わかる。スイの話しでは朝の内に宿を出るということだった。それが本当ならばもう
とっくにイーサ達が待ち伏せしている場所を通りかかるはずだった。

「……イーサの兄貴、もしかして場所間違えました?」

「………………ば、バカヤロウ! 俺がそんなヘマするわきゃねぇだろ!」

 もしかして、という自分に都合の悪い想像を振り払いイーサはブランの頭を殴る。

「ひでぇよ、兄貴。冗談なのに」

「きやしたぜ!」

 涙目で抗議をするブランの横から櫻華達の到着を告げる声が上がる。

「そうか! へ、へっへっへ。この顔の恨み。晴らしてやるぜぇ」

 イーサは街道の向こうから歩いてくる三人組みを確認して、低くなった――元々大
して高くなかったが――鼻の触れながら低く笑った。

「行くぞ野郎ドモ!」

「ヘイッ、兄貴!」

 イーサの声に、呼応して男達が三人を取り囲む。イーサ達は一応正式にギルドに登
録しているハンターなのだが。どうみても野党の類にしか見えない。

「なんだ? 金なら無いぞ」

 イーサ達を一瞥して櫻華はすぐにそう吐き捨てた。ノクテュルヌは面白そうといっ
た感じでそれぞれの顔を見渡している。スイに至っては全く興味無しという感じだ。

「俺たちゃ盗賊じゃねぇよ。この顔を忘れたとはいわせねぇぞ!」

 櫻華達の態度に激昂するイーサ。更に不細工になってしまった自分の鼻を指差して
叫ぶ。

「……悪いな。お前の様な不細工な野党に知り合いはいない」

「て、テメェ! ふざけんな。俺たちゃ野党でも盗賊でも海賊でも山賊でもねぇ!」

「あ、兄貴落ちついて。野党に間違えられるのはいつもことじゃねぇですかい。それ
より今はやる事があるでしょう」

「そ、そうだったな」

 ブランに窘められ、コホンと咳払いをしてから、イーサはノクテュルヌを指差して
高らかに声を上げる。

「そこの金髪のネェちゃん、アンタは鍵を持ってるはずだ。そいつを渡してもらおう
か。そうすりゃ、痛い目みないで済ませてやる」

 イーサの言葉に、ノクテュルヌは顎に人差し指をあてて小首を傾げる。

「鍵? ……うーん、なにそれ?」

「しらばっくれてもダメだぜ。調べはちゃぁんとついてんだからよ」

 下卑た笑いをあげて、しばらく考えていたノクテュルヌはぽんと手を打ってけたけ
たと笑い出す。

「ああ、もしかしてあれのことかな。あー、でも君達、特に君みたいな不細工には扱
えないと思うよ」

 にこやかにそう指を刺され返され、イーサは一瞬絶句してしまう。そして次の瞬間
顔を真っ赤に染め上げる。ただまだ内出血で青黒くなった鼻の部分はそのままだ。

「見て見てマンドリルみたい」

 服の袖をひっぱりながらはしゃぐノクテュルヌに対して、櫻華は冷静に言葉を返し
た。

「そんなこと言ったらマンドリルに失礼だろう」

「あ、それもそうか。じゃあ、あれなんだろ?」

「あ、兄貴ィ。完全にバカにされてますぜ」

 ブランは恐る恐るイーサに言った。イーサのこめかみにはぶっとく血管が浮きあが
り、今にも破裂して血が吹き出てきそうな勢いで脈打っている。

「ふ・ざ・け・や・が・っ・てぇええええええええええええ!!!! かまわねぇ、
野郎ドモやっちまえ!」

「おぉう!」

 イーサの絶叫で男達が一斉に剣を抜いた。それを見やって櫻華とノクテュルヌはそ
れぞれの武器に手をかけた瞬間。

「ぬごっ」

 二人の背後からくぐもった悲鳴が響いた。その場全員が同じ場所に視線をやった。

「私一人でやる……手を出すな」

 先程までのぼーっとした雰囲気とは打って変わって、餓えた獣の様な雰囲気で槍を
構えるスイが櫻華を睨みつける。

「……わかった」

「えー、つまんなぁーい」

 三日月型のハープを片手にブーイングをするノクテュルヌを手で制して櫻華はとり
あえず周囲に気を配る。どうやら野党――櫻華の中では野党に決定したらしい――は
スイにターゲットを絞った様だ。

「ケッ、そんなほせぇ腕で何しようってんだ!」

 野党の一人が大振りに剣を振り回す。スイはそれを軽々とかわすと槍の刃に巻きつ
けていた真っ白な革布を引き剥がすと鞭の様にしならせ野党の顔を打ちつける。

「あが」

 たまらず顔を押える野党の胴を、槍の腹で薙いでふっ飛ばす。左腕を回転させ、革
布を腕に巻きつけたスイは低く唸る様に言葉を吐いた。

「来い、手加減は……期待するな」

「ふざけやがって!」

 数人が一斉にスイに襲いかかる。一瞥もくれず、スイは正面の野党の足を柄で払
い、倒れてきた野党の頭に蹴りを入れると回転しながら左側と背後の野党の足を斬り
つける。更に迫ってきた野党を勢いを殺さず蹴り飛ばす。

 そのまま横っ飛びで野党の一人の肩口に槍を突き刺し上に薙ぐ。返り血を浴びるよ
り早く次の目標に向かって突きを放つ。心臓を突かれ絶命した野党から槍を引きぬく
と、低い体勢で向かってくる野党の頭に思いっきり槍を振り下ろす。

 振りぬいた反動を利用して頭蓋を砕かれ倒れる野党の背後のもう一人の喉目掛け飛
び蹴りのつま先を叩き込む。着地と動じに首を折り大勢を立て直す。

「つ、つえぇ……」

 一瞬にして八人倒された。イーサは嫌な汗が背中に流れるのを感じた。今この瞬間
にも、スイは悪夢の中で吹き荒れる嵐の様にイーサの仲間をなぎ倒していく。
 
 まさかここまで強いとは。手加減は期待するなと言ったが、イーサはこの場限りの
方便だと思っていた。だが、どうやらスイは本気だったようだ。悪い冗談にしては被
害が大き過ぎる。

「兄貴、ヤバイよ。こままじゃ……俺達皆殺される!」

 うろたえたブランの声を聞いて、さらにイーサの汗の量が増した。確かにこのまま
では全滅である。泣きの一手のはずだった。ある意味狂言だったはすだ。なぜこうな
る? ダヴィードはスイにこの事を話してなかったのか?

 イーサの頭の中でグルグルと言葉が回る。そして辿り着いた結論は……。

「逃げろ、退却だ!」

 悲鳴に近い絶叫を上げて、イーサは一目散に森の中へと走り出す。その姿を確認し
た野党の男達は悲鳴を上げて我先にと逃げ出す。

 そして数秒あとには野党達は死者、重傷者を残して全て消えていた。

「わぁ、スイちゃんすごーい!」

 はしゃぎながらノクテュルヌは槍の血を払うスイに駆け寄って行く。

「こんな物、運動にもならない」

 息一つ乱さず、革布を槍に巻き直しながらスイは吐き捨てた。スイの手を取っては
しゃぐノクテュルヌの後ろ姿と、スイを見ながら櫻華は拭いきれぬ不安を感じてい
た。

 ダヴィードが監視の意味――他の目的もあるだろうが――で道案内につけたのもあ
るだろうが、戦っている時に見たスイの刹那的な表情には少し危ういモノが見て取れ
る。

「それじゃあ、先急ごうか」

 スイの腕にひっついたノクテュルヌが元気にはしゃぐ。危ういモノがあるのはこの
娘も同じか。

「ほら、櫻華ちゃんも早く」

 ノクテュルヌに「ああ」と短く応えて、櫻華は歩き出した。

(気を揉み過ぎるのも考え物だな。今はこの旅を、楽しむ事にしよう)

―――――――――――――――――――――――――――――――――
tempestoso(テンペストーン)[伊]:嵐のように、激しく
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2007/02/10 17:21 | Comments(0) | TrackBack() | ●火の山に望み追うは虹の橋

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