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2024/05/06 01:00 |
火の山に望み追うは虹の橋 第五節 「ヘテロフォニア~異なる音達~」/ノクテュルヌ(Caku)
  PC ノクテュルヌ 狛楼櫻華 スイ
  NPC 「5人元首」・・・「白い貴婦人の幽霊」「名無し」「一角獣」
                     「応答者」「信仰宣言」 
  場所 ヴァルカンのとある料亭
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



暗闇の円卓会議場。


「”虹追い”は別の虹を目指している」
あどけない乙女の声と、老婆の嗄れた声帯を合わせもったような音階の声。
「どうしてだ?」
「何故なんだ?」
「何を求めているのだ?」
「何があれの考えを逸らさせた?」

最初の声が、またどこからか聞こえた。
「紅蓮の流れを抱く山麓の虹を求めている」
その声の持ち主は、女性であることは分かる。しかし、あまりにも異質な音。
「”トランプ兵”の仕業か?」
「アリスの手先の仕業か?あの世界の冒涜者達の仕業か?」
「ハートの女王か?スペードの帽子屋か?
          クローバーの兎か?ダイヤの老賢者か?」
「あるいはジョーカーの卵と蒼い鳥か?」

囁きは、海の潮騒にも似て、どこか隠された響きを沈めている。
それぞれが、胸元に何かを抱えて。それを相手に披露せずに策略しあう。
「ダイヤの老賢者は囁いたが、それが始まりではない」
「あるいは貴女が何か吹き込んだのでは?」
「老(ろう)けた策略者よ」
「この音楽と芸術、2つの人類の知性の宝を庇護する者よ」
「白き魔女よ」

最初の声は、
可憐な笑い声と潰れた低温の渇いた引きつり笑いを同時に発生させた。
「そう、確かに私はあの子に紅蓮の山麓の歌詞(テクスト)を教えたが」
「ならば、責任は貴女にある”白い貴婦人の幽霊(グィニヴィア)”よ」
誰かが、責め立てる口調でその声の持ち主を糾弾した。
すると、さも可笑しそうに別の誰かが横やりを放った。
「それをいうなら、私は君を咎める。
君は”虹追い”の伴侶でありながら、彼女を手放した・・・ああ、確か”椿姫
(トラビアータ)”という名前には『頭のいかれた女』と『情婦』という意味
が含まれているのを、悪意ある愚民は君と彼女の関係を知って命名した」
「ウィンディッシュグレーツは君と虹追いの関係を手に入れて、貴族の地位を
守った」
敵意と殺意と中傷と嘲笑が入り乱れて、解け合う。

「止めよ、ここはコールベル最高の円卓。人間の知性と歴史を守護する場ぞ」
最初の声、『白い貴婦人の幽霊(グィニヴィア)』が鋭い奇声を上げた。
「”一角獣(リノツェロス)”も”名無し(ネモ)”もいい加減にしないか。
・・・・・・今宵は円卓を解散する。虹追いは私が引き受けよう」
そう言うやいなや、突然強風に仰がれた霧のように、世界は静まり返った。
最初から、誰もそこにはいなかったように。

「”応答者(アントゥヴォルテン)”に”信仰宣言(クレド)”
もまだ若いな」
独りになった『白い貴婦人の幽霊』は、ひっそりと呟いた。
「そして”一角獣”もな」
「まだいたのか”名無し”よ」
全てを見通し、嘲笑する第二の声音が突然差し込まれた。
「『一角獣(リノツェロス)』・・・誇り高き神の獣、剣と騎士と勇気を持つ
孤独の象徴だ。しかし、その意味には多重性がある」
老婆と童女の声音は、さらにうら若い女性の旋律を加えて笑った。
「同時に人間という罪ある衣をまとう罪悪の象徴、か?
その通りだ。そして孤高の徴(しるし)でありながら制御の利かない欲望も体
現する」
二人は同時に、声も無く笑った。
その微笑みの気配は、まったく同じであった。

「まあそれはいい、”虹追い”をどうするのだ?」
「好きにさせるさ、あの子の物語りだ。
我々はそれを紙に書くように指示する編集者でしかない」
「あの紅蓮の山麓の歌詞は何だったか」


「ああ、それはな・・・・・・・」





ヴァルカン郊外。
綺麗なガラスの器。
美しいというより、愛らしく涼やかな胡蝶の色付けがされていた。
その中には、色とりどりの果物と黒蜜。琥珀に近い黒い光沢が
えもいえぬ彩を呼ぶ。


料亭で、三人の他人達は集っていた。
「これが「餡蜜(アンミツ)」?すっごく美味しそうっ」
子供のようにはしゃぐノクテュルヌ。今にも踊りだしそうな雰囲気で、
片手に小さなスプーンをがっちり装備していた。
「ここの緑茶はなかなかだ。おい椿、それは座って食べるものだ。
踊って食べるものではない」
片手に桜をあしらった黒い器に、深い菊塵(きくじん)色の飲料をたたえて、
桜の名を持つ仙女は同行者をたしなめた。あまり効果はなかったようだが。
「・・・・・・・・・・」
特に発言をしようとはしないスイ。
先ほどから窓でくるくる回る風車をじーーーっと見ている。
通りがかって目の合った子供が怯えた表情をする。

あまり三人の席近くに客が寄り付かないのは何故か。

「じゃ、明日出発でいいよね。色々装備や食料揃えないといけないし」
アンミツを喜びいっぱいで舐めながら、ノクテュルヌは提案した。
そうして美味しそうな赤い小石のさくらんぼに口をつける。憂いをおびた瞳で
遠くを見る・・・・どうやら感動しているらしい、通りで彼女を見た男性が何
故か顔を真っ赤にしてそそくさと去る。
「それよりいい加減その感動の儀式を中断しろ椿。落ち着くという人として最
高の受け身をしらないのか」
きっぱり言い捨てるも、それほど強制力はない櫻花の発言。
冷徹な口調にしてどこか優しい気遣いを感じる。
そんな千年を経たような玲瓏な異人に、周りの客は、まるで滝に流れる水晶を
みるような浮き世離れた視線で彼女を見物する。
「・・・・・・何”椿”なんだ?」
とこちらはウェイトレスの注目を一身に浴びているスイ。
どこ鋭い雰囲気のなかに、庇ってやりたくなるような薄い視線。女性か男性か
少し見分けずらい相貌を、遠くの世界を見つめるように投げかける。
そんなこちらも世間離れした空気が、母性本能をくすぐるらしく、さかんに視
線が三人に集中する。

「ああ、頭のイカれた女って意味」
笑顔でさらりと会話終了。
何を言えばいいのか、三人ともそれぞれに黙り込み、先ほどからの作業すなわ
ちノクテュルヌは餡蜜の消去に、櫻花は菊塵色の緑茶の消去に、スイはまた風
車の回る様を凝視しはじめたのであった。



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2007/02/10 17:20 | Comments(0) | TrackBack() | ●火の山に望み追うは虹の橋

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