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2024/05/05 19:03 |
火の山に望み追うは虹の橋 第四節「unheimlich」/狛楼櫻華(生物)
PC:ノクテュルヌ・ウィンデッシュウグレーツ 狛楼櫻華 スイ
場所:ヴァルカン ダヴィード邸
NPC:ダヴィード その他悪党

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「どうぞ、掛けてくれたまえ」
 そう言ってダヴィードは二人を豪奢なソファーに促す。この街にには到底似つかわ
しくないほど座り心地はよかった。
「それで、どういった用件かな?」
 ダヴィードは執事になにやら用事を言い渡すとそう切り出した。
「私の名はノクテュルヌ。こちらは……」
「狛楼だ」
 櫻華はノクテュルヌが自分の名前を明かす前にそう名乗った。ノクテュルヌには本
当の名を教えたがどうもこのダヴィードなる男に本当の名を明かす気にはならなかっ
た。
 櫻華の気持ちを汲んでか、多少表情を曇らせたがノクテュルヌはなにも言わなかっ
た。
「ほう、狛楼と。お嬢さんはかの有名な仙人の」
「ああ。もっとも今は修行中の身。たいした力はないが」
 眉一つ動かさずに櫻華は言った。狛楼の名を持つ数多くの者が旅をし、大陸全土で
様々な逸話を残している。ダヴィードが狛楼の名を知っていても不思議ではない。ノ
クテュルヌの方は大層驚いていたようだが。
「用件の方ですが、ダヴィードさんはとても博識だとお伺いしたので。一つ力を貸し
ていただきたくて」
 上品な言葉遣いで微笑みながらノクテュルヌは言った。今まで彼女の非常識――い
きなり櫻華の小太刀をとって突きつけたりだとか――な面だけしか見ていなかった櫻
華は多少なりとも見直した。
「それは光栄だ。美しいお嬢さん方に頼りにされるとは」
 大仰に肩をすくめるダヴィード。ノクテュルヌはそんな態度はお構いなしに言葉を
続ける。相手に敬意を払っていたわけではなく事務的なものだったのだろう。
「ご存知とは思いますが、この街には歌姫の虹という言い伝えがありますよね。その
言い伝えについての情報を何かお持ちでないかと」
「なるほど……」
 わざとらしく手を顎に添えて考え込むふりするダヴィードに櫻華は表しようの無い
感覚を覚えた。強いて言えば不快感、だ。だがそれだけではない。このダヴィードと
いう男はまだ何か裏がありそうだ。
「歌姫の虹については私もよく知っている。なにせ地元の伝承なのだからね」
「それでは」
「ああ、もちろん情報は提供させてもらおう」
 伊達であろう眼鏡を押し上げながらダヴィードは笑った。嘲笑に近いものがあった
ようにも思える。ただ単にこういう笑い方しかできないのかもしれないが。
「ただで教えてくれるというのか? それは虫が良すぎると思うのだがな」
 棘のある言葉を吐き櫻華はダヴィードを見据えた。情報というのは命を左右する時
もあれば、手にした者によっては大金をもたらしてくれる時もある。それゆえ情報に
は多少なりとも価値がつく。先刻あった老鳥の情報屋――コー爺と名乗っていたと記
憶している――にも少なからず情報料を支払っている。
「情報というのは生き物だ。付加価値は人それぞれということだよ」
 つまりはダヴィードにとって歌姫の虹の情報は二束三文以下の価値らしい。言葉の
とおりにとれば、だが。
 ノクテュルヌはそれで、とダヴィードを促す。どうやら彼女もこの男はあまり気に
入らないようだ。
「ヴァルメストの山では大昔、それこそヴァルカンができるかなり前の話だが、水晶
を採掘していた跡がいくつか見つかっている」
 ダヴィードの話を聞きながらティーカップに口をつける。紅茶の甘ったるい香りと
味が口に広がる。やはり茶は緑茶が一番だと思う。
「その内の一つにおもしろい物を発見したのだよ。有体に言えば祭壇のような物だと
思ってくれればいい。その祭壇で一冊の書物が見つかった、おそらく歌詞だと思うが
ね」
「おそらく?」
 はっきりしない物言いにノクテュルヌは眉をひそめる。
「鍵がかかっていたのだよ。しかもその鍵は特別製のようでね。普通の方法では開か
なかった」
「開こうとしてことごとく失敗した、というわけか」
 もはや冷めてしまった紅茶には興味も示さず櫻華が言った。先程のダヴィードの言
葉の意味が少しは理解できた。要するに読めない書物に価値は無いと言いたかったの
だろう。
「手厳しいな。まあその通りなのだがね」
「それでなぜ歌詞だとおわかりになったのですか。その書物を読み解いたわけではな
いのでしょう?」
 ダヴィードは紅茶に口をつけ眼鏡の位置を直す。もったいぶった態度はコー爺と同
じだが与える印象はこちらの方がかなり悪い。
「先程も言ったがここは私の地元だ。ヴァルメストの山の中心で見つかった祭壇とそ
こに祭られていた書物。それを歌姫の虹と結び付けてもなんら不思議はあるまい」
 薄い笑みを浮かべてダヴィードは言った。
「おそらくあの祭壇で歌詞の通りに歌えば、どういう原理かはわからんがヴァルメス
トの上に虹がかかるという仕掛けだろう」
 ダヴィードの話が終わり、ノクテュルヌはしばらく目を伏せてから口を開いた。
「そうですか。それではそこまでの道を教えていただきたいのですが」
「ヴァルカンから北東に四半日歩いた所にラルヴァという小さな村がある。そこから
ヴァルメストの山に登るといい。鉱山跡の場所は村の人間が知っている」
 ダヴィードはティーカップに残っていた紅茶を飲み干すと小さなベルで執事を呼び
寄せる。そして執事になにやら告げると退出するように命じた。
「鉱山の中は迷路の様になっている。迷わないよう道案内をつけよう」
「至れり尽くせりだな。なにを考えている」
「私も拝見してみたいのだよ。伝説の虹とやらをね」
 櫻華の言葉に顔色一つ変えずダヴィードはそう言い放った。何か裏があるにしても
表情からは読み取れない。
「最後に一つ」
「なにかな?」
「なぜ鉱山跡の調査を?」
櫻華の問いにダヴィードは声を出して笑った。
「いや、失礼。金持ちの道楽と思ってくれて構わんよ」
 遺跡荒らしのパトロン、ダヴィードの言いたいのはそう言うことだと櫻華は解釈し
た。そしてその解釈が当たっていてくれればと思う。
 扉をノックする音が聞こえ、先ほどの執事が入ってくる。その後ろには先刻襲い掛
かってきた槍使いの姿があった。
「先程はこのスイが失礼したな、少々とっつきにくい性格たが腕は確かだ。彼には道
案内と護衛を任せてある」
 紹介されたスイは虚ろな瞳で二人を――というか視線が定まっていないようにも見
えるが――見つめている。門のところで見せた殺気は欠片ほども無い。
「それでは幸運を祈る。私はこれから私用があるのでね、失礼」
 そう言ってダヴィードは部屋を出て行った。
「うーん、以外といい人?」
「本当にそう思うか?」
 櫻華の言葉にノクテュルヌはうーん、と唸りながら考え込む。
「櫻華ちゃん、男性不審?」
「なぜそうなる」
 少しだけ顔をしかめて櫻華はスイに向かいなおった。改めて見ても男性か女性かの
選別は難しい顔立ちをしている。
「とりあえず、道案内よろしく!」
 ノクテュルヌの元気な声にスイは、ああ、とだけ短く答えた。

      ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 二階の私室からダヴィードはスイを伴って屋敷を後にするノクテュルヌと櫻華の背
中を見送る。その顔には会心の笑みが浮んでいた。常人が見れば到底好きになれそう
も無い笑顔だったが。
「多少の狂いはあったが、どうやら巧くいきそうだな」
 そう呟いてダヴィードは振り返った。その視線の先には数人の男がいた。一般人が
見れば屈強そうに見えるが、見る者が見れば中身はからっきしであると一目で見破れ
るだろう。
「まったく、お前達に任せたのが間違いだったか」
 ダヴィードは汚物でも見るような目で男達を見据える。その視線に男達は、へへ
へ、と愛想笑いを浮かべながら頭を下げる。ウィンブル街道でノクテュルヌを襲い、
櫻華にあっさりと撃退された盗賊もどきだ。
「まあいい。この後は手はずどおりにな、貴様らが気を利かせなくともスイが巧くや
るだろう」
 ダヴィードは再び窓の外に視線を移した。その先には今度は門ではなく、遥かにそ
びえるヴァルメスト火山があった。
「虹は……私の物だ」
 眼鏡の奥でダヴィードの瞳が凶悪にきらめいた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
「unheimlich(ウンハイムリヒ)」=薄気味悪い、神秘的に
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2007/02/10 17:19 | Comments(0) | TrackBack() | ●火の山に望み追うは虹の橋

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