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2024/05/05 21:39 |
火の山に望み追うは虹の橋 第一節/狛楼櫻華(生物)
PC:狛楼櫻華 ノクテュルヌ・ウィンディッシュグレーツ
NPC:悪漢の方々 エメ少年 ヴァルカンの街の人々
場所:ヴァルカン

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 空は晴れ、幾つかの小さな雲がゆっくりと流れて行く。その中をトンビがの
どかにぴーひょろ鳴きながら旋回している。
 遠くには木が生えていない禿山、ヴァルメスト火山が見えるが、近くを見渡
せば木々がしげり、動物達がひょっこり顔をだして通り過ぎて行く。
ウィンブル街道。ファイからヴァルカンを繋ぐ街道の一つで、設置されたのが
古く舗装もされてないため荒れ放題であるためよほどの急ぎで無い限り滅多に
人は通らない。
 その反面山賊など危険な輩も出ないいたって平和な街道である。
 このなんの変哲も無い街道にも唯一と言っていい名物がある。樹齢百年を超
える大きな桜の木だ。
 毎年決まった時期に咲かず、時々思い出したように咲くその桜を知るものは
「気まぐれ桜」と、なんのひねりも無い名前で呼んでいた。
 そんな気まぐれ桜は今年もまた思い出した様に花を咲かせていた。そこに運
良く出くわした一人の女性が桜の下で緑茶をすすっている。
 歳は二十前後だろうか、黒地に桜の花びらの柄を縫いこんだ式服をまとい、
透き通るような白い髪を後頭部で結っている。
 性は狛楼、名は櫻華という名だ。
 櫻華は正座して愛用の水筒を膝の上で抱え、時折吹く風で舞い散る桜を目で
追う。桜の花びらは風に吹かれくるくると踊りながら地面に落ちてくる。
 ひとしきり見て終わると櫻華は水筒の緑茶をふたたび口に入れ、また風が吹
くと桜を見つめる。
 誰も通らない街道沿いにこんなにも美しい桜が咲いていようとは。櫻華は一
人得をした気分で桜と緑茶の風情を楽しんでいた。
 どれぐらいか、少なくとも一時間以上同じ動作を繰り返していた櫻華の耳に
風の音とも木々のざわめきとも違う雑音が入ってきた。男の怒声だ。誰かを追
っているのだろうか。
山を降りてこのかた桜を見る機会などあまりなかった櫻華はこの無粋な輩に怒
りを覚えた。どうやらこちらに向かってくるようだ。
 少し説教でもしてやろうと、水筒に栓をし腰に吊るして立ち上がった櫻華が
最初に見たのは女性だった。
「うわぁ、綺麗」
 紅の瞳を輝かせて女性は開口一番そう言った。キレイな藍色のきちっとした
制服。櫻華は以前立ち寄ったコールベルで同じような服を着た人間を何人か見
た。確か、国立神学校の制服だ。
「あ、ごめん。邪魔しちゃった?」
 数瞬桜に見とれていた女性は、櫻華の存在に気付き苦笑交じりの笑顔で言
う。
「いや、お前は別段邪魔ではない」
 気まぐれ桜を見て綺麗と言う彼女は気にならない。むしろその後から息を切
らしてやってくる数人の男達のほうが櫻華には邪魔な存在だった。
「はあはあ、てんめぇこのアマ。やっと観念したか!」
 育ちが見て取れるような言葉遣いで男は女性に近づく。見た目からして山
賊、とまではいかないが、それに近い種類の人間であることがわかる。
「ああ、もうしつこいなぁ」
 女性はうんざりした顔で男達の方に振り返った。どうやらこの下賎な連中は
彼女を追いかけていたらしい。
「大人しく鍵を渡せ。そうすればちょーっと痛い思いをするだけですむから
よ」
「ひょっとしたら途中で気持ちよくなるかもよ」
 阿呆に格下げだ。櫻華は男達の下品な言葉にそう心の中で毒づいた。そして
腰の愛刀に手をかけた。
「あーあ、鬱陶しいから消えてくれない? 君達みたいなアホにかまってるほ
どヒマじゃないだよね」
 女性は三日月の形を模した弦楽器――たしかハープという名前だったと思う
――を握り締めて男達を威嚇する。
「はぁ? なんだそりゃ。そんなんで俺達とやりあおうってのか」
 先頭に立っていた男が天を仰ぐふりをして笑う。どうやらこの阿呆達は人間
性も底がしれているが実力の底も浅いようだ。
「そうか、ならこれならどうだ」
 櫻華の声は男のすぐ真後ろから聞こえた。愛刀の黒い柄の小太刀、陰を男の
喉下にあてて力をこめる。
「な、なななななんだよあんた。あんたには関係ないだろ」
「確かに関係無い。だが女一人に大の男が大勢で取り囲むのを黙って見過ごす
こともできない」
 声のトーンも表情も変えずに櫻華はさらに小太刀に力を込める。このまま横
に引けば男はもう一つ口ができそこから大量の血を流して死ぬだろう。
「わ、わかった。何が望みだ? あ、か、金か? だったらあの女を捕まえれ
ば大金が貰える、それをあんたに、あがっ」
 男が言い終える前に櫻華は小太刀の柄で男の顎を外す。これ以上阿呆の戯言
を聞いていてもしょうがない。
「失せろ。でなければ今度は首を落とす」
 金色の瞳で男達を睨みつける。いくら阿呆で底が知れているからといっても
さすがにここまでやれば退くだろうと思ってのことだったが。
「この、よくも兄貴を!」
 後のほうで控えていた男が大振りに剣をかざして櫻華に斬りかかってきた。
やれやれと櫻華はため息をついてもう一本の小太刀を抜く。
「まったくこれだから阿呆は」
 白い柄の小太刀、陽で剣を受け流し、陰で剣の刀身を斬り飛ばした。半歩下
がって勢いを殺しきれなかった男の顔面に蹴りを入れると、そのまま男は動か
なくなる。死にはしていないだろうがしばらく目は覚まさないだろう。
「まだやるか?」
「ひ、ひやぁああああ」
 情けない声を出して阿呆達は逃げ去っていった。櫻華は小太刀を鞘に収める
と女性に向直った。
「ありがとう。私戦いってあんまり得意じゃなくて」
「そうは見えなかったが?」
 櫻華の言葉に女性は再び苦笑した。男達よりも速く走って息も切らさない女
性が戦えないとも言い切れないが、少なくとも阿呆達と対峙した時の雰囲気と
立ち振る舞いは達人のそれだった。
「えーと、正確に言えば手加減って苦手なの」
 なるほど、それで納得がいった。いくら相手が阿呆であっても殺さないまで
も大怪我をさせてしまっては後味が悪いという事だろう。普通の人間ならそう
言う考えるものだ。
「そうか。いらぬ世話にならなくてよかった」
 そう言って櫻華は踵を返し歩き出した。
「あ、待って待って。貴女ヴァルカンに行くの?」
「ああ、そうだ。それがどうかしたか?」
「私もヴァルカンまで行くんだけど一緒にどう?」
 突然の申し出に多少戸惑う。別段悪い人間ではなさそうだが。
「だめ?」
「いや、断る理由もないからな」
「じゃあオッケーってことだね」
「ああ」
 押し切られる形になったとも言えるが。旅は道連れという諺もあることだ。
少しの間この女性と旅をしてみよう。
「私の名前はノクテュルヌ・ウィンディッシュグレーツっていうの。よろし
く」
「ああ、私は狛楼だ。よろしく」
 手を差し出すとノクテュルヌはそれに応じた。
「それじゃ、行こ」
 軽く握手を交わすと、なんとも元気にノクテュルヌは歩き始めた。櫻華もそ
れに続いた。

      ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 炎の山、死の山、鉄と水晶の山。昔から数多くの呼び名で恐れられ、崇めら
れてきた山。それが大陸有数の火山ヴァルメスト。百年ほど前にヴァルメスト
から良質の鉄鉱石や水晶が発見され、裾野近くに鉱山街としてヴァルカンが生
まれた。
 最初は鉱山夫の町として発展したヴァルカンだが、鉄鉱石の質が非常に良
く、
それを求めて大陸中から鍛冶屋が集まった。そうなると武器商が自然とやって

る。そうしてヴァルカンは「全ての武器が揃う街」と謳われるほどに至った。
「うわー、男くさーい」
 ノクテュルヌは笑いながら周囲を見渡した。道行くほとんどの人が男、しか
も、ごつい、厳つい、でかい。という表現がぴったりの男達ばかりだった。
「鍛冶屋と鉱山夫の町だからな。当然といえば当然だ」
 きょろきょろしているノクテュルヌとは対照的に櫻華は真っ直ぐと目的地に
向かう。
 互いの旅の目的は途中語った。櫻華がヴァルカンに来たのは緑茶が旨いと評
判の茶屋があるという話を聞いたからだ。ノクテュルヌは神々の楽典という物
を探しているらしい。
「椿、そんなに余所見をしていると迷うぞ」
 椿とはノクテュルヌのことだ。道中ノクテュルヌの名前を呼ぶたびに櫻華が
舌を噛むのを見てノクテュルヌがそう呼べばいいと言ってくれたのだ。
「だってほら、私ヴァルカンは初めてだし」
 櫻華の声にノクテュルヌが振り向く。初めての街にやや興奮気味のようだ。
「気持ちはわかるがまた変な輩に絡まれても知らんぞ」
 ノクテュルヌは弱いわけではない。それはわかる。だが櫻華から言わせれば
緊張感というか危機感というか。そういう部分が少し薄い感じがある。
「うーん、そうなったら逃げる」
 微笑むノクテュルヌを見て、櫻華は少し苦笑する。それはよく見ないとわか
らないほどの苦笑ではあるが。
「そうか」
 一言だけ言って櫻華は舗装されてない土がむき出しの道をまた歩き出した。
「ここ?」
「ああ、店の名前を間違ってなければここだ」
 入り口の脇に立っているのぼりに「茶屋」とストレートで素気ない看板を掲
げた店を見て櫻華は今一度聞いた話を思い出していた。聞けば間違えようの無
い名前。確かにこれは間違えようも無い。
「えらく簡単というか、わかりやすい店だね」
 ノクテュルヌが苦笑する。お茶葉を煎る匂いが店先まで漂ってくる。その香
りに誘われるように櫻華はのれんをくぐった。
 店の中には質素なテーブルと椅子が数組、後はカウンターがあるだけという
看板同様素気ない造りだった。客の入りはそこそこといった感じだった。昼
前、時間的にまだ混む時間ではないのだろう。
 適当な椅子に座ってノクテュルヌはきょろきょろと周りを観察する。物珍し
いものは特にないと思うのだが。
「何をそんなに見ているんだ」
「こういうとこって初めてだから。珍しくって」
 ノクテュルヌにとっては十分珍しかったようだ。ひょっとしたら彼女は緑茶
も飲んだことがないかもしれない。
「いらっしゃい。はいお品書き」
「お品書き?」
「メニューの事だ。大陸の東の方ではメニューをそう呼ぶ場所がある」
「へぇ」
 ノクテュルヌは店員のおばさんからお品書きを受け取っておもしろそうに覗
き込む。櫻華は上から順に読んでいく。
「お茶と、そうだな桜餅でももらおう」
「えーと、私も同じの。あ、あとこのようかんっていうの」
「あいよ。あんた、お茶と桜餅二つ、あとようかん一つ」
 おばさんはカウンターの奥に叫ぶ。その声に応じて奥から声が返ってくる。
「ねえねえ、ようかんってなに?」
「……知らずに頼んだのか?」
「あははは」
 ため息を一つついて櫻華は簡単にようかんの説明を始める。まあ珍しい菓子
には違いないと思う。
「小豆を蒸し、裏ごしして寒天と砂糖を加えて冷やして固めた菓子のことだ」
「へぇ、……おいしい?」
「それは自分で確かめた方が早いと思うぞ」
「はい、お待ちど」
 テーブルに湯のみが二つと小皿が三つ並べられる。
「その黒いのがようかんだ」
「これが……」
 竹楊枝の刺さったようかんをまじまじと見つめる。櫻華はそんなノクテュル
ヌをよそに緑茶を一口すする。
「うむ、評判どおりだ」
「あ、美味しい。おばちゃーん、ようかんもう一つ」
 ノクテュルヌはようかんが気に入ったらしい。櫻華も桜餅を口に運ぶ。餅の
食感とあんの甘さが上手く合わさり、上品な味に仕上がっている。お茶請けと
してだけでなくそれ単品でも十分やっていけそうな味だ。
「それで、椿はこれからどうする。その楽典とやらを探すのか?」
「うーん……、どうしよう」
 ノクテュルヌは緑茶をすすり笑顔でそう応えた。まったくこの娘はホントに
緊張感がない。
「なにか目的があってヴァルカンに来たんじゃないのか?」
「目的、うーん。目的……」
 難しい顔して本気で考え込む。その様子に苦笑して櫻華は緑茶をすすった。
「エメ! どうしたんだい」
 不意におばさんの声が店の中に響いた。二人は何事かとおばさんの方を見
る。入り口の所に泥だらけの少年が立っていた。
「またいじめられたのかい?」
 おばさんは少年、エメの顔についた泥を拭きながらそう尋ねた。泣き出しそ
うな表情で小さく頷く。
「また、虹がどうとか言ったんだろ。まったくこの子は。ほら着がえといで」
 おばさんに背中を叩かれエメは店の奥へととぼとぼと歩いていった。
「ははは、旅の人に情けないところを見せちまったね」
 おばさんは櫻華とノクテュルヌに苦笑いを向ける。
「エメ君、ですか。いじめらてるんですか?」
「あー、まあ子供だからねぇ、そういうこともわるわよ」
 おばさんは誰に似たんだかという感じで肩をすくめた。心配ではあるのだろ
うが、さほど気にする事ではないということだろうか。
「虹がどうとか言ってましたが、どういう意味ですか?」
「椿、余所様の家庭に首を突っ込むのはどうかと思うが」
「ははは、いいよそのぐらいここに住んでる者なら誰でも知ってる昔話だから
ね。まあ、虹っていうのはね昔、まだヴァルカンが小さな町だったころに雨も
降ってないのにヴァルメストの山に虹がかかったって言うんだよ。しかも女の
歌声が聞こえたってもんだから歌姫の虹伝説なんてご大層な名前がついたりし
てるんだよ」
 おばさんは饒舌に虹の伝説について語ってくれた。きっと何度か同じように
旅人に話したのだろうと想像がつく。見た目で判断してはいけないがいかにも
話し好きそうな顔をしている。
「それで、その昔話をエメがお爺ちゃんから聞いて、それからずーっと山を見
るようになってね。他の子からしてみればそれが変に思えたんだろうね」
 そこまで話しておばさんは複雑そうな表情をした。やはり自分の子供がいじ
められているのはいい気分ではないのだろう。
「それで……」
 ノクテュルヌが小さく呟く。何か思うところでもあるのだろうか。
「まあ、親がこういうのもあれだけど。いい子だからすぐに仲直りできると思
うんだけどね」
 おばさんは元気に笑って店の奥に戻っていった。
「ねえ」
「虹を探すのか」
「え? よくわかったね。狛楼さんて読心できるの?」
「いや、それはできないがなんとなく、な」
 少しぬるくなった緑茶をすすって櫻華は言った。少しノクテュルヌの思考が
わかってきたが、ホントに言い出すとは思わなかった。
「ほら、やっぱり放っておけないでしょ、こういうのって。あっ」
 櫻華の後を通り過ぎようとしたエメを見つけたノクテュルヌは彼の前まで行
くとその場にしゃがみこんだ。
「エメ君。お姉ちゃんが絶対虹をかけてあげるからね」
 エメの肩に手を乗せ、ノクテュルヌは力強くそう言った。当のエメは少々戸
惑った様子だったが。
「ホントに?」
「うん、約束。だから待っててね」
「うん!」
 その言葉にエメは満面の笑みで応え、元気に外へ駆け出していった。
「そんな約束をしていいのか?」
 多少呆れた感じで櫻華はノクテュルヌに向かって口を開いた。
「狛楼さんはエメ君のこととか虹の伝説とかって気にならない?」
「それは、気になるが」
「でしょ? だったらさ協力してくれるよね」
 そう笑顔で尋ねてくる。少し雰囲気の違う笑顔。ヴァルカンに来る道中、ノ
クテュルヌの同じ顔を見たのを櫻華は思い出した。
「皆はそんな物無いっていうけど、自分で確かめもしないでそんなこと言うの
は間違ってると思うんだ」
 確かノクテュルヌの言ったのはそんな言葉だった。ひょっとしたら彼女は自
分とエメを重ね合わせているのかもしれない。
「そうだな。これから特にすることも無いからな」
「やった。それじゃあ情報収集からスタート」
 ガッツポーズで元気に笑顔なノクテュルヌに不思議と表情が柔らかくなるの
を櫻華は感じた。
「じゃあ、行きましょ」
「ああ、そうだな。それから……私のことは櫻華と呼んでくれ」
「え? うん、わかったよろしくね櫻華ちゃん」
「ちゃん……」
 予想外の敬称に苦笑してしまう。だが、嫌な感じはやはりしなかった。

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2007/02/10 17:18 | Comments(0) | TrackBack() | ●火の山に望み追うは虹の橋

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