キャスト:トノヤ・ファング
NPC:ワッチ・月見
場所:ヴァルカン/路上
――――――――――――――――
骨だけの鳥はおとなしく羽をたたんで路上に佇んでいる。
薄青い夜明けの静かな空気の中にあるそれは不気味としか言いようがなかったが、
特に危害を加えてくるでもないのでファングはできるだけそちらを
見ないように勤めた。
唖然としているファングとトノヤに、月見はあとを続けた。
「…リアさんが、アテがないなら屋敷で働けばって言ってくれたんです。
あのスーパーセクシーダイナマイツが」
「お前、なんで普通に喋れないの…?」
恐怖すら覚えて、ファングはつぶやいた。
彼女はいうと、今までに見せたことのないほど深刻な顔で言葉を続けている。
「いやね、なんとここは異世界とも繋がることがあるんですってよ奥さん!
だから、そこに居ればいつか帰れるかも★と思って!」
暗い雰囲気をぱっと変えてまくしたてる月見の突拍子もない申し出を聞きながら、
ファングはぼんやりと思い出していた。
月見はそれこそ唐突に目の前に現れた。きけばこの世界とは全く異なる場所から
"飛ばされてきた"のだと言う。
ファングはそれを100%信じているわけでもないが、月見の言動は
「こいつは自分とは違う人種だな」と思わせるには十分すぎるくらいで、
そのあたりからすれば確かに彼女は異世界の人間に違いなかったのだが。
「…あー」
「アラッ★なんすかその平坦なリアクション!」
「いや…お前の口から出た言葉で一番納得できる言葉が
異世界がらみなんて…と思ったらなんかしみじみきちゃって」
果てのない徒労感に打ちひしがれ、ファングもまたトノヤが寄りかかっている
柵を手探りで見つけ、よじ登って腰を下ろす。
月見に関する事情を詳しく教えられていないトノヤは、あくび交じりで
薄い色の月を眺めていた。
「確かにしみじみベクトルっすなぁ!だけどホラ、出会いあれば別れあり、
エロ本見つかり涙あれば一人妄想にふけっての笑いありですよ!」
「なんかこう、そんだけ話しておいて会話が成立してるようで
してないってのは凄いと思う」
さきほどまで涙すら見せていたとは思えないほど、月見の笑顔は清々しい。
「てなわけで、ご理解頂けましたでしょーかッ★」
「言ってる事はさっぱりだけど、つまりはあそこに残るってことだよね?」
言うと、月見は勢いよく首を縦に振った。
そしていつものようにばたばたと必要以上に近づいてくる。
「だもんで、副将軍トノヤんとバンダナボーイファング君とは…お別れ…ッ」
「あー泣くなよ!なんだよお前実は女の子じゃん!」
「気持ちはわかるがおかしいだろ、それ」
トノヤのツッコミ(寝言かもしれないが)は無視して、急に泣き出した月見を
持て余し、ファングは無意味に手など伸ばしながら柵から降りた。
「泣くなって。なんだかよくわかんないけど、たぶん楽しかったから、だから
…えーと…泣くなって」
自分でもよくわからない慰めは、当然のことながら効果がなかった。
それでも月見はなんとか泣き止もうと涙を拭いている。
「月見、もしお前が帰れなくても…いつかまたリアさんちに会い行くからさ。な?」
両膝に手をついて、月見の顔を覗き込む――と、いきなり月見はがばりと
こちらの首に腕を巻きつかせ、さらに本格的に寝ていたトノヤも同じようにして
柵から引きずり下ろした。二人の喉から同時に悲鳴が漏れる。
『ぎゃあああああ!』
「うわああんお前ら大好きだこんちくしょー!」
「痛いってば!なんなの!お前テンションのムラありすぎだよ!」
「コンビニ…!」
「トノヤお前はいいかげん起きろ!」
沈むように路上に倒れこみ、全力で叫びながら、ファングはめまぐるしく揺れる
視界の中で静かに消えていく浅葱色の月を見た。
・・・★・・・
「で?」
「で…?」
空飛ぶ馬車が夜明けの空に消えたのを見送って、どこかぼろぼろになった
ファングとトノヤは、二人で疑問符を投げ合った。
「どうすんの」
「あー…」
ファングが再度尋ねると、トノヤは面倒だといわんばかりに意味もなく
伸びをしてから、これ以上ないほど淡白に一言で答えてくる。
「暇」
「なにそれ!わけわかんないよ」
笑いながら、路上に放りっぱなしだったザックを手に取る。
サイドポケットから紙製の小さい箱を取り出し、蓋を開けると、
そこには陽光を受けて淡い色を放つ遺産の欠片が収めてあった。
それを手に取り――軽く勢いをつけてトノヤに放ってやる。
「?」
顔をしかめながらもそれを受け取るのを見て、ゆっくり進む。
「行こっか。俺も暇だし」
返事はなかったが、黙って横に並ぶトノヤの肩を軽く小突くと、
ファングはいつもどおりの速さで歩き始めた。
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NPC:ワッチ・月見
場所:ヴァルカン/路上
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骨だけの鳥はおとなしく羽をたたんで路上に佇んでいる。
薄青い夜明けの静かな空気の中にあるそれは不気味としか言いようがなかったが、
特に危害を加えてくるでもないのでファングはできるだけそちらを
見ないように勤めた。
唖然としているファングとトノヤに、月見はあとを続けた。
「…リアさんが、アテがないなら屋敷で働けばって言ってくれたんです。
あのスーパーセクシーダイナマイツが」
「お前、なんで普通に喋れないの…?」
恐怖すら覚えて、ファングはつぶやいた。
彼女はいうと、今までに見せたことのないほど深刻な顔で言葉を続けている。
「いやね、なんとここは異世界とも繋がることがあるんですってよ奥さん!
だから、そこに居ればいつか帰れるかも★と思って!」
暗い雰囲気をぱっと変えてまくしたてる月見の突拍子もない申し出を聞きながら、
ファングはぼんやりと思い出していた。
月見はそれこそ唐突に目の前に現れた。きけばこの世界とは全く異なる場所から
"飛ばされてきた"のだと言う。
ファングはそれを100%信じているわけでもないが、月見の言動は
「こいつは自分とは違う人種だな」と思わせるには十分すぎるくらいで、
そのあたりからすれば確かに彼女は異世界の人間に違いなかったのだが。
「…あー」
「アラッ★なんすかその平坦なリアクション!」
「いや…お前の口から出た言葉で一番納得できる言葉が
異世界がらみなんて…と思ったらなんかしみじみきちゃって」
果てのない徒労感に打ちひしがれ、ファングもまたトノヤが寄りかかっている
柵を手探りで見つけ、よじ登って腰を下ろす。
月見に関する事情を詳しく教えられていないトノヤは、あくび交じりで
薄い色の月を眺めていた。
「確かにしみじみベクトルっすなぁ!だけどホラ、出会いあれば別れあり、
エロ本見つかり涙あれば一人妄想にふけっての笑いありですよ!」
「なんかこう、そんだけ話しておいて会話が成立してるようで
してないってのは凄いと思う」
さきほどまで涙すら見せていたとは思えないほど、月見の笑顔は清々しい。
「てなわけで、ご理解頂けましたでしょーかッ★」
「言ってる事はさっぱりだけど、つまりはあそこに残るってことだよね?」
言うと、月見は勢いよく首を縦に振った。
そしていつものようにばたばたと必要以上に近づいてくる。
「だもんで、副将軍トノヤんとバンダナボーイファング君とは…お別れ…ッ」
「あー泣くなよ!なんだよお前実は女の子じゃん!」
「気持ちはわかるがおかしいだろ、それ」
トノヤのツッコミ(寝言かもしれないが)は無視して、急に泣き出した月見を
持て余し、ファングは無意味に手など伸ばしながら柵から降りた。
「泣くなって。なんだかよくわかんないけど、たぶん楽しかったから、だから
…えーと…泣くなって」
自分でもよくわからない慰めは、当然のことながら効果がなかった。
それでも月見はなんとか泣き止もうと涙を拭いている。
「月見、もしお前が帰れなくても…いつかまたリアさんちに会い行くからさ。な?」
両膝に手をついて、月見の顔を覗き込む――と、いきなり月見はがばりと
こちらの首に腕を巻きつかせ、さらに本格的に寝ていたトノヤも同じようにして
柵から引きずり下ろした。二人の喉から同時に悲鳴が漏れる。
『ぎゃあああああ!』
「うわああんお前ら大好きだこんちくしょー!」
「痛いってば!なんなの!お前テンションのムラありすぎだよ!」
「コンビニ…!」
「トノヤお前はいいかげん起きろ!」
沈むように路上に倒れこみ、全力で叫びながら、ファングはめまぐるしく揺れる
視界の中で静かに消えていく浅葱色の月を見た。
・・・★・・・
「で?」
「で…?」
空飛ぶ馬車が夜明けの空に消えたのを見送って、どこかぼろぼろになった
ファングとトノヤは、二人で疑問符を投げ合った。
「どうすんの」
「あー…」
ファングが再度尋ねると、トノヤは面倒だといわんばかりに意味もなく
伸びをしてから、これ以上ないほど淡白に一言で答えてくる。
「暇」
「なにそれ!わけわかんないよ」
笑いながら、路上に放りっぱなしだったザックを手に取る。
サイドポケットから紙製の小さい箱を取り出し、蓋を開けると、
そこには陽光を受けて淡い色を放つ遺産の欠片が収めてあった。
それを手に取り――軽く勢いをつけてトノヤに放ってやる。
「?」
顔をしかめながらもそれを受け取るのを見て、ゆっくり進む。
「行こっか。俺も暇だし」
返事はなかったが、黙って横に並ぶトノヤの肩を軽く小突くと、
ファングはいつもどおりの速さで歩き始めた。
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