キャスト:トノヤ・ファング
NPC:ワッチ・月見
場所:ヴァルカン/郊外
___________________
「んあぁあああ!っと」
盛大な伸びをかまし、トノヤは馬車から飛び降りた。
後ろからノロノロとファングも出てきた。
先に降りていたワッチは屈伸をして固まった身体をほぐしている。
「いやぁ…またこの骨馬車にお世話になるとは……」
気持ちぐったりとしたファングが振り返った先には古びた小さな馬車。
馬車自体はそこいらの物とは特に大差はない。ただ一つ違うとすれば、
車を引く馬が存在せず、車体の中心から伸びたロープの先に繋がれているのは、
白い鳥。
いや、皮も肉も羽根も何処へ置いてきたのか骨のみの鳥だった。
「なかなか空飛ぶ馬車なんて乗れないよな。まあ、乗り心地は別として、うん」
「ワッチ、狭すぎてずっと身体折れ曲がってたしね」
薄暗い月明かりに慣れてきた目を回りにやると、今居る場所はヴァルカン郊外の
小さな街道のようだ。
ぽつぽつと民家が並んでいる。
そろそろ空も白んできそうな遅い時間なので光の点いている家はない。
「さて、お宝も治ったことだし、これk……」
「ちょっとーーー!!お待ちくだされぇええ!何か!何か大事なことをお忘れではありませんかい!?」
『あ』
ファングの台詞を遮り、馬車の中からうぞうぞとみの虫のように出てきたのは、簀巻にされたスケミだった。
狭い空間でセクハラの限りを尽くそうと命を燃やしていたので、ぐるぐる巻きにして荷台に置いておいたのをすっかり忘れていた。
ワッチが急いでほどきにかかる。
「あっ、そ、そこはもう少し、やさし…あっ」
「変な声を出すんじゃなーい!ほどいてやらないぞ!」
「ぐえぇぇえ、締まってますぞ…!キまってますってオヤジ殿……!!!」
日課の筋トレより疲れた…と、ぼやきながらワッチが戻ってきた。
月見は何やらヨロヨロしているが、誰も気にしている様子はなかった。
「で?これからどーすんだ?」
街道わきの丸太で組まれた柵にだらしなく座るトノヤが眠そうに言った。
「オイラはここでお別れ、だな」
「ワッチ……」
ワッチは爽やかに笑って3人を見回した。
荷物を背負いなおし、ンルディを両手で正面に持つ。
七色に光らずともンルディは静かに月の光をキラキラと反射している。
それを満足そうに眺め、背中へ納めた。
「報酬は先にもらってるし。楽しかったぜ。こんなハチャメチャなパーティそうそうないからな」
「助かったよホント。ワッチのお陰で杖も無事に…ってわけには行かなかったけど、結果的にちゃんと手に入った」
「ファングはこの先もお宝探しに行くんだろ?」
「ああ、親父なんかには絶対ェ負けない!」
「ははは、なんだか、めっちゃ不安だけど、頑張れよ」
子供をあやすようにファングの頭に手をやり、わしわしとかき回した。
くすぐったそうに、照れくさそうにファングは口を尖らせて髪を直すと、仕切り直してワッチに手を突き出した。
ワッチは嬉しそうにファングの手をしっかり握りしめる。
力強い、というか強過ぎるワッチの握力に少し苦笑を漏らしてファングは改めて礼を言い、手を離した。
「ああああ!ずるいですぞ!ボクもいっしょにレッツザニギニギ☆シェイクザハァーn……およ?」
いつもの調子で避けられるかカウンターを喰らうと思っていた月見は、予想外の感触に変な声を出してしまった。
嫌そぉ~な引きつる顔を隠しきれてはいなかったがワッチは、はっはっは、と笑いながら月見に抱きつかれていた。
「まあ、最後ぐらい、う…うん。まあ、サービス、だぜ」
「オ、オ、オヤジ殿ぉおおお!!いや、ワッチん~~~!!!!」
「や、やっぱりキモイ!!!」
ボカッ
「ぎゃふん☆これも…愛ッ!」
ズシン
結局地面に沈むことになった月見。
はぁはぁと、荒い息で鳥肌のたった自分の腕を掴むワッチ。
そして、柵の上で器用に居眠りをしているトノヤを見やる。
軽くため息をつき、声をかけた。
「少年、おーい。トノヤ!」
「んあ?あ、ああ、起きてる、起きてるって。ん?おう。で、何食べる?おれは別にコンビニ弁当でも…」
「完全に寝ぼけてるじゃないか!少年!ああ、落ちるってあぶな!」
急に身体を起こしたせいで後ろに倒れそうになったトノヤをワッチは慌てて掴んだ。
そこでやっと現実へ戻ってきたトノヤは体大欠伸をしながら体制を整えた。
「はー……。少年、オイラはここでお別れだから。元気でな」
「ああ、じゃあな」
ポケットへ手を突っ込んだまま、ニヤリと口の端をあげて、一言。
「ちょ、ええええ!そんだけ!?」
あまりの素っ気なさについファングが突っ込む。
ワッチは疲れたように、ははは、と苦い笑いを漏らすしかなかった。
「もうちょっと、こう、なんかあるだろトノヤ!!ワッチにはそうとうお世話になったじゃん!」
「るせぇな、苦手なんだよ、こういう別れとか湿っぽいの」
「それにしたって……あー、もう。なんだかなぁ」
「ははは、良いよファング。じゃあ、ホントに行くよ。少年もあんまりファングをいじめるなよ」
じゃ!と、片手をあげてワッチは歩き出す。
「ワッチ!!」
「!」
ワッチは振り返ると同時に、飛んできた何かを掴んだ。
手の中身を確認すると驚いたように目を見開き、自分を呼んだ、それを投げてきたファングの顔を見た。
「これ…」
「ホント、ワッチにはお世話になったから。さ!」
「報酬はもう…」
「いーのいーの!今回はワッチのおかげで成功したようなもんだしね!」
「じゃあ、有難く頂いておくよ。サンキュ!みんな元気でな!」
最高に爽やかな笑顔で手を振り、ワッチは再び歩き出した。
「良いのか」
「なにが?」
「ここの通貨は良くわからないが、オマエの財布がスッカラカンなのはわかるぞ」
「う、いいの!なんでトノヤはそういうとこだけ目敏いんだよ…」
ファングとトノヤは沈んだままの月見を振り返った。
ずっと静かだったので意識がまだないのかと思ったが、うつぶせのまま顔はあげていた。
ワッチの小さくなった背中を眺めて少し涙目になっているのは気のせいだろうか。
二人が見ているのに気付くと、慌てて立ち上がる。
そして、月見は少し改まったように口を開いた。
「じゃあ、そろそろボクは屋敷に戻る事にしまっす★」
『はぁ!?』
静かな夜道に二人の叫び声がこだました。
_________
NPC:ワッチ・月見
場所:ヴァルカン/郊外
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「んあぁあああ!っと」
盛大な伸びをかまし、トノヤは馬車から飛び降りた。
後ろからノロノロとファングも出てきた。
先に降りていたワッチは屈伸をして固まった身体をほぐしている。
「いやぁ…またこの骨馬車にお世話になるとは……」
気持ちぐったりとしたファングが振り返った先には古びた小さな馬車。
馬車自体はそこいらの物とは特に大差はない。ただ一つ違うとすれば、
車を引く馬が存在せず、車体の中心から伸びたロープの先に繋がれているのは、
白い鳥。
いや、皮も肉も羽根も何処へ置いてきたのか骨のみの鳥だった。
「なかなか空飛ぶ馬車なんて乗れないよな。まあ、乗り心地は別として、うん」
「ワッチ、狭すぎてずっと身体折れ曲がってたしね」
薄暗い月明かりに慣れてきた目を回りにやると、今居る場所はヴァルカン郊外の
小さな街道のようだ。
ぽつぽつと民家が並んでいる。
そろそろ空も白んできそうな遅い時間なので光の点いている家はない。
「さて、お宝も治ったことだし、これk……」
「ちょっとーーー!!お待ちくだされぇええ!何か!何か大事なことをお忘れではありませんかい!?」
『あ』
ファングの台詞を遮り、馬車の中からうぞうぞとみの虫のように出てきたのは、簀巻にされたスケミだった。
狭い空間でセクハラの限りを尽くそうと命を燃やしていたので、ぐるぐる巻きにして荷台に置いておいたのをすっかり忘れていた。
ワッチが急いでほどきにかかる。
「あっ、そ、そこはもう少し、やさし…あっ」
「変な声を出すんじゃなーい!ほどいてやらないぞ!」
「ぐえぇぇえ、締まってますぞ…!キまってますってオヤジ殿……!!!」
日課の筋トレより疲れた…と、ぼやきながらワッチが戻ってきた。
月見は何やらヨロヨロしているが、誰も気にしている様子はなかった。
「で?これからどーすんだ?」
街道わきの丸太で組まれた柵にだらしなく座るトノヤが眠そうに言った。
「オイラはここでお別れ、だな」
「ワッチ……」
ワッチは爽やかに笑って3人を見回した。
荷物を背負いなおし、ンルディを両手で正面に持つ。
七色に光らずともンルディは静かに月の光をキラキラと反射している。
それを満足そうに眺め、背中へ納めた。
「報酬は先にもらってるし。楽しかったぜ。こんなハチャメチャなパーティそうそうないからな」
「助かったよホント。ワッチのお陰で杖も無事に…ってわけには行かなかったけど、結果的にちゃんと手に入った」
「ファングはこの先もお宝探しに行くんだろ?」
「ああ、親父なんかには絶対ェ負けない!」
「ははは、なんだか、めっちゃ不安だけど、頑張れよ」
子供をあやすようにファングの頭に手をやり、わしわしとかき回した。
くすぐったそうに、照れくさそうにファングは口を尖らせて髪を直すと、仕切り直してワッチに手を突き出した。
ワッチは嬉しそうにファングの手をしっかり握りしめる。
力強い、というか強過ぎるワッチの握力に少し苦笑を漏らしてファングは改めて礼を言い、手を離した。
「ああああ!ずるいですぞ!ボクもいっしょにレッツザニギニギ☆シェイクザハァーn……およ?」
いつもの調子で避けられるかカウンターを喰らうと思っていた月見は、予想外の感触に変な声を出してしまった。
嫌そぉ~な引きつる顔を隠しきれてはいなかったがワッチは、はっはっは、と笑いながら月見に抱きつかれていた。
「まあ、最後ぐらい、う…うん。まあ、サービス、だぜ」
「オ、オ、オヤジ殿ぉおおお!!いや、ワッチん~~~!!!!」
「や、やっぱりキモイ!!!」
ボカッ
「ぎゃふん☆これも…愛ッ!」
ズシン
結局地面に沈むことになった月見。
はぁはぁと、荒い息で鳥肌のたった自分の腕を掴むワッチ。
そして、柵の上で器用に居眠りをしているトノヤを見やる。
軽くため息をつき、声をかけた。
「少年、おーい。トノヤ!」
「んあ?あ、ああ、起きてる、起きてるって。ん?おう。で、何食べる?おれは別にコンビニ弁当でも…」
「完全に寝ぼけてるじゃないか!少年!ああ、落ちるってあぶな!」
急に身体を起こしたせいで後ろに倒れそうになったトノヤをワッチは慌てて掴んだ。
そこでやっと現実へ戻ってきたトノヤは体大欠伸をしながら体制を整えた。
「はー……。少年、オイラはここでお別れだから。元気でな」
「ああ、じゃあな」
ポケットへ手を突っ込んだまま、ニヤリと口の端をあげて、一言。
「ちょ、ええええ!そんだけ!?」
あまりの素っ気なさについファングが突っ込む。
ワッチは疲れたように、ははは、と苦い笑いを漏らすしかなかった。
「もうちょっと、こう、なんかあるだろトノヤ!!ワッチにはそうとうお世話になったじゃん!」
「るせぇな、苦手なんだよ、こういう別れとか湿っぽいの」
「それにしたって……あー、もう。なんだかなぁ」
「ははは、良いよファング。じゃあ、ホントに行くよ。少年もあんまりファングをいじめるなよ」
じゃ!と、片手をあげてワッチは歩き出す。
「ワッチ!!」
「!」
ワッチは振り返ると同時に、飛んできた何かを掴んだ。
手の中身を確認すると驚いたように目を見開き、自分を呼んだ、それを投げてきたファングの顔を見た。
「これ…」
「ホント、ワッチにはお世話になったから。さ!」
「報酬はもう…」
「いーのいーの!今回はワッチのおかげで成功したようなもんだしね!」
「じゃあ、有難く頂いておくよ。サンキュ!みんな元気でな!」
最高に爽やかな笑顔で手を振り、ワッチは再び歩き出した。
「良いのか」
「なにが?」
「ここの通貨は良くわからないが、オマエの財布がスッカラカンなのはわかるぞ」
「う、いいの!なんでトノヤはそういうとこだけ目敏いんだよ…」
ファングとトノヤは沈んだままの月見を振り返った。
ずっと静かだったので意識がまだないのかと思ったが、うつぶせのまま顔はあげていた。
ワッチの小さくなった背中を眺めて少し涙目になっているのは気のせいだろうか。
二人が見ているのに気付くと、慌てて立ち上がる。
そして、月見は少し改まったように口を開いた。
「じゃあ、そろそろボクは屋敷に戻る事にしまっす★」
『はぁ!?』
静かな夜道に二人の叫び声がこだました。
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