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2024/05/21 15:01 |
AAA -02nd. "A"t night all cats are grey/イヴァン(熊猫)
PartyMember:
フェドート・クライ イヴァン・ルシャヴナ ヴァージニア・ランバート
Stage:
ガルドゼンド王国南部・フォイクテンベルグ
Turn:
イヴァン・ルシャヴナ(01)
――――――――――――――――
飽きれるほど青い空が、直線で切り取られている。
そこに風が舞って、着ているマントの裾が視界に曲線を加えた。

青い――それこそ空に浸して染め上げたようなフードつきのマントは、
目立つように思えても日陰に入ればそう気に留めるものでもないだろう。

目深に被ったフードからのぞく髪の色も、空を見る隻眼も、みな一様に青い。
閉じられた唇は薄かった。その表情はめったに動かないが、まだどこか
少年の持つ独特な隙のようなものをかすかに残している。

暗い路地の下から空を見上げていたイヴァン・ルシャヴナは、悲鳴を聞いて
動きを止めた。

まず耳が反応する。甲高い悲鳴は短く、すでにやんでいたが
さきほどから言い争いのような会話は聞こえていたので位置は特定できた。
切れ切れに聞こえる内容から判断するに、誰かが脅されているらしい。

だがどうという事もない。路地では珍しいことではないし、
そうだったところで助けてやる義理も理由もない。

市場のざわめきは相変わらずだ。悲鳴ひとつ聞こえたからといって
それが破られるはずなどなかった。

イヴァンは歩きだした。

「――追い剥ぎかねぇ」

突然、足元から声がする。

だみ声と甲高い声が交じった不思議な響きのある声だ。
しかし声の主はいない。それでもイヴァンは歩みを止めることもせず、
ただ前を向いて進んでいる。

「今のは女じゃ無ェな。なんでぇ、男のくせに情けねぇ声出しやがる」

相づちなどまるで期待しないで声は毒づく。

「情けねぇといやぁ、今探してる某(なにがし)もなぁ。
まるで絵から抜け出てきたような駄目男じゃねぇか?
描かれた紙から出てくる根性はあるってぇのに紙よりうすっぺらい野郎だよゥ」

ぺらぺらとまくしたてる声は、イヴァンが歩いている間にあらゆる場所を
移動しながらついてきている。

「案外、そういう奴があんな声――旦那?」

足を止めると、数メートル先に進んでからあわてたように声も動きを止めた。
イヴァンは再び天を振り仰ぐと、いきなりその場で真上に跳んだ。

大して足音もたてずに、勢いを失う前に足が古い壁にかかる。
そこを足場にまた踏み切ると、体はなんなく路地を垂直に抜けた。

着地し、路地を構成する古いアパートメントの屋根の上から声のした方を探る。
路地は幾筋にも分かれてそのくせ狭いから、屋根と屋根を飛び移っていくのは
難しくなかった。

「旦那、自分で言っておいちゃ何だがそりゃいくらなんでも出来過ぎさァ」

陽の下に出たところで、声の主はようやく正体を現わした。
もっとも、隠れるつもりなどなかったのだろうが。

「どうせうだつの上がらねぇチンピラだよゥ」
「フィル」

声の主の名を呼んで、イヴァンは足元に目をやった。
整然と並ぶ瓦、それに流れる黒い影。声はそこからしていた。

「黙れ…」
「はいはい、影は影らしく這いつくばってましょ」

静かな叱咤に、フィルと呼ばれた影は流れた重油のように不規則な動きで
主人のシルエットをとって沈黙した。

騒々しい同伴者が黙ったことで、周囲の音がより微細に拾えるようになった。
もう一棟屋根を飛び越えて下を覗き込むと、ちょうど現場の真上だった。

目に飛び込んでくるのは彩度の高い鮮やかな黄色――。

"年の頃は二十四、五。金髪で長身、カフール風の派手な服装をした優男"

脳裏に閃くのは探している人間の特徴。それらすべてに合致した男が、
今まさに一人の女に刃物をつきつけられて腕を捻りあげられている。
男は依頼書の通りの長身だったが、女はその細腕でしっかとその動きを
抑えていた。スリップドレス一枚と、夜会から抜け出してきたような
格好をして、手には炎の曲線がそのまま凝り固まったような刃。

女の髪がふわりと揺れる。

「…あなた、名前は?」

男へのその問いは気だるげだが、感情がこもっていないわけではなかった。
針を含んだ綿。たとえるならそういうものに近い。

「いまさらそれ聞くの?ぁいたたたたフェドート・クライたたたた!
なんで名乗ったのに力込めるのー」
「偽名を使うなんていい度胸してるわね?」

フェドート・クライの名は子供でも知っているほど有名だ。
女が冗談だと思っても無理はない。
しかもそれが軽快な声音で名乗られたとあっては、信じろという方が無理だ。

イヴァンはしばらく様子を見ていたが、どうやら膠着状態にあるらしい。
女は本気だろうが、男に対するすべての事柄に確証を得られず
次の行動に移りかねているようだ。

ぱっと、女が顔をあげた。

「見せ物じゃないのよ。あっち行って」

苛立ちを隠さない女のせりふが、膨らんだ花弁のような唇から放たれる。
男も上目遣いでこちらを見上げてきていた。
もしかしたら最初から気がついていたのかもしれない。

イヴァンは観念して―――というより屋根の上にいる理由を失って、
女には答えないまま軽く跳躍して屋根から降りた。

女が男の肩越しににらみつけてくる。舌打ちすらしそうなくらい不機嫌な
その目尻には、泣きぼくろがひとつ。

「言ったでしょ。見てわからないかしら――家にお帰り、坊や」

男のほうへ目をやる。彼は自分と目が会うと、今日の空のように
晴れ晴れとした顔で笑うとこう言った。

「きゃー助けてー」

――――――――――――――――
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2008/07/13 01:04 | Comments(0) | TrackBack() | ○AAA

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