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2024/11/01 08:06 |
浅葱の杖28/ファング(熊猫)
キャスト:トノヤ・ファング
NPC:ワッチ・月見・リア・セバス
場所:ヴァルカン/リア邸内
――――――――――――――――

「待てー★」
「うわァあああ!来るな来ないでほんとに来ないで!」

夕闇に沈む不気味な木立ちの中を全力で駆けながら、ファングはただひたすらに
叫んでいた。
後ろを振り返れば、一体なにがそんなに楽しいのか満面の笑みを浮かべた
少女が追ってきている。

「なして逃げるですかファング君!お話があるというに!」
「やだやだやだお前の場合話だけじゃ終わらないじゃん!」
「なにを根拠にそげな事ー!」
「両手わきわきさせつつ寄ってくれば一目瞭然だってー!」

とはいえ、二人の間には十分な距離がある。
どちらかというと疲労しているのは月見のほうで、ファングはというと
屋敷をぐるりと回って帰るルートを見出すくらいの余裕はあった。

しかし月見のことだから、あらゆる法則を無視して
追い付いてこないとも限らない。
結局、ファングにできることは全力で逃げるほかにないという事だ。

「ぅおげあ★」

奇妙な声と共に派手な音が背後からした。
足を止めてそちらに目をやると、月見は頭から枯葉の山に突っ込んで
動きを止めていた。
木の根にでもつまづいて、そのまま幹にでも頭をぶつけた、といったところか。
その横には見慣れた巨体がたたずんでいる。

思わずファングは歓声をあげてそちらに駆け寄った。

「ワッチ!助けに来てくれたの!?」
「いや…お前らを探しに来たんだけどよ」

見上げるほどの巨体と褐色の肌を持つその男――ワッチは、
困ったように頭を掻きながら枯葉の山から生えている足を見やった。

「杖の修理が終わったらしい。帰るぜ」
「え!?マジ!?」

ざざざざ、とその足をひっつかんで引き抜き、目を回している
月見を軽々と肩に担いでワッチが歩き出す。
ファングも意気揚々と後に続く。
墓場がある林を進みながら、ふと思い出して呟いた。

「そういや、月見の話ってなんだったのかな…」
「話?」
「うん、なんか話があるとかって。でも超あやしかったから
今まで逃げ回ってたんだけど、聞いてやりゃよかったな」

落ち着いてみれば、全力で逃げたのが馬鹿らしくて
笑いがこみ上げてくる。もっとも、実際に月見に捕まっていたら
笑い事ではすまなかっただろうが。

「あとで聞いてやれよな。大事な話かもしんないから」

ワッチの一言に、ファングは頷いて軽い口調で答えた。

「そだね」

・・・★・・・

「難産だったけど。まぁなんとか形になったわ」

応接室に入るなり、リアは腕を組んでそう言った。
目の前のテーブルには、どこで誂(あつら)えたか紙製の長細い箱が置いてある。
その隣には同じような箱がもう一つあったが、そちらはかなり小さいものだった。

「意外に早かったっすね」
二つの箱とリアの顔を交互に見ながら、ファングはソファに腰を下ろす。

「そうね。ほかの注文もそんなに入ってなかったし…それに
 月見ちゃんが手伝ってくれたしね」
「月見が?」
「ええ」

ファングの問いに簡潔に答え、全員が腰を下ろしたのを見計らって
リアは長細い箱の蓋を開けた。自然に皆が身を乗り出す。

「…すげ」
「いったん溶かしてから再成形したの。まったく元通り、
てわけにはいかなかったけど、まぁほぼ前と同じ状態のはずよ」

箱に入っていた布ごと、リアが剣を捧げ持つようにして取り出したのは、
間違いなく『浅葱の杖』だった。
テーブルに置かれたそれに、顔を近付ける。

澄んだ水がそのまま凝り固まったような、淡い色。
じっと見ているとふいに魚影を見いだせそうな気さえする。
ファングはリアに笑顔を向けると、ぺこりと頭を下げた。

「いや十分元通りっすよ!ありがとございます!」
「あと、これ」

正直、その礼すら彼女にとってはどうでもいいことのようだったが、
言葉を受け取るように頷いて、小さいほうの箱を開ける。
敷き詰められた綿の中から角の取れた長方形の薄いガラス片が出てくる。
ガラス片には革紐が通され、吊り下げられるようになっていた。

「ペンダント…?」
「ええ、菓子袋に残った遺産の欠片で作ったの」

ファングの目の前でふらふらと振り子のように軽く振って、また箱に戻す。

「洗浄したけど本体に入れるわけにはいかなかったし…でも
 捨てるのももったいないしね」

テーブルに横たわる遺産と、箱に納まったペンダントを見比べるが。

「俺にはどっちのガラスも変わりないように見えるっすけど」
「そうね。大抵の細かい不純物は燃え尽きて飛んでしまうから。でも
 ゴミには違いないし」

いまだ起きない月見がソファの上で寝返りを打つ。
聞こえてくる寝言のようなうわごとのような呟きを聞く限りでは、
やはり逃げたのは正解だったらしい。

「ガラスとしては最悪だけど、アクセサリーにはいいんじゃない」

そこで自分の仕事は終わりと言わんばかりに、リアは言葉を切る。
ファングは小さい箱を手元に寄せ、革紐をつまんで遺産の欠片を
目の前に吊り下げて――隣でふんぞりかえっているトノヤに差し出した。

「…いる?」
「は?」

あくまで喧嘩腰のトノヤは、寝起きのせいかいつにも増して機嫌が悪かった。

「なんでだよ」
「またガラス化したくないもん俺」
「俺だってやだし」

険悪になりそうな空気を割るようにして、それまで黙っていたワッチが口を挟む。

「でももう、あの神殿から出ちまえばそんな事なくなるんだろ?」

目の前にある遺産、『浅葱の杖』はそれを持つ者の欲望を食らい、
ガラス化させてしまう力を持っている。ワッチの言うとおり、
安置されていた神殿から運び出されてきた今では杖を触ってもなんの反応もないが、
半身をガラス化されたあの恐怖は、今思い出しても寒気がするほどだった。
できることならああいった経験は二度としたくないものだ。

「や…でもなんか。リアさんには悪いけど」

詫びながら、額を掻くようにしてバンダナに触れる。
トノヤは台詞とは裏腹に、ペンダントに少しばかり興味を持ったらしかった。
箱を手元に引き寄せ、革紐をつまんで疑うような目で透明な欠片を見ている。
もらっとけよ、とワッチが言うと、彼はばつが悪そうになにやら毒づいて
ペンダントを箱に戻した。

ファングはそこでリアのほうに向き直り、杖の入った箱を押し戻す。

「あとこれ…リアさん、持っててもらえないっすか」
「え!?」

ガラス職人は驚愕の声をあげて動きを止めた。普段からあまり
表情を変えない彼女の珍しい顔になんとなく罪悪感に近いような
ものを覚えながら、苦笑する。

「なんつーか、また割っちゃいそうで」
「それはそうだけど」

間髪入れずに同意して、リアは念を押すようにファングの顔を下から
覗き込んでくる。

「でも、お父さんの形見なわけでしょ?これ。いいの?」
「まぁ…形見っちゃ形見っすけど。正直、俺が持ってても…。むしろ、
リアさんが持っててくれてたほうが大事にしてくれそうじゃないっすか」
「…それは…まぁ、そりゃあ大事にするけど…」

まさか依頼品をそのまま渡されるとは思っていなかったのだろう、
困惑したように頬に手をあてながら、リア。

一瞬黙り込んだ彼女の目を盗み、ファングはさっと周囲を見渡した。

ワッチは特に驚いたような顔を見せていなかったが、彼もファングと
同じように物にはあまり執着がないのか、じっと座ってただ事の成り行きを
見守っている。
月見はというと静かになってしまった室内で声を出すタイミングを逃したらしく、
ようやく目にした遺産を前になにか落ち着かないそぶりを見せていた。
窓のほうへ顔を向けているトノヤは論外だが、まったく話を聞いていないと
いうわけではなさそうだった。

独断で言ってしまったが、どうやら異論はないようでファングは内心
胸を撫で下ろした。

「俺は…どうでもいいんすよ。別に。宝が欲しいんじゃなくて、ただ
 見つけたいってだけなんすよ。しかも、親父のその形見ってこの世界中に
 まだたくさんあるはずだし。親父もまさか俺にそれを全部管理してもらおう
 なんて思ってるわけじゃなかったと思う…んです」

それはリアを説得する文句というより、ファングなりの自己分析と
父に対する想いだった。

「本当はちゃんと全部保存して…もしかしたらどこかに寄贈しなくちゃ
 いけないものもあるかもしれない。
 けど俺、トレジャーハンターだから。探すしか脳がなくて」

そして、軽い自嘲。

笑うように息を吐いて言葉を切ると、リアはふっと口を緩めて頷いた。

「――わかったわ。大丈夫、きっと大切に保管しとく」

――――――――――――――――
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2008/07/02 19:00 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖

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