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2024/05/21 11:46 |
AAA -01.st "A"ccident happened under the blue sky./フェドート(小林悠輝)
PartyMenber:
フェドート・クライ イヴァン・ルシャヴナ ヴァージニア・ランバート

Stage:
ガルドゼンド王国南部・フォイクテンベルグ

Turn:
フェドート・クライ(01)

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 進行中の仕事の収入が怪しくなってきたので、待機命令が出たのをいいことに、少し
陣を離れて出稼ぎにでてみることにした。傭兵一人の動向を気にするような人間は同職
以外には誰もいなかったので、陣を抜け出すのは簡単だった。

 その同職にしても、出かけるなら俺の分も買い出し頼むとか言ってくる暢気さなのだ
から、何の問題も起こるはずがない。

 侵攻当初の勢いも弱まってきて、ここからは無防備な城に不意打ちをかけるだけでは
なくなるのだから、どうせしばらく待機は続くだろう。順調に砦を二つ陥落させて、そ
ろそろ上層部が内輪揉めを始める時期でもある。恐らく五日は何の進展もあるまい。

 予想進軍経路から大きく外れて、馬を一日半も飛ばしたところに大きな町があること
は知っていた。フォイクテンベルグという長ったらしい名前のその町は交易で常に賑わ
っていて、ちっぽけな内乱程度には動じない。大昔に竜の被害を受けて壊滅した時でさ
え、数日後には焦土の上に大規模な闇市が立った。

“竜眼の”フェドート・クライは町の外に馬を預けてついでに着替えも済ませると、街
壁の検問を越えた。戦時だからか衛兵の様子は物々しかったが、ギルドの登録証を提示
して仕事を探している旨を伝えると、手続きはあっという間に終わった。
 いちおう、ここは今の仕事の上では敵国なのだけれど。

 市場に出ると、色とりどりの天幕の下に様々な品物が並んでいた。
 錫合金や真鍮の食器、古びた書物、異国の布。

 金属製の左腕、輝くばかりの金髪、太い帯で纏めた東国風の色鮮やかな衣装。
 人目を引く風体で、警戒心なくのこのこと通りを歩き、露店で熟れた果物を買う。

「毎度。お兄さん、その格好、芸者さんかい?」

「んーん、冒険者。営業用だよ。
 覚えてもらって、いいお仕事もらえるように」

「へぇー」

 果物売りの中年女性は感心したような声を上げた。
 フェドートは店の前で果物に噛りつき、端正な顔に無邪気な笑みを浮かべた。

「甘ーい!」

「そうかい、よかった。それは南の方の、星の林檎という果物なんだよ。
 うちの旦那が苗を持ってきて育ててるんだ」

「はじめて食べた! おいしいねー」

 フェドートはひとしきり騒いでから店を離れた。
 紫色の果物を片手に周囲を見渡す。人で賑わう目抜き通りの先、三階部分に鐘時計の
ある飲食店の角を右に曲がり、静かな路地へ入る。小綺麗な住宅地を抜けて、少しずつ
薄汚れた道へ入って行く。

 路地裏のごみ箱に果物の種を投げ入れて、指についた果汁を舐め取りながら進む。
 鉄の左腕で、衣装の影に殆ど隠れた剣帯の金具と長剣の柄を確かめる。


 ギルドを通して仕事を請けるようになったのは近年だ。
 前に登録したまま放っておいたのを思い出して寄ってみたところ、放置しすぎで登録
抹消されていた。登録証そのものは手元にあったので、それを元に情報を復元してもら
えたが、前より身元確認制度が厳しくなっていて、手続きが少し面倒だった。

 利用してみれば確かに便利な組織ではあった。個人営業の冒険者が減るわけだ。
 ある程度ランクが上がると登録証は身分証明書の役割すら果たし始めるらしく、何か
と話が早く済むことも多かった。そのランクの基準というものもわからないが、いくつ
か仕事をこなすうちにぽんぽんと勝手に上がって、上から二番目のところでとまった。

 最後の昇級のときに、登録証の形状変更だとか二つ名の登録だとか言われたが、思い
つかなかったので断った。登録証がカード状で困ったことはないし、異名なんて自分か
ら名乗るものではない。しかし、そのときの担当の職員は、二つ名の方はしつこく勧め
てきた。

“フェドート・クライ”というのは都市伝説のようなものの一種で、多くの怪物退治の
逸話を持つ戦士だ。貴族じみた容貌をした隻腕の若者だといわれているが、実際に本
人を見たという話は聞かない。
 冒険者や戦士階級の偽名としてよく使われる名前でもある。

 ややこしいからすぐにあんただとわかる呼び名を考えてくれと言われてもやっぱり思
いつかなかったので笑って誤魔化しておいたところ、いつの間にか、世間からは“竜眼
の”という冠詞を賜っていた。恐らく、原因の何割かはあの職員だろう。
 由来は、虹彩の細い左眸か。それとも「弩さえあれば竜の眼だって射抜ける」と大言
を吐いたことがあるからだろうか。

 久しぶりのギルドだ、と思いながら、剣の柄から手を離す。
 路地を抜け、周囲を見渡し、いちど通行人に道を尋ねた。礼を言って、また歩く。
 事務所などの並ぶ道の先、また大きな通りとぶつかる交差点がある。

 後ろから手首を掴まれ、腕を拗り上げられた。
 瞬きして、振り返ろうとしたが、相手がこちらを捕まえる手に力を篭めたので無理だ
った。下手に動くと関節がどうにかなる。痛いのは避けたい。

「……見つけた」

「え? 何?」

 押し殺した女の声。こちらが反撃しにくい角度と距離。
 視界の隅に、ふわふわと柔らかそうな髪が見えた。なんとなく覚えがある気がするが、
果たして誰だろう。それとも気のせいだろうか。

「例の奥さんから盗んだ指輪、返してくれるわね?」

「えー…?」

 心当たりがない。それでも思い出そうとしてみる。やっぱり心当たりがない。
 知らないと答えようとしたのと同時に、首元に刃物のようなものを当てられる感触が
あった。

「どこにやったの?」

「知らなぁい」

「ふざけてもダメよ」

「えっとー、通りから見えるよ?」

「あなたは未亡人につけこんだ悪い盗人で、わたしはそれを追いかけてきた冒険者。
 ほら、見られて都合の悪いことなんて何もないわ」

 女は、ふとしたはずみでこちらを見て、ぎょっとして足をとめた通行人に聞こえるよ
うに言った。

 フェドートは少し考えた。喋るたびに相手の勘違いが深まっている気がする。
 首には薄い金属の網を織り込んだ布飾りを巻いてあるから、一度くらい刃を引かれて
も大丈夫だ。少し大胆に喋ってみようか。でも、何て言おうかなぁ。

「人違いだと思う」

「……」

 若干、刃物が今までよりも強く押し付けられた。
 駄目だったか。そうだよなぁ。

「じゃあさ、おねーさんが探してるのはどんなひと?」

「……ある裕福な未亡人に囲われていた、自分ひとり養えないダメ男で、」

「うん」

 女は続けた。

「しかも受けた恩を忘れて、彼女の大切な指輪を持ち出した言語道断な神経の、」

「うん」

 女は続けた。
 ところでさっきからこの声にも聞き覚えがある気がするんだけど。

「年の頃は二十四、五。金髪で長身、カフール風の派手な服装をした優男」

「あー、それぼくだ」

 思わず言ってしまってから、付け加える。

「最後の部分だけきゃああああ! 痛い痛い痛いヤだー!」

 女が腕に無理な力をかけてきたので、暴れようとするふりをして右の肩と肘にかかる
負担を軽くする。女はそのことに気づいた様子はなかったが、実際はどうだろう。

「静かになさい。こんな格好の人間がどれだけいると思ってるの」

「二人くらいいるかも、がんばって探せば」

「……」

 女は、今度は完璧な無言で力を篭めた。
 鉄の義腕の付け根が鈍い音を立てたが、このくらいでは壊れない。生身の側を庇って、
さっきよりは控えめに喚きながら上半身を捻ってみる。だいぶ楽になった。これなら問
題なく雑談できそうだ。振り払って武器を抜くかはもうちょっとしてから考えよう。


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2008/07/02 18:58 | Comments(0) | TrackBack() | ○AAA

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