◆――――――――――――――――――――――――――――
出演:ワッチ・ファング・月見(アル)
場所:ヴァルカン(『暴れ山羊』
NPC:ドワーフ系の鍛冶屋
◆――――――――――――――――――――――――――――
小屋の中。
鍛冶屋を長年営んでいたであろうその小屋の中はさっぱりとしていた。
鍛冶屋を辞めるため、品物を片付けたからであろう。
今はただ床に散らばる身の回りの生活品と、鍛冶屋であることを示すかまどが残って
いるのみだ。
そのかまどにはしばらく使っていないはずなのに埃がまったく見当たらない。
毎日掃除しているのだろうか。
「おーい!オイラが取ろうか?」
壁に一つだけ、ぽつんとかけられた盾。
それを脚立を使いつつ取ろうと奮闘するドワーフの鍛冶屋の親父。
そんな鍛冶屋の親父にワッチが手伝おうと話し掛ける…が
「い、いやじゃ、これはワシがとるんじゃッ!」
拒否の意志を首の激しい横運動で表す。
「ワシはまだまだ若いモンの力を借りる程おちぶれちゃおらんッ!!」
鍛冶屋の親父は気を取り直しぷるぷると震える腕を盾へと伸ばす。
「…頑固な親父だぜ」
そう言ってワッチは十回目のため息をついた。
これで十回目。
鍛冶屋の親父が奮闘しはじめてから十回程くりかえされた会話である。
充分に盾が取れる高さはあるのだがどうやら鍛冶屋の親父は高い所が苦手らしい。
それはドワーフゆえの身長の低さのせいでもある。
ワッチ達人間にとってはなんてない高さでも彼等にとっては違う世界なのだ。
それに加えて先程の拒否首横運動のせいで気持ち悪さも加わったらしく更に状況は悪
化した。
「高いとこが苦手ならわざわざ高いとこに飾らなくてもなぁ”ンルディ”」
ワッチの背後から中の様子をみていたファングが語尾に違和感を残しつつぽつりとも
らす。
そんなファングを不審がることもなく後ろを向く。
「極限状態が好きなんじゃねぇかな?」
「何かアレだよな~磁石的だか痔客的だかいう”ンルディ”…おおッ?!ワッチん見
てくれッ!!」
ファングはそういって右手にもった魔剣をワッチの鼻先に突き付ける。
あまりの勢いのよさに『鼻先に突き付ける』という文章に相応しく、少しばかり剣の
先端がワッチの鼻先に刺さっている。
が、やはり趣味が肉体鍛錬のツワモノ。
肉体鍛練という言葉に恥じぬ鍛えっぷりのおかげか血が出ていない。
恐るべし。
「ファング…良く飽きねぇな…」
何より恐ろしいのがちゃっかりと刺してたり刺されてたりするのにさっぱり気にして
ない両者である。
「見てくれよッ!今回のこの色の変わり具合ッ!」
そう言われて面倒臭そうに鼻先に突き付けられた魔剣をみつめる。
ワッチ本人は気付いてないだろうが彼は今、素晴らしく寄り目であった。
真顔で寄り目なだけに妙な威圧感がある。
そんなワッチに寄り目で見つめられている魔剣は刀身の色を赤、黒、黄、茶色、橙色
…その系統の色に次々と変わっていく。
その系統の色。
排泄物系統の色だったりする。
「こいつぁすげぇな…色んな意味で」
「だろッ!?こうむずむずと…」
偶然による排泄物カラーリングに何故かちょっと便意を催しつつ雑談する二人。
そんな中。
「……うっぷ」
ようやくその腕に盾を入手した鍛冶屋の親父の口から危険な呻きがもれる。
リアル排泄物の色というものが拝めるかもしれない。
「そういえば、月見はどうしてんかな」
いまだ変色していく魔剣を見つめるワッチは、ぽつりと呟いた。
◆
ここにも一人、リアル排泄物な人物が一人いた。
「うぃ~★すっきりッ」
月見である。
魔剣の期待の機能がバイブ機能やイボが出たりとかそんな夜の闘い系統じゃなかった
のがよほどガッカリしたらしく、やり場のない切なさが昨日喰いまくった御飯の消化
にまわされたらしい。
…と、いうわけで小屋の裏側にまわって野グソした月見であった。
ちゃっかり野グソ進行中にワッチやファングが乱入してこないかなぁ、という畜生な
展開を期待していたの月見だがそんなことはまったくもってもなかった。
「…っとっと!ちゃんと隠蔽せねばッ!」
とりあえず人気もないのでささっとすまし、野グソ現場に土を盛る。
あまりに臭かったので大量に盛って消臭するために深く深く土を掘る。
掘るったら掘る。
掘る掘る掘る掘るほるほるほるほるほるほる。
ほれほれほれほれほれほれほれほれほれほれ。
みつけろ。
みつけろ、触媒を。
みつけろ、原因を。
白いものがみえる。
臭いが届く。
ナニカが見える。
光が見える。
見つけた。
みつけた。
地中に埋もれていた『ナニカ』を土で汚れた手で引き上げる。
引き上げて、土を払って、それをまじまじとみつめた。
藁で作った簡素な人形。普通の藁人形。
見える。
藁人形の両手にまとわりつくどす黒い邪気を。
人形の内部にはあのドワーフの鍛冶屋のものとおぼしき髪の毛があった。
どうやらここの鍛冶屋が店をたたむ原因になった持ち主が全て死んでしまったという
剣は、この藁人形の呪力によって呪われてしまったらしい。
「………………」
今は離れた故郷の言霊を紡ぎ意識を高め、藁人形を浄める。
藁人形の両手にまとわりつく黒い邪気が空へとのぼっていく。
しかし、これで剣の呪いが解けたかどうかはわからない。
死の影はいつ襲ってくるか分からない。
それは持ち主だけではなく周りの人間をも巻込むかもしれない。
それはとても…
「楽しみは独り占めさせないよ、月見」
月見…アルは呟いた。
いまださらされた野グソの前で。
▽
「大丈夫か?」
突如、月見の視界にワッチの顔がいっぱいにひろがった。
反射的に今までにないほどの接近具合なのを認識し、腰を撫でさすろうとする…が、
すばらしき早さのチョップで阻止された。
「こ、ここはどこですかぃ…ッ?」
頭がぼうっとして今どんな状況におかれているのかわからない月見。
なんせ野グソをした直後あたりから記憶が霞がかかったように思い出せないのだ。
周りをみわたすとそこは先程までいた鍛冶屋の小屋ではなく、ごつごつとした岩がた
くさんある場所だった。
どうやら、町の外れにある山のふもとらしいが…。
「どこって…オイラ達と歩いて到着したばっかじゃねーか」
「え、いやッ、到着っつーかさっきまで鍛冶屋にいなかったっけかッ?」
「オイラより若いのにボケるなよッ。ファング、もっかい説明してやってくれッ」
そういってワッチは少し離れたところで地図を広げ、何やら調べているファングに話
し掛ける。
「ここは浅葱の杖の手がかりがある場所さ。」
続く
出演:ワッチ・ファング・月見(アル)
場所:ヴァルカン(『暴れ山羊』
NPC:ドワーフ系の鍛冶屋
◆――――――――――――――――――――――――――――
小屋の中。
鍛冶屋を長年営んでいたであろうその小屋の中はさっぱりとしていた。
鍛冶屋を辞めるため、品物を片付けたからであろう。
今はただ床に散らばる身の回りの生活品と、鍛冶屋であることを示すかまどが残って
いるのみだ。
そのかまどにはしばらく使っていないはずなのに埃がまったく見当たらない。
毎日掃除しているのだろうか。
「おーい!オイラが取ろうか?」
壁に一つだけ、ぽつんとかけられた盾。
それを脚立を使いつつ取ろうと奮闘するドワーフの鍛冶屋の親父。
そんな鍛冶屋の親父にワッチが手伝おうと話し掛ける…が
「い、いやじゃ、これはワシがとるんじゃッ!」
拒否の意志を首の激しい横運動で表す。
「ワシはまだまだ若いモンの力を借りる程おちぶれちゃおらんッ!!」
鍛冶屋の親父は気を取り直しぷるぷると震える腕を盾へと伸ばす。
「…頑固な親父だぜ」
そう言ってワッチは十回目のため息をついた。
これで十回目。
鍛冶屋の親父が奮闘しはじめてから十回程くりかえされた会話である。
充分に盾が取れる高さはあるのだがどうやら鍛冶屋の親父は高い所が苦手らしい。
それはドワーフゆえの身長の低さのせいでもある。
ワッチ達人間にとってはなんてない高さでも彼等にとっては違う世界なのだ。
それに加えて先程の拒否首横運動のせいで気持ち悪さも加わったらしく更に状況は悪
化した。
「高いとこが苦手ならわざわざ高いとこに飾らなくてもなぁ”ンルディ”」
ワッチの背後から中の様子をみていたファングが語尾に違和感を残しつつぽつりとも
らす。
そんなファングを不審がることもなく後ろを向く。
「極限状態が好きなんじゃねぇかな?」
「何かアレだよな~磁石的だか痔客的だかいう”ンルディ”…おおッ?!ワッチん見
てくれッ!!」
ファングはそういって右手にもった魔剣をワッチの鼻先に突き付ける。
あまりの勢いのよさに『鼻先に突き付ける』という文章に相応しく、少しばかり剣の
先端がワッチの鼻先に刺さっている。
が、やはり趣味が肉体鍛錬のツワモノ。
肉体鍛練という言葉に恥じぬ鍛えっぷりのおかげか血が出ていない。
恐るべし。
「ファング…良く飽きねぇな…」
何より恐ろしいのがちゃっかりと刺してたり刺されてたりするのにさっぱり気にして
ない両者である。
「見てくれよッ!今回のこの色の変わり具合ッ!」
そう言われて面倒臭そうに鼻先に突き付けられた魔剣をみつめる。
ワッチ本人は気付いてないだろうが彼は今、素晴らしく寄り目であった。
真顔で寄り目なだけに妙な威圧感がある。
そんなワッチに寄り目で見つめられている魔剣は刀身の色を赤、黒、黄、茶色、橙色
…その系統の色に次々と変わっていく。
その系統の色。
排泄物系統の色だったりする。
「こいつぁすげぇな…色んな意味で」
「だろッ!?こうむずむずと…」
偶然による排泄物カラーリングに何故かちょっと便意を催しつつ雑談する二人。
そんな中。
「……うっぷ」
ようやくその腕に盾を入手した鍛冶屋の親父の口から危険な呻きがもれる。
リアル排泄物の色というものが拝めるかもしれない。
「そういえば、月見はどうしてんかな」
いまだ変色していく魔剣を見つめるワッチは、ぽつりと呟いた。
◆
ここにも一人、リアル排泄物な人物が一人いた。
「うぃ~★すっきりッ」
月見である。
魔剣の期待の機能がバイブ機能やイボが出たりとかそんな夜の闘い系統じゃなかった
のがよほどガッカリしたらしく、やり場のない切なさが昨日喰いまくった御飯の消化
にまわされたらしい。
…と、いうわけで小屋の裏側にまわって野グソした月見であった。
ちゃっかり野グソ進行中にワッチやファングが乱入してこないかなぁ、という畜生な
展開を期待していたの月見だがそんなことはまったくもってもなかった。
「…っとっと!ちゃんと隠蔽せねばッ!」
とりあえず人気もないのでささっとすまし、野グソ現場に土を盛る。
あまりに臭かったので大量に盛って消臭するために深く深く土を掘る。
掘るったら掘る。
掘る掘る掘る掘るほるほるほるほるほるほる。
ほれほれほれほれほれほれほれほれほれほれ。
みつけろ。
みつけろ、触媒を。
みつけろ、原因を。
白いものがみえる。
臭いが届く。
ナニカが見える。
光が見える。
見つけた。
みつけた。
地中に埋もれていた『ナニカ』を土で汚れた手で引き上げる。
引き上げて、土を払って、それをまじまじとみつめた。
藁で作った簡素な人形。普通の藁人形。
見える。
藁人形の両手にまとわりつくどす黒い邪気を。
人形の内部にはあのドワーフの鍛冶屋のものとおぼしき髪の毛があった。
どうやらここの鍛冶屋が店をたたむ原因になった持ち主が全て死んでしまったという
剣は、この藁人形の呪力によって呪われてしまったらしい。
「………………」
今は離れた故郷の言霊を紡ぎ意識を高め、藁人形を浄める。
藁人形の両手にまとわりつく黒い邪気が空へとのぼっていく。
しかし、これで剣の呪いが解けたかどうかはわからない。
死の影はいつ襲ってくるか分からない。
それは持ち主だけではなく周りの人間をも巻込むかもしれない。
それはとても…
「楽しみは独り占めさせないよ、月見」
月見…アルは呟いた。
いまださらされた野グソの前で。
▽
「大丈夫か?」
突如、月見の視界にワッチの顔がいっぱいにひろがった。
反射的に今までにないほどの接近具合なのを認識し、腰を撫でさすろうとする…が、
すばらしき早さのチョップで阻止された。
「こ、ここはどこですかぃ…ッ?」
頭がぼうっとして今どんな状況におかれているのかわからない月見。
なんせ野グソをした直後あたりから記憶が霞がかかったように思い出せないのだ。
周りをみわたすとそこは先程までいた鍛冶屋の小屋ではなく、ごつごつとした岩がた
くさんある場所だった。
どうやら、町の外れにある山のふもとらしいが…。
「どこって…オイラ達と歩いて到着したばっかじゃねーか」
「え、いやッ、到着っつーかさっきまで鍛冶屋にいなかったっけかッ?」
「オイラより若いのにボケるなよッ。ファング、もっかい説明してやってくれッ」
そういってワッチは少し離れたところで地図を広げ、何やら調べているファングに話
し掛ける。
「ここは浅葱の杖の手がかりがある場所さ。」
続く
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