PC:エンジュ、シエル、レイン
NPC:ユークリッド、オーガス、魔王、聖霊
場所:夢の島ナイティア
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舞い終わると、祭壇が光に包まれた。儀式は無事に成功したみたいで、肩に止まっていた白い鳥が羽根の飾りに戻って行く。
私は軽く一息つくと、目に痛くない優しい光の中黒いカモノハシの姿を探した。
見つけた魔王は、また最初のように抱っこするのに手ごろなサイズに戻っていた。ちっちゃい手を頭の横に当ててぶるぶると震えている所を見ると、この光にはカモノハシを弱らせるような効果があるのかもしれない。
全力で可愛い可愛いアイツの元へ駆け寄る。途中で行く手を遮るように河があったけど、新しく水が湧き出す事はなくなったみたいで川幅が狭くなっていたからなんなく飛び越える事ができた。一歩近づく毎に一回ゼリー状にまで固まりかけていた私の理性が溶け、それに留まらず蒸発して耳から外へと抜けていく。ああもう、何も考えられない……!!
「ちょっ、レイン?」
後一歩で抱きしめられる、というときにエンジュさんの声が耳に入った気がした。でもエンジュさんは祭壇の外にいたハズだし声が聞こえるわけがないよねっていう事でそのまま私はカモノハシのところにまっすぐ一直線にダイビング!
相変わらずのまるでぬいぐるみのような抱き心地と上等な布のような手触りがほんっとうに最高。いいなぁコレ欲しいなぁとかネジの外れた頭で考えながら私はギュっと腕に力を込めた。
「レイン、そのまま動かないで!」
横の方から掛かったユークリッドさんの声に振り向くと、片膝を立てて両手で何かを持っているのが見えた。あれは……シエルさんの?
ソレが何かを思い出す前に、ユークリッドさんの指が人差し指を引き絞るのが見えた。パァンと乾いた音が辺りに響き渡る。そうだ、あれは確か銃だ。火薬の力で弾を飛ばす道具。でも、普通ならそこから飛び出すはずの弾が出てきた様子がない。おかしいなって思考の隅っこでそんな事を考えていると、突然抱きしめているカモノハシの側頭部で何かが弾けた。
パァン、パァンとさらに音が重なったところで私は半分正気にかえり、カモノハシを守る為に符を取り出そうとした。でも、そんなの間に合うわけがない。そう、確かシエルさんの銃は篭められた風を打ち出す銃だった。その弾速はそもそもが反応できない速度の火薬銃のそれを上回っている。
そして、何かする間もなくパン、パンという衝撃がカモノハシの体を通して私の腕に伝わった。
思わず怒りそうになって、復活した理性の残り半分が慌てて急ブレーキを掛ける。どんなに可愛くてもこの魔王は儀式を邪魔しに来た敵なんだ。この島の人の生活を考えると、やっぱりここで倒しておかないといけない。
諦めきれないでもう一度力を込めると、もぞりと動く感覚があった。慌てて視線を落すと、可愛いカモノハシが弾を受けた側頭の部分を手で押さえているのが目に入った。
『愚かな、この程度の攻撃でこの魔王を倒そうなどと……アイタタタ、まったく、寸分違わず同じところにブチこみよって……あー、腫れてるし……』
生きていたのを喜ぶ気持ちとトドメを刺さなきゃっていう気持ちの両方が私の中でせめぎあって動けない。
エンジュさんは銀の短剣を持って、立ち尽くしていた。
全身ずぶぬれの変態は段々水がなくなってきた元河のあったところから起き上がって、苦しそうにごほごほ言っている。
そして、ユークリッドさんは遠くから撃ってもダメなら近くでって事なんだと思う。こっちに向かって駆け寄って来ていた。
カチリ、と撃鉄を上げる音が聞こえた。さらに二歩踏み込んで、ピタリと狙いを定める。思わず私は目を閉じた。やっぱりこんな可愛いのを殺しちゃうなんてイヤ……!!
だけど、いつまでたってもさっきのような衝撃が伝わってくる事はなかった。パァンという乾いた音も聞こえない。おそるおそる目を開いてみると、左右に分けて垂らした金髪を持ち、人を食ったような表情を浮かべ、そしてシャツにズボンというラフな格好をした人が立っていた。それは、昔家の近所に住んでいたお兄さんの姿。
「まぁ、待とうや。そう無闇に殺すこともないだろう?」
ああ、違うや、見掛けも声も同じだけど、口調が微妙に違う。そう、この人は――
「聖霊様!」
私の言葉に周りの皆が驚いた。無理もないと思う。聖霊様がこんなノリのカルい普通のおにいさんだと誰が思うだろう。
「本当にこのチャラいのが聖霊様……?」
信じられない、という表情。
もし立場が逆だったら私がああいう表情をしてたんだろうなぁ。
「俺の姿は巫女のお嬢ちゃんが見た夢を媒介にしてるからな。まぁ、気にすんな」
エンジュさんの呟きに聖霊様が答える。なるほど、だから私の知ってるお兄さんの姿で出てきたんだ。
「貴方が聖霊様なのはいいとして、魔王を殺すなっていうのはどういう事ですか」
次に口を開いたのはユークリッドさん。よく見ると聖霊様はユークリッドさんが持ってる銃の弾が入っている部分を掴んでいた。ああすると撃てなくなるのかな?
「ああ、さっき儀式が終了した時この辺りを光が包んだだろ?あの時に、ついでに魔王を無力化しておいたんだ。今じゃコイツは何の力も残っていない、ただのカモノハシってわけさ」
こともなげに聖霊様は言い切った。その内容に慌てたのか腕の中でカモノハシがばたばたと手を動かしたりしはじめた。
『くっ。なんという事だ……』
しばらくするとがっくりという感じで体の力が抜ける。なんとなく可哀想で頭を撫でてあげた。それにしても、さっきから声の聞こえ方が違う気がする。耳からじゃなくて、直接頭の中に響いてくるような。
「ついでに、力の八割くらいをなくしたから今じゃもう喋る事すらできねぇ。な、わざわざ殺すこともないだろ?」
◆◇★☆†◇◆☆★
結果として、カモノハシ魔王は殺される事を免れた。というか、私が引き取る事を条件に強引にやめさせた。だってこんなに可愛いのに殺しちゃうなんて可哀想だもの。
聖霊様は雨を降らせなかった。降らせないで、もっと強引に恒久的に水源の水が減らないようにしてしまった。魔王の魔力を奪ったからできた、らしいんだけど本当かなぁ。
とにかく、これでもう島を水不足が悩ます事はなくなったみたい。それで、今夜は急遽お祭りが開かれる事になった。私やエンジュさん、シエルさん、ユークリッドさんの外来組はお客様扱いで今は宿屋でくつろぎ中。
そういえば、意外だったのは聖霊様。なんでも"今回の体は精霊の眷属だから巫女がいなくても存在し続けられる"らしくて、人間として生活を送ってみるって言っていた。今夜のお祭りにも参加するみたいで、今はやっぱり別室で休憩してるみたい。
晴れてうちのコになったカモノハシ(名前どうしようかなぁ)をなでなでしていると、外かドーン!っていう音や明るい音楽の音色が聞こえ始めた。
コンコン、とドアをノックする音。お祭りが始まったんだなと私はウキウキしながら部屋の外に飛び出した。
NPC:ユークリッド、オーガス、魔王、聖霊
場所:夢の島ナイティア
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舞い終わると、祭壇が光に包まれた。儀式は無事に成功したみたいで、肩に止まっていた白い鳥が羽根の飾りに戻って行く。
私は軽く一息つくと、目に痛くない優しい光の中黒いカモノハシの姿を探した。
見つけた魔王は、また最初のように抱っこするのに手ごろなサイズに戻っていた。ちっちゃい手を頭の横に当ててぶるぶると震えている所を見ると、この光にはカモノハシを弱らせるような効果があるのかもしれない。
全力で可愛い可愛いアイツの元へ駆け寄る。途中で行く手を遮るように河があったけど、新しく水が湧き出す事はなくなったみたいで川幅が狭くなっていたからなんなく飛び越える事ができた。一歩近づく毎に一回ゼリー状にまで固まりかけていた私の理性が溶け、それに留まらず蒸発して耳から外へと抜けていく。ああもう、何も考えられない……!!
「ちょっ、レイン?」
後一歩で抱きしめられる、というときにエンジュさんの声が耳に入った気がした。でもエンジュさんは祭壇の外にいたハズだし声が聞こえるわけがないよねっていう事でそのまま私はカモノハシのところにまっすぐ一直線にダイビング!
相変わらずのまるでぬいぐるみのような抱き心地と上等な布のような手触りがほんっとうに最高。いいなぁコレ欲しいなぁとかネジの外れた頭で考えながら私はギュっと腕に力を込めた。
「レイン、そのまま動かないで!」
横の方から掛かったユークリッドさんの声に振り向くと、片膝を立てて両手で何かを持っているのが見えた。あれは……シエルさんの?
ソレが何かを思い出す前に、ユークリッドさんの指が人差し指を引き絞るのが見えた。パァンと乾いた音が辺りに響き渡る。そうだ、あれは確か銃だ。火薬の力で弾を飛ばす道具。でも、普通ならそこから飛び出すはずの弾が出てきた様子がない。おかしいなって思考の隅っこでそんな事を考えていると、突然抱きしめているカモノハシの側頭部で何かが弾けた。
パァン、パァンとさらに音が重なったところで私は半分正気にかえり、カモノハシを守る為に符を取り出そうとした。でも、そんなの間に合うわけがない。そう、確かシエルさんの銃は篭められた風を打ち出す銃だった。その弾速はそもそもが反応できない速度の火薬銃のそれを上回っている。
そして、何かする間もなくパン、パンという衝撃がカモノハシの体を通して私の腕に伝わった。
思わず怒りそうになって、復活した理性の残り半分が慌てて急ブレーキを掛ける。どんなに可愛くてもこの魔王は儀式を邪魔しに来た敵なんだ。この島の人の生活を考えると、やっぱりここで倒しておかないといけない。
諦めきれないでもう一度力を込めると、もぞりと動く感覚があった。慌てて視線を落すと、可愛いカモノハシが弾を受けた側頭の部分を手で押さえているのが目に入った。
『愚かな、この程度の攻撃でこの魔王を倒そうなどと……アイタタタ、まったく、寸分違わず同じところにブチこみよって……あー、腫れてるし……』
生きていたのを喜ぶ気持ちとトドメを刺さなきゃっていう気持ちの両方が私の中でせめぎあって動けない。
エンジュさんは銀の短剣を持って、立ち尽くしていた。
全身ずぶぬれの変態は段々水がなくなってきた元河のあったところから起き上がって、苦しそうにごほごほ言っている。
そして、ユークリッドさんは遠くから撃ってもダメなら近くでって事なんだと思う。こっちに向かって駆け寄って来ていた。
カチリ、と撃鉄を上げる音が聞こえた。さらに二歩踏み込んで、ピタリと狙いを定める。思わず私は目を閉じた。やっぱりこんな可愛いのを殺しちゃうなんてイヤ……!!
だけど、いつまでたってもさっきのような衝撃が伝わってくる事はなかった。パァンという乾いた音も聞こえない。おそるおそる目を開いてみると、左右に分けて垂らした金髪を持ち、人を食ったような表情を浮かべ、そしてシャツにズボンというラフな格好をした人が立っていた。それは、昔家の近所に住んでいたお兄さんの姿。
「まぁ、待とうや。そう無闇に殺すこともないだろう?」
ああ、違うや、見掛けも声も同じだけど、口調が微妙に違う。そう、この人は――
「聖霊様!」
私の言葉に周りの皆が驚いた。無理もないと思う。聖霊様がこんなノリのカルい普通のおにいさんだと誰が思うだろう。
「本当にこのチャラいのが聖霊様……?」
信じられない、という表情。
もし立場が逆だったら私がああいう表情をしてたんだろうなぁ。
「俺の姿は巫女のお嬢ちゃんが見た夢を媒介にしてるからな。まぁ、気にすんな」
エンジュさんの呟きに聖霊様が答える。なるほど、だから私の知ってるお兄さんの姿で出てきたんだ。
「貴方が聖霊様なのはいいとして、魔王を殺すなっていうのはどういう事ですか」
次に口を開いたのはユークリッドさん。よく見ると聖霊様はユークリッドさんが持ってる銃の弾が入っている部分を掴んでいた。ああすると撃てなくなるのかな?
「ああ、さっき儀式が終了した時この辺りを光が包んだだろ?あの時に、ついでに魔王を無力化しておいたんだ。今じゃコイツは何の力も残っていない、ただのカモノハシってわけさ」
こともなげに聖霊様は言い切った。その内容に慌てたのか腕の中でカモノハシがばたばたと手を動かしたりしはじめた。
『くっ。なんという事だ……』
しばらくするとがっくりという感じで体の力が抜ける。なんとなく可哀想で頭を撫でてあげた。それにしても、さっきから声の聞こえ方が違う気がする。耳からじゃなくて、直接頭の中に響いてくるような。
「ついでに、力の八割くらいをなくしたから今じゃもう喋る事すらできねぇ。な、わざわざ殺すこともないだろ?」
◆◇★☆†◇◆☆★
結果として、カモノハシ魔王は殺される事を免れた。というか、私が引き取る事を条件に強引にやめさせた。だってこんなに可愛いのに殺しちゃうなんて可哀想だもの。
聖霊様は雨を降らせなかった。降らせないで、もっと強引に恒久的に水源の水が減らないようにしてしまった。魔王の魔力を奪ったからできた、らしいんだけど本当かなぁ。
とにかく、これでもう島を水不足が悩ます事はなくなったみたい。それで、今夜は急遽お祭りが開かれる事になった。私やエンジュさん、シエルさん、ユークリッドさんの外来組はお客様扱いで今は宿屋でくつろぎ中。
そういえば、意外だったのは聖霊様。なんでも"今回の体は精霊の眷属だから巫女がいなくても存在し続けられる"らしくて、人間として生活を送ってみるって言っていた。今夜のお祭りにも参加するみたいで、今はやっぱり別室で休憩してるみたい。
晴れてうちのコになったカモノハシ(名前どうしようかなぁ)をなでなでしていると、外かドーン!っていう音や明るい音楽の音色が聞こえ始めた。
コンコン、とドアをノックする音。お祭りが始まったんだなと私はウキウキしながら部屋の外に飛び出した。
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