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2024/05/16 17:16 |
天使と空と優しい雨~第三話~/エンジュ(千鳥)
:エンジュside【1】  
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『被害者友の会』
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PC:エンジュ シエル レイン
NPC:酒場の外
場所:商人
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 生誕を祝う言葉。
 揺り篭の音。
 女が歌う子守唄。

 空気のように自然で、大切で。
 ソレを奪われた私は、
 まるで翼をもがれた鳥のように
 空から、奈落へと――――。

 ☆  ☆  ☆

 酒場を出ると、そこは既に闇だった。
 エンジュの脇にいる美しい友人は、珍しくその秀麗な顔を覆う仮面を外していた。
 白い肌と白い髪が、月光に照らされ真珠のように柔らかな輝きを放っていた。

「エンジュ?聞いてるの?」
「ん?ゴメン、聞いてなかった。シエルに見惚れてたから」 
「…それ、言う相手間違ってるんじゃない?」
「じゃあ誰に言うのよ?」

 慣れているのか、諦めたのか、シエルはため息をひとつ吐くと、エンジュを相手に
することなく、その長い睫を伏せる。シエルが呼んだ≪風≫が、エンジュの髪を軽く
揺らした。
 心地よい夜風に混じって、精霊の囁きが聞こえてエンジュは小さく舌打ちした。
 知らぬ間に、口に呪文を乗せている自分に気がついたからである。
 今までと、感覚自体は何一つ変わっていないのに、まるで手ですくった水のように
魔法が漏れていく。
 飲む間もなく、消えて行く―――。魔力は、確かに奪われていた。   

「あ」
 
 シエルが小さく声を漏らす。
 エンジュの手からすり抜けていった魔法の流れを辿るように、シエルは一度エンジ
ュの方を振り返ると、すぐさま前を向いて走り出した。

「辿れる!?」
「分からないわ」

 道は、次第に入り組んだ小道へと変わる。
 比例するように掠れていく魔法の気配にシエルの表情は厳しくなっていった。
 近くで、少女の声がする。
 急にシエルが立ち止まった。

「居たわ!」
「おやおや、今日のお客さんはシツコイですねぇ」

 エンジュたちの足元に向かって、対峙する二つの長い影が延びていた。
 そのうちの一つがニヤリと口元だけで笑った。
 皮肉げな声色は艶をおび、月夜の下で見ると、ますます年齢不祥の男である。

「返品だって言ってるでしょう!さっさと奪ったものを返しなさいよ!」
「心外ですねぇ。私はけっして不当な取引なぞいたしませんよ。モノには価値があ
る。それを偽ったりしない」

 男の言葉には意外にも信念が感じられた。しかし、勝手にとられたエンジュたちが
納得できる内容ではない。

「ちょっと、それじゃあ冗談にもなってないわよ!!」 
「それまでは、どうぞ商品をお試しください」

 体を覆っている膜が、一枚一枚剥がれるように男の存在が透き通ってく。
 最後の一枚がめくれると、影すら引きつれて男は姿を消した。

 それは、間違いなくエンジュの魔法だった。


 ★ ★ ★

「まったく、忌々しい商人ねッ!」

 崩れ落ちそうになったシエルを支えて、エンジュは虚空を睨んだ。
 シエルは穏やかな寝息を立てている。
 やはり、魔法の気配を辿る作業は、彼女の精神に大きな負担をかけたようだ。
 エンジュのような大雑把な性格では頼まれたってできやしない。

「あのー…」

 シエルの顔を覗きこんでいたエンジュに、若い女の声がかかる。
 先ほど、あの商人と対峙していた少女だ。 
 活動的に大きく開かれたスリットから覗く太腿が悩ましい、ツインテールのなかな
か魅力的な娘であった。
 この少女もエンジュたち同様、被害者のようだ。

「もしかして…」
「もしかしなくても、そーよッ」

 戸惑いがちの少女の声に対し、エンジュは口の端を上げて笑った。

「まったく、女なら騙せるとでも思ったのかしら。被害者友の会でも作れそうな勢い
ね」
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2007/02/10 21:05 | Comments(0) | TrackBack() | ●天使と空と優しい雨

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