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PC :アーサー (ジュリア)
NPC:エリス女史 エンプティ
場所:モルフ地方東部 ― ファブリー邸
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馬車の中はすこぶる居心地が悪かった。
俺は四人乗りの幌馬車の中で「もう一回り大きいものを買えばよかった」と30分ごとに後悔を繰り返していた。
しかし数時間後には、この不快感は単に同じ空間で空気を吸いたくない人種が傍にいるからであることに気がついた。
俺は、閉じていた瞼をわずかに上げてエンプティを見た。
「では、右手を開いてみてください」
「まぁ、コインが二つに!」
この胡散臭い手品師だか、魔法使いだかは、馬車での移動中ずっとエリス女史を相手に、これまた手品だか魔法だか分からないパフォーマンスを繰り返していた。
驚くのは、その技の多種多様なこと。
もしパーティで同じ事をやったら指を指して笑ってやろうと思いながら、俺は寝たふりをしながら耳を傾けていた。
何故俺が彼をここまで嫌うのか、自分にも分からない。
しかし、この魔法を嫌う体質がモルフの風土特有のものだとしたら、俺はよほどモルフの人々の古い性質を受け継いでいるということだろう。
御者が町の中に入った事を告げた。
続く限りの草原と羊しか見られなかった窓の外の風景が、次第に立ち並ぶ建物の外壁へと変化した。
「それにしても、モルフも変わりましたねぇ」
しみじみとしたエンプティの言葉にエリス女史が意外そうな顔つきで尋ねた。
「あら、以前にもモルフに来たことが?」
以前言ったようにモルフは魔法とは縁の無い土地で、エンプティのようないかにも魔法使いといった男が縁もなくふらりと立ち寄る所ではない。
同時に、魔法使いからも敬遠される場所でもあったので、ファブリー氏はこの変わった趣向のパーティの為に魔法使いを集めるのにとても苦労したのではないだろうか。
「まだ、キャイロンの時計塔が建つ前の事です。私は友人を訪ねてよくここに来ました」
俺はエリス女史と顔を見合わせた。
彼の言葉が本当なのか、それともらしく振舞うための演出なのかは分からなかった。
キャイロンの時計塔はつい最近150周年を迎えたばかりだ。
その頃ならきっとバルメも生きていただろうが……。
▼ △ ▼ △
ファブリー氏の屋敷は年季が入った白壁と行き届いた庭園が美しく、モルフの名家たる風格をかもし出していた。
祖父の代で羊飼いから事業を起した、文字通り成金の我がテイラック家ではこうはいかない。
馬車から降りるとホールに通され、エンプティは俺たちに一言挨拶すると何処かへ消えた。
パーティが始まるにはまだ少し時間があった。
俺たちよりずっと早くに到着した人々には客室が用意されたが、今から腰をすえて休みを取るほどの時間も無い。
若い使用人が料理を乗せた銀の皿を早足で運んでいた。
異国の料理だろうか、油で炒めた米の香ばしい香りが俺の鼻腔をくすぐった。
「思った以上に大きなパーティだな…」
「そうですね」
既にいる顔ぶれをざっと見渡す。
この町の重役が何人かいた。
あと、魔法使いと思われる人間がちらほら。
その中に、使用人に指示をする暗い赤毛の男たちが居た。
貫禄のある体格と豊かな眉から青い穏やかな瞳を覗かせる紳士が、このパーティの主催者でこの屋敷の主、ジョイ・ファブリーズだ。
隣の鷲鼻で神経質そうな男は彼の息子だろうか、同じ赤銅色の髪をしていたがヒョロリと背が高く喋るたびに眉がピクピクと動いた。
俺の視線に気がつくとジョイ・ファブリーは両手を挙げて歓迎の意を表しながら俺の方へ足を向けた。
「ようこそ、テイラック君」
「お招きありがとうございます、ファブリーさん」
「来てくれて感謝してるよ。存分に楽しんでくれたまえ。そちらのご婦人は…」
「私の秘書です」
ファブリー氏の視線に、エリス女史が魅力的な笑みを浮かべた。
満足そうに頷くファブリー氏の後ろで、血色の悪そうな息子の頬が急に赤みをさしたのを俺は見逃さなかった。
「ところで、今回のパーティは変わっていますね。魔法使いを余興に出すとは」
「君のような若い人に喜んでもらえればとね」
「えぇ。期待していますよ」
俺は心にも思っていない言葉を彼に返した。
PC :アーサー (ジュリア)
NPC:エリス女史 エンプティ
場所:モルフ地方東部 ― ファブリー邸
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馬車の中はすこぶる居心地が悪かった。
俺は四人乗りの幌馬車の中で「もう一回り大きいものを買えばよかった」と30分ごとに後悔を繰り返していた。
しかし数時間後には、この不快感は単に同じ空間で空気を吸いたくない人種が傍にいるからであることに気がついた。
俺は、閉じていた瞼をわずかに上げてエンプティを見た。
「では、右手を開いてみてください」
「まぁ、コインが二つに!」
この胡散臭い手品師だか、魔法使いだかは、馬車での移動中ずっとエリス女史を相手に、これまた手品だか魔法だか分からないパフォーマンスを繰り返していた。
驚くのは、その技の多種多様なこと。
もしパーティで同じ事をやったら指を指して笑ってやろうと思いながら、俺は寝たふりをしながら耳を傾けていた。
何故俺が彼をここまで嫌うのか、自分にも分からない。
しかし、この魔法を嫌う体質がモルフの風土特有のものだとしたら、俺はよほどモルフの人々の古い性質を受け継いでいるということだろう。
御者が町の中に入った事を告げた。
続く限りの草原と羊しか見られなかった窓の外の風景が、次第に立ち並ぶ建物の外壁へと変化した。
「それにしても、モルフも変わりましたねぇ」
しみじみとしたエンプティの言葉にエリス女史が意外そうな顔つきで尋ねた。
「あら、以前にもモルフに来たことが?」
以前言ったようにモルフは魔法とは縁の無い土地で、エンプティのようないかにも魔法使いといった男が縁もなくふらりと立ち寄る所ではない。
同時に、魔法使いからも敬遠される場所でもあったので、ファブリー氏はこの変わった趣向のパーティの為に魔法使いを集めるのにとても苦労したのではないだろうか。
「まだ、キャイロンの時計塔が建つ前の事です。私は友人を訪ねてよくここに来ました」
俺はエリス女史と顔を見合わせた。
彼の言葉が本当なのか、それともらしく振舞うための演出なのかは分からなかった。
キャイロンの時計塔はつい最近150周年を迎えたばかりだ。
その頃ならきっとバルメも生きていただろうが……。
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ファブリー氏の屋敷は年季が入った白壁と行き届いた庭園が美しく、モルフの名家たる風格をかもし出していた。
祖父の代で羊飼いから事業を起した、文字通り成金の我がテイラック家ではこうはいかない。
馬車から降りるとホールに通され、エンプティは俺たちに一言挨拶すると何処かへ消えた。
パーティが始まるにはまだ少し時間があった。
俺たちよりずっと早くに到着した人々には客室が用意されたが、今から腰をすえて休みを取るほどの時間も無い。
若い使用人が料理を乗せた銀の皿を早足で運んでいた。
異国の料理だろうか、油で炒めた米の香ばしい香りが俺の鼻腔をくすぐった。
「思った以上に大きなパーティだな…」
「そうですね」
既にいる顔ぶれをざっと見渡す。
この町の重役が何人かいた。
あと、魔法使いと思われる人間がちらほら。
その中に、使用人に指示をする暗い赤毛の男たちが居た。
貫禄のある体格と豊かな眉から青い穏やかな瞳を覗かせる紳士が、このパーティの主催者でこの屋敷の主、ジョイ・ファブリーズだ。
隣の鷲鼻で神経質そうな男は彼の息子だろうか、同じ赤銅色の髪をしていたがヒョロリと背が高く喋るたびに眉がピクピクと動いた。
俺の視線に気がつくとジョイ・ファブリーは両手を挙げて歓迎の意を表しながら俺の方へ足を向けた。
「ようこそ、テイラック君」
「お招きありがとうございます、ファブリーさん」
「来てくれて感謝してるよ。存分に楽しんでくれたまえ。そちらのご婦人は…」
「私の秘書です」
ファブリー氏の視線に、エリス女史が魅力的な笑みを浮かべた。
満足そうに頷くファブリー氏の後ろで、血色の悪そうな息子の頬が急に赤みをさしたのを俺は見逃さなかった。
「ところで、今回のパーティは変わっていますね。魔法使いを余興に出すとは」
「君のような若い人に喜んでもらえればとね」
「えぇ。期待していますよ」
俺は心にも思っていない言葉を彼に返した。
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