▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
PC :アーサー (ジュリア)
NPC:エリス女史 エンプティ
場所 :モルフ地方 某A市
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
バルメ祭当日。モルフはよく晴れていた。
浮つく人々の心と対照的に、一定のリズムを刻む工場の機会音も、次第にお菓子をねだる子供たちの声にかき消されていく。
「バルメお婆さんの使い魔よ。クッキーをちょうだい。」
午前の工場の視察を終えた俺は、エリス女史とオフィスに向かって歩いていた。
そんな俺たちの前に、黒い頭巾を被った少女が立ちはだかった。
右手をつきだし、左手には青いペンキカゴ。
「あげないとどうなるんだ?」
「旦那様の素敵な黒いスーツが青いスーツになるわ」
「あいにく私は手ぶらでね」
苦笑してエリス女史に視線をやると、彼女は用意していたジンジャークッキーの袋を少女の小さな手のひらに乗せる。
にこりと微笑むと、少女は身を翻し次の大人のもとへと走り出す。
スカートの下から、長い猫の尻尾が軽やかに揺れていた。
「もし、ここに本物が居たとしても誰も気がつかないだろうな」
「何のですか?」
頭に牛の角をつけた少年に、新聞屋のケイレスが襲われているのを視界の端に入れながら、彼女の腰に手を添える。
「急ごう。敵は多いからな。クッキーがもたなくなるぞ」
バルメ祭は、魔物よりも物騒なモルフの子供たちの目に怯える日なのだ。
やはり忌々しい行事に違いない。
△▼△▼△▼△▼
「お邪魔しております。アーサー・テイラック様ですね」
オフィスの扉を開けると、見知らぬ男が立っていた。
全身をぼろ布で覆った乞食のような格好は、どう考えてもうちの客ではない。
第一、部屋には鍵がかけてあった。
反射的に銃を構え、俺が最初に発したのはこんな言葉だった。
「クッキーをやるから帰れ」
「それは使い魔のほうですよ」
エリス女史の指摘と同時に、男の服装が乞食ではなく、いわゆる魔法使いの格好だという事に気がついた。
「怪しいものではございません。私はエンプティ。
ファブリー家のパーティのゲストをお迎えにあがりました」
「ファブリー家の…?」
彼は頷くと、音もなく俺の前まで近づき拳銃に触れた。
硬く冷たいはずの拳銃の感触がぬめりのある鱗に――ヘビの姿に変わる。
「! 魔法か」
「いえ。手品です」
巻きついてきたヘビは子供の使う玩具ではなく、本物の生きたソレだった。
驚く俺に、男はもったいぶる事無く、ローブの下に隠れていた左手を上げた。
そこには俺の銃が握られている。
「……」
「まぁ、凄い」
感嘆するエリス女史。
魔法と手品、どっちのほうが凄いのだろうか…。
「で、手品師の君はどうやって私たちを運んでくれるんだ?」
「お宅の馬車で」
「……ファブリー氏は私に恨みでもあるのかね」
「いえ。わざわざ遠方からいらっしゃるお客様の旅の退屈を紛らわそうという、善意の元でございます」
「……」
やはりファブリー氏は気が狂ったに違いない。
この男と3時間も同じ空間にいなければいけないかと思うと気が滅入る。
せめて女性、若いのに限るが、だったら良かった。
バルメ祭は魔女の祭りだろう?
途端に、僅かながらでも楽しみにしていたパーティーに行く気が失せてしまった。
しかし、今更断るわけにもいかない。
俺は常識人なのだから。
奉じるように俺に銃を返すと、エンプティはヘビをするすると飲み込んだ。
エンプティの喉が不自然にうねったのは見なかったことにした。
「私も、彼女も準備を済ませていない。暫く時間をくれないか」
「もちろんでございます。こちらで待たせていただいても宜しいですか?」
「構わない。…そういえばこの部屋にはどうやって入ったんだ?」
こそ泥に開けられるような安易な作りにはしていないはずだ。
「それは、魔法です」
エンプティは唯一外に露わになった顔でにったりと笑った。
PC :アーサー (ジュリア)
NPC:エリス女史 エンプティ
場所 :モルフ地方 某A市
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
バルメ祭当日。モルフはよく晴れていた。
浮つく人々の心と対照的に、一定のリズムを刻む工場の機会音も、次第にお菓子をねだる子供たちの声にかき消されていく。
「バルメお婆さんの使い魔よ。クッキーをちょうだい。」
午前の工場の視察を終えた俺は、エリス女史とオフィスに向かって歩いていた。
そんな俺たちの前に、黒い頭巾を被った少女が立ちはだかった。
右手をつきだし、左手には青いペンキカゴ。
「あげないとどうなるんだ?」
「旦那様の素敵な黒いスーツが青いスーツになるわ」
「あいにく私は手ぶらでね」
苦笑してエリス女史に視線をやると、彼女は用意していたジンジャークッキーの袋を少女の小さな手のひらに乗せる。
にこりと微笑むと、少女は身を翻し次の大人のもとへと走り出す。
スカートの下から、長い猫の尻尾が軽やかに揺れていた。
「もし、ここに本物が居たとしても誰も気がつかないだろうな」
「何のですか?」
頭に牛の角をつけた少年に、新聞屋のケイレスが襲われているのを視界の端に入れながら、彼女の腰に手を添える。
「急ごう。敵は多いからな。クッキーがもたなくなるぞ」
バルメ祭は、魔物よりも物騒なモルフの子供たちの目に怯える日なのだ。
やはり忌々しい行事に違いない。
△▼△▼△▼△▼
「お邪魔しております。アーサー・テイラック様ですね」
オフィスの扉を開けると、見知らぬ男が立っていた。
全身をぼろ布で覆った乞食のような格好は、どう考えてもうちの客ではない。
第一、部屋には鍵がかけてあった。
反射的に銃を構え、俺が最初に発したのはこんな言葉だった。
「クッキーをやるから帰れ」
「それは使い魔のほうですよ」
エリス女史の指摘と同時に、男の服装が乞食ではなく、いわゆる魔法使いの格好だという事に気がついた。
「怪しいものではございません。私はエンプティ。
ファブリー家のパーティのゲストをお迎えにあがりました」
「ファブリー家の…?」
彼は頷くと、音もなく俺の前まで近づき拳銃に触れた。
硬く冷たいはずの拳銃の感触がぬめりのある鱗に――ヘビの姿に変わる。
「! 魔法か」
「いえ。手品です」
巻きついてきたヘビは子供の使う玩具ではなく、本物の生きたソレだった。
驚く俺に、男はもったいぶる事無く、ローブの下に隠れていた左手を上げた。
そこには俺の銃が握られている。
「……」
「まぁ、凄い」
感嘆するエリス女史。
魔法と手品、どっちのほうが凄いのだろうか…。
「で、手品師の君はどうやって私たちを運んでくれるんだ?」
「お宅の馬車で」
「……ファブリー氏は私に恨みでもあるのかね」
「いえ。わざわざ遠方からいらっしゃるお客様の旅の退屈を紛らわそうという、善意の元でございます」
「……」
やはりファブリー氏は気が狂ったに違いない。
この男と3時間も同じ空間にいなければいけないかと思うと気が滅入る。
せめて女性、若いのに限るが、だったら良かった。
バルメ祭は魔女の祭りだろう?
途端に、僅かながらでも楽しみにしていたパーティーに行く気が失せてしまった。
しかし、今更断るわけにもいかない。
俺は常識人なのだから。
奉じるように俺に銃を返すと、エンプティはヘビをするすると飲み込んだ。
エンプティの喉が不自然にうねったのは見なかったことにした。
「私も、彼女も準備を済ませていない。暫く時間をくれないか」
「もちろんでございます。こちらで待たせていただいても宜しいですか?」
「構わない。…そういえばこの部屋にはどうやって入ったんだ?」
こそ泥に開けられるような安易な作りにはしていないはずだ。
「それは、魔法です」
エンプティは唯一外に露わになった顔でにったりと笑った。
PR
トラックバック
トラックバックURL: