バルメ祭は俺にとって忌ま忌ましいモルフの行事の一つだ。
夕食には決まってあのモルフ羊の素焼きが振る舞われるからである。
バルメは、昔モルフに住んでいたと言われる子ども好きの魔女だ。
しかし町の人々に嫌われ森の外れにたった一人で住んでいた。
年老い人恋しさに耐えられなくなった魔女は町の子供たちをさらい自分の使い魔にしてしまった。
使い魔になった子供たちは、姿を猫に変え、蝙蝠に変え、町中で悪戯をして回った。
子供を奪われた親はたまたま町にやってきた騎士に魔女を殺すように懇願した――俺が思うには親たちは子供を返して欲し
くて懇願したのではなく単に子供たちの悪戯に耐えかねて腹を立てていたに違いない――。
騎士が魔女殺すと、魔女の死体は老木に姿を変えた。
親たちは喜んで子供たちを迎えに行ったが、子供たちは魔女の死を大変悲しみ魔法にかかったかのように何日も泣き続け
た。
親たちは困り果て、バルメの老木に魔女の大好物だったというモルフの素焼きとジンジャークッキーを供えたところ、ピタ
リと子供たちは泣き止んだ。
なんともゲンキンな魔女だ。
バルメ祭はそんな子供好きの魔女の鎮魂祭であり、子どもたちは昼間使い魔に仮装して町を回り、魔女の代わりにクッキー
を集め、人々は夜になるとモルフの素焼きを食べるのである。
故にモルフでは悪戯ばかりする悪ガキを『バルメの使い魔になった』と言う。
俺もよく言われたものだ。
そんなモルフだが、実際には全く魔法とは縁のない土地で、工業都市として発展したのちも、移住者が少なくよそ者を嫌う
風潮があるため、バルメのような隠者や魔法を使うハンターもここに居を構えることは少ない。
それを不便に思った事も無いし、モルフを出て大陸を渡り歩いた際も魔法使いという職種と関わる事は殆ど無かった。
モルフがソフィニアにもっと近ければ話は別だったろうが・・・。
つまり何か言いたかったかと言うと、この魔法に縁の薄いモルフの人々は、実際存在したのかすら怪しい魔法を操る老婆の
ためにこんな大層なお祭りを開いているのである。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
PC :アーサー (ジュリア)
NPC:エリス女史
場所 :モルフ地方 某A市
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ここはモルフ西部に位置する某A市。そのメインストリ-トに面して俺のオフィスは建っている。
「社長、今日もパーティーの招待状が何通かきてますよ」
秘書のエリス女史が数通のカ-ドを持ってやって来た。
半年前に父親が死に、この紡績会社を正式に受け継いだわけだが、その呼び名は未だに慣れない。
「一通は勿論アニス嬢から。バルメ祭の一ヶ月前から毎日来ますね。行ってあげればいいじゃないですか」
「勘弁してくれ。それで前回、婚約者だと紹介されて大変な目に遭った」
アニス嬢は黒い髪と瞳が蠱惑的な市長の一人娘である。美しいというよりは可愛い人だが、俺が数年前モルフに戻って以来
、彼女は初恋の相手だという俺に熱烈なアプローチ(というか、むしろプロポ-ズ)をしてくる。
「アニス嬢も今年で24ですものね。何か鬼気迫るものがありますね」
「彼女にはいくらでも良い相手がいるさ。所で君はバルメ祭の夜は空いているのか?他人の家であの臭い羊の肉の臭いをかぐ
より、美しい女性と二人きりで食事をするほうが有意義だと思うのだが」
エリス女史はちょっと驚いた顔をして俺を見た。
ブルーに縁取られた切れ長の目が真意を探るようにこちらに向けられる。
俺はなるべく真面目な顔をしてその視線に答えてみせたが、返事は「ノ-」だった。
「まだ、夫の思い出に浸る方が有意義な時間を過ごせそうですから」
美貌の未亡人は、艶やかに微笑んだ。やはり、結婚の経験がある女は一筋縄ではいかない。
そこが魅力なのだが。
「残りの二枚は?」
「ご友人のライサ-さんと・・・」
「却下。新婚夫婦の家なんて頼まれたって行くもんか」
「ファブリ-家から来てますね」
「何だって?」
意外な名前に、俺は思わず自分の耳を疑った。
「モルフ東部のファブリー家です。ご家族の誰かに手でも出されたんですか?」
「覚えが無いな」
「向こうにはあるかも」
全く酷い言い草だ。
「ファブリー氏とは組合の集まりで数度顔を合わせた事があるが、ご内儀の顔も娘がいるかも知らない」
ファブリー家といえば、巨大な溶鉱炉を持つ製鉄所の所有者だ。
今まで接点がなかったが、俺は最近銅山を市から買い取ったばかりということもあり、ファブリー家の施設には興味があっ
た。
「もしかしたらビジネスの話かも知れないな。悪いが予定がないなら君も一緒にきてくれ」
「はい」
にっこりと笑みを浮かべ、エリス女史は今度は即座にイエスと答えた。だから、俺は彼女が好きなのだ。
「何でも当日は本物の魔法使いを大勢招待するそうですよ」
渡されたカ-ドには゛魔女たちが一発芸を披露します゛と書いてある。
「大道芸人でも呼ぶのかな・・・?」
まぁ、面白い趣向が用意されているようだし、これで儲け話でも付いてこれば、モルフ羊の素焼きの分を引いてもプラスに
なるかもしれない。
俺はそう期待して、出席可の手紙を返した。
夕食には決まってあのモルフ羊の素焼きが振る舞われるからである。
バルメは、昔モルフに住んでいたと言われる子ども好きの魔女だ。
しかし町の人々に嫌われ森の外れにたった一人で住んでいた。
年老い人恋しさに耐えられなくなった魔女は町の子供たちをさらい自分の使い魔にしてしまった。
使い魔になった子供たちは、姿を猫に変え、蝙蝠に変え、町中で悪戯をして回った。
子供を奪われた親はたまたま町にやってきた騎士に魔女を殺すように懇願した――俺が思うには親たちは子供を返して欲し
くて懇願したのではなく単に子供たちの悪戯に耐えかねて腹を立てていたに違いない――。
騎士が魔女殺すと、魔女の死体は老木に姿を変えた。
親たちは喜んで子供たちを迎えに行ったが、子供たちは魔女の死を大変悲しみ魔法にかかったかのように何日も泣き続け
た。
親たちは困り果て、バルメの老木に魔女の大好物だったというモルフの素焼きとジンジャークッキーを供えたところ、ピタ
リと子供たちは泣き止んだ。
なんともゲンキンな魔女だ。
バルメ祭はそんな子供好きの魔女の鎮魂祭であり、子どもたちは昼間使い魔に仮装して町を回り、魔女の代わりにクッキー
を集め、人々は夜になるとモルフの素焼きを食べるのである。
故にモルフでは悪戯ばかりする悪ガキを『バルメの使い魔になった』と言う。
俺もよく言われたものだ。
そんなモルフだが、実際には全く魔法とは縁のない土地で、工業都市として発展したのちも、移住者が少なくよそ者を嫌う
風潮があるため、バルメのような隠者や魔法を使うハンターもここに居を構えることは少ない。
それを不便に思った事も無いし、モルフを出て大陸を渡り歩いた際も魔法使いという職種と関わる事は殆ど無かった。
モルフがソフィニアにもっと近ければ話は別だったろうが・・・。
つまり何か言いたかったかと言うと、この魔法に縁の薄いモルフの人々は、実際存在したのかすら怪しい魔法を操る老婆の
ためにこんな大層なお祭りを開いているのである。
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PC :アーサー (ジュリア)
NPC:エリス女史
場所 :モルフ地方 某A市
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ここはモルフ西部に位置する某A市。そのメインストリ-トに面して俺のオフィスは建っている。
「社長、今日もパーティーの招待状が何通かきてますよ」
秘書のエリス女史が数通のカ-ドを持ってやって来た。
半年前に父親が死に、この紡績会社を正式に受け継いだわけだが、その呼び名は未だに慣れない。
「一通は勿論アニス嬢から。バルメ祭の一ヶ月前から毎日来ますね。行ってあげればいいじゃないですか」
「勘弁してくれ。それで前回、婚約者だと紹介されて大変な目に遭った」
アニス嬢は黒い髪と瞳が蠱惑的な市長の一人娘である。美しいというよりは可愛い人だが、俺が数年前モルフに戻って以来
、彼女は初恋の相手だという俺に熱烈なアプローチ(というか、むしろプロポ-ズ)をしてくる。
「アニス嬢も今年で24ですものね。何か鬼気迫るものがありますね」
「彼女にはいくらでも良い相手がいるさ。所で君はバルメ祭の夜は空いているのか?他人の家であの臭い羊の肉の臭いをかぐ
より、美しい女性と二人きりで食事をするほうが有意義だと思うのだが」
エリス女史はちょっと驚いた顔をして俺を見た。
ブルーに縁取られた切れ長の目が真意を探るようにこちらに向けられる。
俺はなるべく真面目な顔をしてその視線に答えてみせたが、返事は「ノ-」だった。
「まだ、夫の思い出に浸る方が有意義な時間を過ごせそうですから」
美貌の未亡人は、艶やかに微笑んだ。やはり、結婚の経験がある女は一筋縄ではいかない。
そこが魅力なのだが。
「残りの二枚は?」
「ご友人のライサ-さんと・・・」
「却下。新婚夫婦の家なんて頼まれたって行くもんか」
「ファブリ-家から来てますね」
「何だって?」
意外な名前に、俺は思わず自分の耳を疑った。
「モルフ東部のファブリー家です。ご家族の誰かに手でも出されたんですか?」
「覚えが無いな」
「向こうにはあるかも」
全く酷い言い草だ。
「ファブリー氏とは組合の集まりで数度顔を合わせた事があるが、ご内儀の顔も娘がいるかも知らない」
ファブリー家といえば、巨大な溶鉱炉を持つ製鉄所の所有者だ。
今まで接点がなかったが、俺は最近銅山を市から買い取ったばかりということもあり、ファブリー家の施設には興味があっ
た。
「もしかしたらビジネスの話かも知れないな。悪いが予定がないなら君も一緒にきてくれ」
「はい」
にっこりと笑みを浮かべ、エリス女史は今度は即座にイエスと答えた。だから、俺は彼女が好きなのだ。
「何でも当日は本物の魔法使いを大勢招待するそうですよ」
渡されたカ-ドには゛魔女たちが一発芸を披露します゛と書いてある。
「大道芸人でも呼ぶのかな・・・?」
まぁ、面白い趣向が用意されているようだし、これで儲け話でも付いてこれば、モルフ羊の素焼きの分を引いてもプラスに
なるかもしれない。
俺はそう期待して、出席可の手紙を返した。
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