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2024/11/18 05:19 |
夢御伽 13/メイ(周防松)
PC:礫 メイ
NPC:ニャホニャホタマクロー キシェロ 雇われ冒険者
場所:ポポル

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

――何か、騒がしい。

メイは、膝に押しつけていたおでこを離した。
青白い――とまではいかないが、普段の彼女からは想像もつかぬほど、生気の抜けた
表情である。
心なしか、その横顔はやつれて見えた。
どんよりと曇った目を、宙にさまよわせる。
今すぐにでも眠ってしまえるような、異様な疲労感。
メイは、しばらく辺りの様子を探った後、異常なし、とみなしてうつむいた。

あの後。
唐揚げにされてはかなわない、と仕方なく淡い水色のドレスを身につけたメイを見
て、キシェロは満足そうに笑った。

もしかしたらあと何回か強情を張られるかもしれない、と覚悟しながら街の境界近く
の広場で見世物小屋を設置したが、それからのメイは、実におとなしかった。
口数が少なくなるというよりも、全く喋らなくなり。
指先を何やらちょこまかと動かして、その動きをじっと見つめていたり。
初めの時のあの強情な態度が嘘だったかのようだ。
キシェロにとっては、まさに理想の妖精像そのものだった。
妖精というのはやはり珍しいのだろう、以前なら考えられないほどの客が見世物小屋
を訪れた。
展示されているものを見て、熱のこもった会話を交わしながら行き交う客達を見て、
キシェロはゆるむ口元をどうにも引き締められなかった。
一体何年ぶりだろう、自分の見世物小屋で客達が夢中になっている姿を見るのは。

(これからも、うまくやれる)
やはり脅しは効果的だった。
彼はそう確信していた。

しかし、メイにとっては全てが虚無だった。
閉じ込められる生活というのは、非常に疲れるのだ。
おとなしくなったのは、疲れてしまったからだ。
元々気ままに空を飛ぶのが好きな性分なのだから、こんな狭苦しい檻に入れられるこ
とは強いストレス以外の何物でもない。
唐揚げにされるぐらいなら、と淡い水色のドレスを身につけた瞬間に、その数値は爆
発した。
爆発しきってしまったストレスは、メイの明るさや元気を内側に押し込めてしまっ
た。
鉄の檻に囲まれた『家』での生活は、キシェロに目をつけられないように、時間をや
り過ごしていたに過ぎない。
自分を見ながらあれこれと雑談する客達を、たった1度だけちらりと見ると、あとは
興味がなくなってしまった。

(れっきー……)

また膝に額を押しつけて、メイは黒髪の少年のことを思った。
思うだけで、ほんの少し、気持ちがふわりと浮かぶ。

(助けに来てくれないかな)

そう思って、メイはたちまち沈んだ気持ちになる。
自分は、彼の何だというのだろう。
知り合い、とは呼べるだろう。
だが、それだけだ。
友人と呼ぶには付き合いが浅過ぎる。
そんな間柄の自分を助けに来る義務が、果たして彼にあるだろうか。

ない。

そんな義務があるはずもない。
昨日今日知り合ったばかりの人間に、そんなことを要求してはいけない。

(馬鹿だな、あたし)

自分は、このまま、この檻の中の家で、見世物生活をするのだろう。
全ては自業自得だ。
食欲に負けた自分が悪い。
無理矢理にでも納得して、これ以上事態が悪化しないように努めるしかない。

不意に胸の奥からこみ上げてくる痛みを、メイはこらえた。

――それにしても、やはり騒がしい。

メイは、騒動に耳を傾けた。

――……ちゃん!

空耳だ、と思った。
聞きたいと心底思っている声が、かすかに聞こえたから。
ここにいるはずがないのだ、彼が。
本当は、来て欲しいけど。

突然、物の壊れる音と共に「ぐああっ」というオッサンの悲鳴が聞こえてきた。
強盗か何かでも入ったのだろうか、と思っていると、バタバタという足音が聞こえて
きた。
ぼそぼそ、という話し声もする。
それは、だんだんこちらへと近寄ってくる。

「メイちゃん!」

空耳ではなかった。

「れっきー!」

生気の抜けきったメイの顔に、明るさが戻る。
メイは、決して近寄ろうとしなかった鉄格子に駆けより、もっとよく見ようと顔を押
しつけた。

「れっきー! ここ、ここ!」

必死に大声を上げると、重い生地のカーテンを跳ね上げて、礫が現れた。
その後に、知らない少年がくっついて現れる。
……この少年は、どうやら敵ではないらしい。

「れっきー、ホントにれっきーなの!? 本物? 夢じゃないよね?」

目の前に立ちふさがる檻に手をかけながら、メイは
みるみるうちに、目に涙がいっぱい溢れてくる。
礫は、静かに微笑みを返した。

「助けに来たよ、だからもう安心して」

――本物だ!
メイは、喜びのあまり声も出なかった。

……その傍らで、少年がちょっと面白くないぞという顔をしているのだが、お互いし
か見ていない二人には、その様子は映らなかった。

「今、開けるから」
「うんっ」

その時、メイは見た。
ナイフを手にしたキシェロが、音もなくカーテンの後ろから現れたのを。
泣いているのか笑っているのかよくわからない表情を浮かべ、血走った目を限界まで
見開いている。
彼は、にたぁ……っと口をひん曲げて笑うと、ナイフを両手で握り締め、礫の背後に
静かに歩み寄りながら、ナイフをゆっくりと頭上高くまで上げていき――

「危ない!」

ほぼ、同時だった。
メイが悲鳴を上げるのと、気配を察知した礫が振り下ろされたナイフを避けるのは。

「この……っ」

少年が礫をかばうように間に立ってキシェロを睨む。
しかし少年はみるみるうちに血の気を失っていった。
はぁ……はあぁ……はぁあ……はああ。
ナイフを握り締めたキシェロは、妙に息が上がっていた。
怖いのだろう、少年の足は震えていた。
無理もない。
こんなヤツをまともに見せられて、平然としていられるものではない。

「いけないなぁ、大人の仕事を邪魔しちゃ駄目じゃないか」

唐突に、キシェロはそんなことを言った。

「私にはね、妻も子供もいるんだよ。養わなくちゃいけない家族がいるんだよ。仕事
をして、お金を得て、それで養わなくちゃいけないんだよ。私は失敗できないんだ
よ」

眼鏡の奥にある血走った目が、じんわりと潤んでいる。
ぶるぶると体を震わせながら、唇を震わせながら、言葉を紡ぐ。
聞いていると、なんだか同情したくなる話だ。
メイは、ちょっとだけなら協力しようかな、という気持ちにさえなった。

「どうして? どうして邪魔をするのかな? そんなにそんなにそんなに私を破滅さ
せたいのかな? 私が何をしたというのだね? 私が辛い思いをしているのに、それ
でも必死で戦っているのに、どうして寄ってたかって踏みにじろうとするのかなあ?
 妻もそうだ! 『今年、あなたが帰ってこなかったら、今お世話になっている方と
生活することにします。子供も懐いていますから』なんて手紙をよこして。どいつも
こいつも……どいつもこいつも、どいつもこいつも!」

キシェロの思考が狂いつつあるのを、その場にいた全員が悟っていた。


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2007/02/12 20:01 | Comments(0) | TrackBack() | ▲夢御伽

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