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2024/11/18 05:42 |
夢御伽 12/礫(葉月瞬)
PC:礫 (メイ)
NPC:ニャホニャホタマクロー キシェロ 雇われ冒険者
場所:ポポル
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 陽が傾きかけた頃、ポポルに辿り着いた。
 ポポルは森の中の街。世界でも稀に見る、エルフと共存する街である。文化的にもエル
フとの交流が覗えるのがポポルの街である。だからだろうか。街の通りを行き交う人々の
中に、耳の長い人々が目立つのは。自分がエルフであることを隠すためにフードを目深に
被っている者も、ここではフードを脱ぎさって堂々と歩ける。他の町では差別されている
ものが、ここでは大手を振って歩けるのだ。
 街の入り口に差し掛かったところで、轍の跡は消えていた。ここから石畳の舗装された
道に差し掛かったことを意味している。街に入ったのならば、もう轍の跡は追えまい。残
る道は、人に訪ね歩くことしかない。そう思った礫は、手当たり次第に聞いて回りだした。

「あの、ここを小屋作りの馬車が通りませんでした?」

 手で形を示唆する。馬車の風体はタマクローから聞いて知っていた。だが、知っている
と答えた者は皆無に近かった。恐らく早朝、まだ皆が寝静まっている頃に街に入ったのだ
ろう、誰も馬車が通りかかったところを目撃した者は居なかった。
 それでも根気強く足で稼ぐ礫。百人いたら、百人全てに聞き込みをしなければ収まらな
いのだろう。タマクローもそれに付き合わされていた。


   △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


「もう、お腹すいたぁ! 一歩も歩けない!」

 最初に音をあげたのは、タマクローだった。
 太陽が中天を割らんとしていた頃合だ。聞き込みを開始してからだいぶ経つ。

「仕方ないな。じゃあ、休憩がてら食事にしようか」

 とはいえ、この辺は商店街から相当離れているのか、その場で周囲を見渡しても然して
目ぼしい食堂は無かった。しかし、街の入り口ということも相まってか、人通りが絶える
事は無い。商人風の男や旅人の姿が目に付くが、街の人間も数多く出入りしている。それ
でも、商業施設は片手で足りるぐらいしか無く、その多くは商人や旅人を相手にしている
宿屋だったりする。宿屋やそれに付属する酒場はあるが、食堂は無いといったところだ。
「ううーん、無いなぁ」と一つ唸ると、礫は商業地区へと足を向けた。
 商業地区には何軒か食堂があった。値段も味も三流なお店と、値段も味も超一流のお店
と、値段は安いが味は超一流のお店と。礫は暫し考え、“馬の嘶き”亭という一軒の店に
入った。値段が手ごろでおいしそうだった店だ。店内はオーソドックスな造りで、カウン
ター席とテーブルとに分かれていた。礫達はテーブルに着く。メニューを開いて、タマク
ローとあれこれ選ぶ作業は、楽しいものだ。これがタマクローとではなく、メイとだった
ら。どんなに楽しいだろうと、礫は寂し気に笑うのだった。タマクローには気付かれない
ようにごくごく小さく。
 注文した料理が運ばれてきて、テーブルに次々に並べられていく。豚足のソテーに、茸
が踊っている茸シチュー、林檎と蜂蜜のカレー、それに後から来る林檎のシブーストが加
われば完璧だ。

「いっただきま~す」

 合掌もそこそこに、タマクローがフォークとナイフを手に今にもぱくつこうとしていた
その矢先、騒動が起こった。
 椅子を蹴倒す物音でそれは起こった。

「ああ! お前ら!
 ……ここで会ったが百年目、お前らをこれ以上先には行かせねぇ!」

 一団の代表格の男が礫とタマクローに向かって叫ぶ。椅子を蹴立てる音とその言葉はほ
ぼ同時に発せられた。その言葉に首を回らすと、何処かで見たような冒険者風の男達が数
人、丸いテーブルを囲って座っていた。代表格の男が立ち上がってこちらを指差している。
 最初はその顔触れを見てもぴんと来なかった。いまいちはっきりしない。おぼろげなが
ら記憶が輪郭を現してはいるが、はっきりと認識できない。それほど存在感が薄い人物達
だった。三流という言葉がはっきりと当て嵌まるような、そんな不甲斐ない冒険者。礫が
その顔触れに思い当たる節を見出すのに、きっかり十秒はかかった。

「ああ。そうか」

 掌に拳を打ち合わせると、軽い音がした。

「トーポウで突然斬りかかって来た――」

「そうだよ。その――」

「――三流冒険者の人達ですね!」

「…………」

「ああ。すいません。何か余計なこと言っちゃいました?」

 笑顔で取り繕ってみても、取り繕えなかった。

「“三流”は余計だ!」

 一団のリーダー格の男のその言葉を皮切りに、一斉に飛び掛ってきた。礫はやれやれと
肩を竦めると、「血の気が多いんだから」と言って身構える。刀は抜かない。こんなとこ
ろで抜刀すれば、他の客や店員、テーブルや椅子などにぶつかって危ない上に迷惑な事こ
の上ない。当然、店の女将さんにこれから少し暴れる旨を伝え、了承を取ると同時に謝っ
ておいた。
 最初に接敵したのは最も血の気の多い、リーダー格の男だった。彼は大股で数歩近付く
と、近付き様に剣を抜き、右から袈裟切りに斬り付けて来た。いきなり抜刀かよと、信じ
られない面持ちで、屈みながら右に半歩分避ける礫。そしてそのままの体勢で、手を軸に
男の手首を狙って蹴り上げる。剣を持っていた手が衝撃で剣を取り落とす。と、同時に、
そのまま腹部に蹴りを見舞う。男は低く唸ると、その場に蹲った。
 退路を断とうと後ろに回りこんだ男が一人いたが、タマクローが速攻で前に回り込み、
鳩尾に一撃を喰らわせ無力化する。礫が抜刀していない理由を悟ったから、ダガーは使わ
ない。力を込めた拳を見舞わせただけだ。体が小さいので、ほとんど体当たりに近くなっ
てしまったが。
 一団の内、二人までが動いた事により店内は騒然となった。乱闘騒ぎの幕開けである。

 その乱闘騒ぎの中から、男が一人抜け出した。
 礫がそれを見逃すはずが無かった。

「女将さん! 荷物は預けておくから! 後で支払いしに戻って来ます!」

 そう、言い残すが早いか、礫も後を追った。当然、タマクローも付いてくる。
 恐らく彼の行く先にはキシェロがいるだろう。そのキシェロに捕まっているメイも。捕
らわれのメイを早く助け出さねば。
 人ごみを掻き分けながら追跡していくと、やがて人の波が引いてきた。そして、人波が
完全に無くなる頃、そこに辿り着いた。
 そこは、ちょっとした広場になっていた。街の境界に程近い場所に、それはあった。礫
達が必死になって探し回っていた、例の小屋が。そしてその小屋の中に、男は吸い込まれ
ていった。
 礫は周囲を軽く確認すると、小屋の中に躍り込んだ。

「キシェロ! メイちゃんを返して貰うよ!」

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2007/02/12 20:00 | Comments(0) | TrackBack() | ▲夢御伽

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