忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/17 00:09 |
パラノイア 第一章「HELP!! HELP!!」/ルフト(魅流)
PC:ルフト
NPC:盗賊達
場所:スズシロ山脈中腹
--------------------------------------------------------------------------------
 ルフト・ファングは森の中を歩いていた。
 別に何処か目的地があるわけではなく、視覚や嗅覚や聴覚から入ってくる情報に気を付けながら気配を殺してゆっくりと慎重に歩を進める。
 人里の近くでは顔を隠すために被っているターバンも今は邪魔になるので外して腰の荷物袋の中へとしまっていた。ピン、と立った耳が時々ピクピクと動いて作り物ではない事を示している。

 人と獣の中間、人狼と呼ばれる種族に属する一人であるルフトは、昔ある遺跡をうっかり発動させてしまって以来、ずっと獣人形態のままだ。本来、彼らの種族は人間形態と狼形態を使い分けるのだが。その代わり、と言ってはなんだが人前では顔を隠したりなんだりと不便はあるものの、狼並みの聴覚や嗅覚などの身体能力に加えて人間の知能や器用さを併せ持つ、ある種高性能な体を手に入れる事となり、こうして食事のために獲物を狩る時などには重宝していた。

「ルフト、この森はなんかおかしいぜ。野鳥が全然いやがらねぇ」

 ばさっ、ばさっと羽音を立てて一羽の鷹がルフトの肩に舞い降りた。人語を解し、操る事ができるこの鳥の名はヴィンドブルフと言い、ルフトと同じ日に生み出された鷹型の魔法生物だ。以来ずっと彼と行動を共にしている。新しく子供が生まれるのにあわせて魔法生物を創り行動を共にさせるのが、ルフトの出自である砂漠の民ジグラッドの風習なのだ。

「野鳥だけじゃないみたいですね。さっきから動物の気配も少ししか感じられません」

 時々他の生き物がいる気配は感じるのだが、近づこうとするとすぐに気付かれて逃げられてしまう。ハンパではない警戒を敷いているような雰囲気をルフトは感じ取っていた。

「どーも、この森にはかなり無茶をやらかす……ま、人間が居座ってるんだろうな。どうする?」

「どうしたモノでしょうね。……おや、この臭いは」

 言葉を途中で切って、ルフトは顔を空に向け、目を閉じる。それは鼻に飛び込んでくる様々な臭いの中から特定の一つを嗅ぎ分けようとする時にいつもやる動作なので、ブルフは黙って様子を見守っている。

「……その、人間とやらの家が近くにありますね。こんな街道を外れた山奥に、結構な大所帯で」

「パウラ連合とやらの砦か何かか?」

「さぁ、臭いだけではそこまで分かりませんが。とりあえずこの森の動物達がこんなに警戒してるのは間違いなく彼らの所為でしょうね」

 彼らが今居る森は、パウラ連合と正統エディウスの国境境になっているスズシロ山脈の中腹辺りにある森だ。ルフトが聞きかじった話では二国間で結ばれている協定はこの山脈は中立地帯とし、それぞれ側の麓からをお互いの領土としていたはずである。もしパウラ連合がここに砦を築いているのならば、その動きを正統エディウスの軍部に知らせれば多少の報酬が見込めるかもしれない。

「どうする、ちょいと調べてみるか?」

「……そうですね。狩りの成果が見込めない以上、せめて食費のタネくらいは見つけて帰るべきでしょう。頼りにしてますよ、ブルフ」

 かくて、一匹と一羽は臭いを頼りに大勢の人の気配の方へと歩きだしたのだった。

                ◆◇★☆†◇◆☆★

 ――同時刻、スズシロ山脈中腹、山間部にある盗賊のアジトでは

「親分!報告します!!」

 大慌てでアジトの最奥に駆け込んできた部下を、盗賊団の頭はとりあえず殴り飛ばした。

「馬鹿野郎!俺の事はリーダーって呼べっつってるだろうが!……で、どうした」

 入って来たドアからそのままたたき出される部下だが、それにめげずに部屋に戻ってきて報告を続ける。

「はい。昨夜商隊からパクって来た荷物の中に、正統エディウスの、あの、毒蛾宛の荷物が入っていたらしいんです」

「なにぃぃぃぃぃ!!馬鹿野郎!!アイツとは何があっても関わるなって厳命しといたじゃねぇか!ああいう理性がぶっとんだ手合いを敵に回すのが一番こえぇんだぞ!」

 会心の右ストレートが部下を捕らえる。言い訳しようと口を開いた瞬間に顔面に痛打を食らった部下は、軽く脳震盪を起こしながら再び廊下へとたたき出された。

「も、申し訳ありやせん……昨夜は新人教育を兼ねて大半を新入りで構成してたので、命令を徹底させる事ができやせんでした……」

「……ちっ、パクっちまったもんはしょうがねぇ。野郎ども、第一種戦闘配備だ!パターンはC!篭城迎撃戦の用意をしやがれ!アジトの回りの罠も強化しておけよ!そんなに時間は残されてないと思え!」

 伝声管を通じて各部署に指令を飛ばす頭領の顔には、怒りというよりも恐怖の表情が張り付いていた。"エディウスの毒蛾"の異名はこの辺りでは知らない者はいないとされているほど有名なモノだが、それを抜きにしてもなおあまりある怯え方をしている。

「……あの、毒蛾宛の荷物を街道に置いてくれば俺たちは安泰なのでは……?それに、この場所もそう簡単に見つかるとは思えねぇですし」

 物凄くおずおずと、控えめに、刺激しないように気をつけて発言した部下の方を、自称リーダーは鬼の形相をして振り向く。

「し、しつれぐはっ!?」

 慌てて謝ろうとした瞬間、コークスクリュー気味に捻りが加わったアッパーカットが華麗に顎を打ち抜いた。

「馬鹿野郎!一度パクったもんを返すなんて盗賊の美学に反するじゃねぇか!さらに、ああいう手合いは不条理だからこそ油断はできねぇ。ヤツは来る。必ずだ!わかったらとっととテメェも配置につきやがれ!」

 部下を部屋の外まで叩き出したついでに扉をしめ、部屋の中央に設えてある椅子に腰掛け、机に肘を乗せて頭を支えた。思わず溜息がこぼれるのを、彼は止めることができなかった。

 エディウスの政変などであぶれた人材を纏め上げ、ばれないように山の中にアジトとなる砦を築き、討伐隊を差し向けられない程度に加減をしながらちまちまと商隊を襲って力を蓄えてきたこれまでが走馬灯のように脳裏を駆け巡る。ようやく部下達の練度も上がり、資金も段々とたまってきて、これからという所だったのに……その思いは、何度溜息に乗せようとも尽きる事はなかった。
 さらに溜息を数回ついて、盗賊団の頭、アドルフ・ハイマンは自分の顔を思いっきり両手で叩いて気合をいれた。まだだ、まだ終わらん。準備期間が十分だったとはいえないが、もしここであのエディウスの毒蛾を倒す事ができれば彼の野望はかなり実現に近づく事になる。死中に活とはまさにこのことなのだ。

「見張り!周囲の警戒、怠るなよ!どんな些細な事であろうと変化があれば俺に報告しろ!」

「リーダー、砦南方面に人間クラスの生命反応が!」

 見張り兵は計八人。砦を囲う塀の四隅に建てられた物見塔に、感知を得意とする魔術師と、高い視力を持つ弓兵が配備されている。

「数は一つか?……偵察にしても早すぎるな……今、出れる部隊はいるか?」

 伝声管を通じて、部下達の詰め所に声をかける。念のためにいまから警戒をしてはいるが、荷馬車が襲われた情報が軍の元に届き、毒蛾が出てくるまでにはどう考えても一日は掛かるので、襲撃があるとしたら早くても明日の昼以降だろうと首領は睨んでいた。

「は、第二部隊いけます」

 名乗りを上げた第二部隊は盗賊や弓手などが主戦力の部隊。アドルフは少し悩んだ上で、「よし、砦南の森に潜んでいる人間と思しき者を探索、捕獲しろ」と命令をくだした。その判断が、さらなる不幸を呼び込む事を彼はまだ知らない。

                ◆◇★☆†◇◆☆★

「これはまた立派な砦ですね……」

 臭いを辿って来た先は、木を組み合わせて作った塀で囲われている典型的な砦の姿だった。ご丁寧に見張り塔の上などには緑の葉を重ね、上空からから見ても注意してみなければわからないように配慮してある。
 とりあえず、ルフトは各見張り塔から死角になる大きな木の陰に陣取り、ブルフが帰ってくるのを待っていた。

 がらがらがら、と門が開けられる音が辺りに響いた。思わずそちらを窺うと、ルフトが隠れている方に向かってバラバラと武装した兵隊達が寄ってくるのが見えた。

「ばれた!?いったいどうして!」

 2mあるルフトの身長とほぼ同じ長さの棒を引き抜き、ルフトは身構えると同時に、一斉に矢が飛んでくる。当てるつもりがないのか周囲を囲うように刺さる矢に逃げ場をなくしたところを、短刀を構えた男が突撃してくる。

「なんとっ!」

 木々が生い茂るこの場所では2mもある棍を振り回す事なんてできはしない。裂帛の気合と共に打ち出された突きは、予想通りといわんばかりにあっさりとかわされる。突き出された左が泳ぎ、体が開く。狙い通りにいってほくそえむ盗賊が飛び込み、無防備の体目掛けて、銀閃が疾走る。
 しかし、短刀がルフトの毛皮に傷をつける事はなかった。泳いでいた左腕を肘を畳んで引き戻し、ナイフ使いの後ろを通って顔を出した棒を右手で掴み、全力で引き寄せる。棍によって押され、体に引き寄せられるナイフ使い。まさに振り落とす真っ最中だったナイフは距離を失い力が乗らず、味方の体が盾になって弓手は矢を放つことができない。「がはっ」という声と共に棍とルフトの体に押しつぶされたナイフ使いの肺から空気が逃げ、手からナイフが零れ落ちる。

 そのままナイフ使いを人質にして突っ切ろうとした、ルフトの背後に忽然と気配が湧き上がる。慌てて振り返ろうとする獣人の脳天に鈍器による強打が炸裂、思わず膝をついたところにさらにもう一発。完全に意識を失ったルフトを軽々と担ぎ上げ、第二部隊の隊長ブロンブスは部下に撤退の指示を下した。

「やべぇやべぇ、ベアに知らせねーと!!」

 上空から砦の様子を見ていたために気づくのが遅れ、ルフトと合流しそこなったブルフは最寄の街のある宿を目指して全力で羽ばたいていた。そこにいるはずの仲間に、救援を求めるために。
PR

2007/02/10 17:30 | Comments(0) | TrackBack() | ●パラノイア

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<パラノイア 序章「出撃」 /オルレアン(Caku) | HOME | パラノイア 第二章「導火線」/ベアトリーチェ(熊猫)>>
忍者ブログ[PR]