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2025/03/10 06:54 |
42.ギゼー「位階」/ギゼー(葉月瞬)
PC:ギゼー、リング
NPC:メデッタ=オーシャン、影の男
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
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 影の男――。
 特殊な存在であり、白の遺跡と同化せし者。
 彼の存在はこの白の遺跡にとって、無くてはならないものであった。ちょう
ど血液中に無数に点在し、血液の流出を防いだり、体内に侵入した異物を排除
する働きを持つ白血球の如く……彼はこの白の遺跡にとって、普遍の存在だった。
 又彼は、この遺跡で起こる全ての出来事を見届ける義務を持つ者。
 そして、この遺跡内にて志半ばにて倒れた者達に、容赦なく死を与えたる者
でもあった。

 彼は、白の遺跡の裁定者と呼ばれる者――。

――― ○ ―――

「ところで、メデッタさん。何時の間に俺等と擦れ違ったんです? 全然、気
が付きませんでしたよ」

 白の遺跡の何時果てるとも無く続く階段を、三人は昇っていた。この階段も
また、白く発光する何某かの物質で出来ていたが、天井や壁と思しき部分は黒
塗りで、まるで漆黒の空間に階段だけがぽっかりと浮いているように錯覚する。
星空に浮かぶ天の川の如く。唯の人でしかないギゼーなどは、階段に最初差し
掛かった時狼狽の色を見せたほどだ。上へ昇っているのか、それとも下に降り
ているのかさえも判らなくなってしまう。強いて言うならば、「下に昇っている」
といったところだろうか。何れにせよ、感覚で捉えにくいことは事実である。
 影の男は、階段に差し掛かったところで、「それじゃあ、私は用事を思い出
したので、これにて失礼させて頂くよ」と言い残し、お辞儀と共に消え去って
いき、今は同行していない。「何の用事だか」と、ギゼーはその時ぼやきつつ
も呆然と見送るしかなかった。

 メデッタは歩みを止めず口だけを動かして、ギゼーの質問に淡々と答えてい
く。

「それはだな、ギゼー君。単純なことさ。君とリングが通って来た通路と、私
の通って来た通路では、“位階”が違うからさ」
「“位階”……?」

 思わず聞き返してしまったギゼー。耳慣れない言葉に、戸惑いを隠せないの
がありありと見て取れた。メデッタは、ギゼーの様子に初々しさを感じ、微笑
ましいと思って口許を綻ばせる。
 それに対しリングの方は、鼻歌交じりで昇っていく。“位階”の話が耳に届
いているであろう事は明白なのに、まるでそんな話はさも当然といった風であ
る。そのリングの麗しい後姿を目で追いながらメデッタは話を続けた。

「そうだ。この遺跡は、少なからず“位階”がずれている様なのだ」
「だからぁ、“位階”って何ですか?」

 多少怒気を含んで再度質問する、ギゼー。自分が二度目に質問したその意図
をはっきりと汲み取られていないと知って、多少げんなりとしていた。

「ギゼー君、きみぃ、そんなことも知らないのかね? そんなことでは、リン
グとは付き合っていけんぞ」
「いや、別に付き合うとかそういう問題じゃなくて……」

 ギゼーは可笑しくなってきて、半分笑い出しそうになって言った。自分の言
葉がこれ程までに聞き入れられないとは。これはもう、怒りを通り越して笑う
しかないではないか。ギゼーは、苦笑交じりの表情でメデッタの次の言動を待
った。
 そして、待ち望んでいた答えが遂に得られた。

「解った、解った。“位階”と言うのはだな……」

 はて、どうやって説明したものかと、思案気に指で顎を擦りながらメデッタ
は語尾を濁した。
 リングは背中で二人のやり取りを捉えながらも、「嗚呼、また、伯父様の長
いお話が始まった」と、密かに溜息を吐くのだった。
 リングの大方の予想通り、メデッタの永遠ともつかない長~いお話は遂に始
まってしまったのだった――。

――― ○ ―――

 “位階”というのはな、ギゼー君。
 空間を階層別に分けた時の上下の関係と言えば、解り易いかな?
 丁度ショートケーキのようなものだな。スポンジとスポンジの間に甘い甘い
クリームが挟んであるだろう。一度口に入れると、口の中でとろける様な甘さ
が広がって、病み付きになる……。あれと同じ様なものだよ。ほら、あれも階
層別に分かれているだろう?
 ギゼー君、君は空間の構造について考えた事があるかね?
 あ、いやいや、別に答えてくれなくとも良い。その顔を一目見れば、解るか
らね。君が、考えた事も想像した事すらも無い、という事がね。
 空間というのは二元的であり、且つ三元的でもあるんだ。つまり、前後左右
の二元構造と、上下の三元構造だ。上下に広がる三元的空間階層の事を、“位
階”と言うんだ。
 此処までは、解ったかね?
 そして、此処からが重要なんだが、より上位の層に居る者は、下位の層に居
る者には触れる事も見る事も出来ないんだよ。つまり、我々から見れば“神”
の様な存在だね。君達人間が“神”と言って崇めている存在は大抵この類だな。

 ――神様が“位階”の上層部の人、存在だって言うんですか?

 うん、そうだね。だからこそ、神の如き力――人間達は奇跡と呼ぶそうだが
――を行使する事が出来るとも言える。

 ――じゃあ、先程の“影の男”、あいつも神の如き存在なんですか!?

 ……いや、あいつは違うな。
 あいつからはもっと別の、<ニオイ>がしていた。あいつは“神”の如き存
在であって、“神”ではない。少なくとも君達、人間の言う“神”という存在
でない事だけは確かだ。
 それにあいつは……、此処の<場>に縛られているように思える。
 何となくだがね。

――― ○ ―――

「<場>に縛られている……? それじゃあ、あいつをこの世界に呼び出した
のは、一体全体誰なんだ……」

 メデッタが言葉を切って締め括ると、途端にギゼーが不安を隠し切れない面
持ちで呟いた。
 無理も無い。海竜族であるリングやメデッタならばいざ知らず、ギゼーは一
介の人間でしかないのだ。その人間が、よりによって“神”の如き存在と渡り
歩かなければならないのだ。どんなに気丈な人間でも、どんなに強気で自信過
剰気味な人間でも、不安を抱いて然るべきものだ。下手を打つと、命を落とし
かねない危険な橋をこれから渡ろうと言うのだ。多少過剰気味に慎重にならざ
るを得ないだろうと想像を巡らせただけで、ギゼーの心に不安の種が芽吹き急
激に成長していく。かてて加えてここのダンジョンは特殊な空間の様で、とも
すると膝が頽折れかねないのだ。常に気を張り詰めていなければならないギゼ
ーにとって、とても辛い場所なのだ。今こうして歩いているだけでも――と思
惟を中断させるギゼー。
 目の前に、片開きの質素な造りの扉が立ち塞がっていた。

 メデッタがまるで意図していたかのように、話を切った一、二分後。数歩進
んだ先に、待ち構えていたかの様にその扉は聳え立っていた。それが、次の試
練へ続く扉だと理解するのに数秒掛かった。今まで見て来た扉とは、まるで造
りが違うのだ。その様子の違いに、唖然とする一行。
 階段の踊り場のような場所で一旦足を止めると、改めて目と鼻の先にある扉
を観察するギゼー。
 質素な造りだ。そう、思わざるを得ない程、簡素で無愛想な扉だ。
 その扉は何故か片開きで、仄かに白く光っていた。簡素と質素とは紙一重で
意味合いが変わってくる。同じ様に思いがちだが、明らかに違う部分があるの
だ。今ギゼーが目の前にしている扉は、どちらかと言うとい簡素と言う小奇麗
な言葉ではなく、質素と言う色合いが強く出ていた。そして、なんとも面白味
の無い扉である。凡そ装飾と言う装飾は施されておらず、年代だけを積み重ね
て来た重厚さだけが感じられる古風な扉であった。
 そのような感想を一括りに纏めて、頭の隅に追いやりながらギゼーは扉に手
を掛け、ゆっくりと開け放っていった。
 開け放たれる扉を見て、ギゼーは開放感を覚えていた。
 と同時に、第二の試練に繋がる<詩>が頭を過ぎる。


 ――道は四つに分かたれて人の心を惑わせる
 ――第五の部屋へと誘いし道標を見逃すな


 扉は外見に似つかわしくない、重い軋み音を立てて徐々に開かれていく。
 そして、扉の向こうに待っていたのは、“影の男”だった――。

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2007/02/14 23:16 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

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