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PC:ギゼー ジュヴィア リング
NPC:ラオウ<ラオ・コーン>の右腕 リンダ バッティ ジン ケン
場所:天界格闘場~元・ラオウ邸
----------------------†----------------------
チェイミー・マクラウド・ニグデクト。美しい瑠璃色の乙女。
全身から力が抜けていく。凄まじい勢いで、とにかく『吸われている』こと
だけは解った。赤黒い爪は、彼女の白いブラウスの右腕に深々と突き立っている。
「…ぅ!」
だるい。
これが死ぬということ?
死ねるのなら、これでも構わない。
「ジュヴィアちゃんっ!」
ギゼーが駆け寄り、蠢く右腕に手をかけようとするが、ラオ・コーンの右腕は自
在に動き回り、それを許さない。
「いけません!ジュヴィアさん、早く振り払って!私の魔法では『爪』だけを狙
うことは出来ません!」
リングが悲痛な声をあげながら走ってくる。しかし、その叫びもジュヴィアの
ぼんやりとした思考には届かなかった。
――いいでしょう、このままで。私は死にたいのですから
振り払うこともせず、ぼんやりとなすがままになっているジュヴィアの様子に、
ギゼーもリングも気づいたようだった。
「どうしたんだ!振り払わないと…!」
だが、もう遅い。ラオ・コーンの右腕から、ぞろりと様々な組織が溢れ出る。
グロテスクなその様子に、リンダとバッティが思わずたじろいだ。組織はめきめ
きと増殖し、再び人型を為す。つい先ほど死んだはずの、ラオウ――ラオ・コー
ンの顔が頭についていた。皮膚のないその様は、正に化け物というに相応しい。
「なッ―!」
全員が息を呑む。化け物はゆっくりと辺りを見回して言葉を発した。
「小賢しいレアアイテム、あの程度で私を殺したと思ってもらっては困る」
「……!」
あちこちが不完全なままの姿で、ラオ・コーンが立ち上がった。
「所詮は小娘、我が『爪』に抗うことも出来ぬとは…」
そう言うと、突き立てた爪をずばッと抜く。ジュヴィアの右腕が血に塗れた。
「てめぇ!」
「ギゼーさん!ダメです!近寄れば間違いなく殺されます!」
リングの制止に、ギゼーは怒鳴った。
「そんなこと…ジュヴィアちゃんはどうなる!」
「小娘か?」
ラオ・コーンの顔面の筋肉が歪む――皮膚がついていれば「笑った」ことにな
るのだろうが。
「安心しろ、小僧。命までは取らん。いたぶり殺す楽しみを失う訳にはいかぬ」
「また?」
ラオ・コーンも含め全員が、その声に凍りついた。
「また、私は死ねないのですね?貴方は私を殺さない、そうでしょう?」
ゆらり、と空気が揺れる。立ち上がる彼女に、全員の目が釘付けになった。
――ジュヴィア。
「ころしなさい」
紫色の瞳で、彼女はラオ・コーンを見つめる。
「私を殺しなさい。さもなくば、貴方を殺します」
幼い声がとうとうと語りかける。ラオ・コーンはふらふらと彼女に近寄ろうとし
た。
「危ないッ!」
ギゼーが空色の玉をラオ・コーンに投げつける。幾つものかまいたちが生じ、ラ
オ・コーンの体を切り裂いた。そのままラオ・コーンはくず折れる。ジュヴィア
はゆっくりとギゼーを眺め、それから口を開いた。
「邪魔が入れば、私を殺せないの?貴方には私を殺せないのね?」
ラオ・コーンの首に、斧の刃が宛がわれる。
「ならば、貴方を殺すわ」
――刹那。
ギゼーの目には勿論、リングでも動きを追うのが漸くといった速さで、彼女の
斧が閃いた。続いて吹き上がる血飛沫。ジュヴィアのモノトーンの服に、鮮やか
過ぎる返り血が次々に染み付いていく。
「もう、止めろよッ!」
ギゼーが叫ぶが、ジュヴィアの斧はラオ・コーンに振り下ろされつづける。
まるで狂った獣のように、その斧がラオ・コーンを食らう。
『爪』の、最後の最後の欠片が、未だ蠢きつづける。ジュヴィアはそれを、エ
ナメルの黒い靴で勢いよく踏みつけた。ぐりぐりとえぐり込むように足を動かす。
そうして、彼女は倒れた。まるで発条の切れたカラクリ人形のように。
瞼をゆっくりと持ち上げる。まだ死んでいない。死ぬはずがない。あの程度で。
焼け付く右腕は、その証拠だ。起き上がろうとして、思わず口から声が零れた。
「…っぅ」
苦しい。死ねもしないのに。
声で気づいたのか、寝台の傍にいたらしいギゼーとリングが顔を覗き込んでく
る。二人とも、心配半分、安堵半分という表情だ。
「あ、気がついたんですね!良かったです!まだ起きない方が良いですよ」
リングがそう言った。
「ここ…」
「ああ、ここは元・ラオウの家だよ。尤も、もうすぐ取り壊しになるそうだがな」
ギゼーが答える。ラオウ、と聞いて、ジュヴィアの頭の中に「殺す自分」のヴィ
ジョンが克明に浮かんだ。
「私…」
「ジュヴィアさんは丸2日も寝てましたよ。まだ治っていないんですから、あん
まり喋っちゃダメです」
リングはジュヴィアの左手を軽く取る。だが、そんな忠告は今の彼女に必要な
かった。
「……驚いたでしょう」
室内の空気が、その一言でヒヤリと冷たくなる。
「な、何言ってるんだよ。今は寝て、話はそれからだろ」
ギゼーがそう言うが、ジュヴィアの言葉は続いた。
「…お話ししようと思います。全て」
自分の手を取るリングの手を、微かに握り返しながら。
ジュヴィアは、話し始めた。
「……私の母は、国ではそれなりに名の通った魔術師でした」
ひとつひとつを、ただ静かに語る。
「王国のアカデミーを飛び級卒業した時に、宮廷魔術師ではなく遺跡ハンターと
しての道を選びました」
「フリーの遺跡ハンター?宮廷魔術師でなく?」
ギゼーの言葉に、リングが首をかしげる。
「遺跡ハンター?宮廷魔術師?」
「遺跡ハンターってのは、まだ手付かずの遺跡を調査するのが仕事の奴らさ。宮
廷魔術師はその名の通り、宮廷に使える魔術師だ。当然遺跡ハンターより危険
も少ないし、給料だって比べ物にならない」
「そうです。国で極めて有名だった大賢者の息子と二人組みで、あちこちの遺跡
を探索していました。でも」
一旦口をつぐみ、それから一呼吸置く。
「……母は、裏切られたのです」
「…裏切られた?」
「……その、パートナーに、ですか?」
ゆっくりと、ジュヴィアは首を縦に動かした。
「彼の手引きで、母は…」
声が僅かに震える。
言わなくても良い事なのに。
――でも。
「母は、夢魔インキュバスに犯されたのです」
その言葉を聞き、ギゼーとリングの顔が驚愕に引き攣った。
――やっぱり
ぎゅ、と一度瞼を閉じて、もう一度開ける。
――最後まで、言わなくちゃ。
「私は、その時の子です」
「――何だって!それじゃ――」
思わずギゼーが立ち上がる。
「私の父親は、インキュバスです」
「…そんな…!」
リングが、ぎゅっと手を握ってくる。
段々、視界が薄れてきた。
「ごめんなさい…今お話できるのはここまでです…」
こんな話をして、予想以上に疲れた。
精神的にも。
「少し…眠ります」
そして、ジュヴィアはゆっくりとまどろみの世界に落ちた。
PC:ギゼー ジュヴィア リング
NPC:ラオウ<ラオ・コーン>の右腕 リンダ バッティ ジン ケン
場所:天界格闘場~元・ラオウ邸
----------------------†----------------------
チェイミー・マクラウド・ニグデクト。美しい瑠璃色の乙女。
全身から力が抜けていく。凄まじい勢いで、とにかく『吸われている』こと
だけは解った。赤黒い爪は、彼女の白いブラウスの右腕に深々と突き立っている。
「…ぅ!」
だるい。
これが死ぬということ?
死ねるのなら、これでも構わない。
「ジュヴィアちゃんっ!」
ギゼーが駆け寄り、蠢く右腕に手をかけようとするが、ラオ・コーンの右腕は自
在に動き回り、それを許さない。
「いけません!ジュヴィアさん、早く振り払って!私の魔法では『爪』だけを狙
うことは出来ません!」
リングが悲痛な声をあげながら走ってくる。しかし、その叫びもジュヴィアの
ぼんやりとした思考には届かなかった。
――いいでしょう、このままで。私は死にたいのですから
振り払うこともせず、ぼんやりとなすがままになっているジュヴィアの様子に、
ギゼーもリングも気づいたようだった。
「どうしたんだ!振り払わないと…!」
だが、もう遅い。ラオ・コーンの右腕から、ぞろりと様々な組織が溢れ出る。
グロテスクなその様子に、リンダとバッティが思わずたじろいだ。組織はめきめ
きと増殖し、再び人型を為す。つい先ほど死んだはずの、ラオウ――ラオ・コー
ンの顔が頭についていた。皮膚のないその様は、正に化け物というに相応しい。
「なッ―!」
全員が息を呑む。化け物はゆっくりと辺りを見回して言葉を発した。
「小賢しいレアアイテム、あの程度で私を殺したと思ってもらっては困る」
「……!」
あちこちが不完全なままの姿で、ラオ・コーンが立ち上がった。
「所詮は小娘、我が『爪』に抗うことも出来ぬとは…」
そう言うと、突き立てた爪をずばッと抜く。ジュヴィアの右腕が血に塗れた。
「てめぇ!」
「ギゼーさん!ダメです!近寄れば間違いなく殺されます!」
リングの制止に、ギゼーは怒鳴った。
「そんなこと…ジュヴィアちゃんはどうなる!」
「小娘か?」
ラオ・コーンの顔面の筋肉が歪む――皮膚がついていれば「笑った」ことにな
るのだろうが。
「安心しろ、小僧。命までは取らん。いたぶり殺す楽しみを失う訳にはいかぬ」
「また?」
ラオ・コーンも含め全員が、その声に凍りついた。
「また、私は死ねないのですね?貴方は私を殺さない、そうでしょう?」
ゆらり、と空気が揺れる。立ち上がる彼女に、全員の目が釘付けになった。
――ジュヴィア。
「ころしなさい」
紫色の瞳で、彼女はラオ・コーンを見つめる。
「私を殺しなさい。さもなくば、貴方を殺します」
幼い声がとうとうと語りかける。ラオ・コーンはふらふらと彼女に近寄ろうとし
た。
「危ないッ!」
ギゼーが空色の玉をラオ・コーンに投げつける。幾つものかまいたちが生じ、ラ
オ・コーンの体を切り裂いた。そのままラオ・コーンはくず折れる。ジュヴィア
はゆっくりとギゼーを眺め、それから口を開いた。
「邪魔が入れば、私を殺せないの?貴方には私を殺せないのね?」
ラオ・コーンの首に、斧の刃が宛がわれる。
「ならば、貴方を殺すわ」
――刹那。
ギゼーの目には勿論、リングでも動きを追うのが漸くといった速さで、彼女の
斧が閃いた。続いて吹き上がる血飛沫。ジュヴィアのモノトーンの服に、鮮やか
過ぎる返り血が次々に染み付いていく。
「もう、止めろよッ!」
ギゼーが叫ぶが、ジュヴィアの斧はラオ・コーンに振り下ろされつづける。
まるで狂った獣のように、その斧がラオ・コーンを食らう。
『爪』の、最後の最後の欠片が、未だ蠢きつづける。ジュヴィアはそれを、エ
ナメルの黒い靴で勢いよく踏みつけた。ぐりぐりとえぐり込むように足を動かす。
そうして、彼女は倒れた。まるで発条の切れたカラクリ人形のように。
瞼をゆっくりと持ち上げる。まだ死んでいない。死ぬはずがない。あの程度で。
焼け付く右腕は、その証拠だ。起き上がろうとして、思わず口から声が零れた。
「…っぅ」
苦しい。死ねもしないのに。
声で気づいたのか、寝台の傍にいたらしいギゼーとリングが顔を覗き込んでく
る。二人とも、心配半分、安堵半分という表情だ。
「あ、気がついたんですね!良かったです!まだ起きない方が良いですよ」
リングがそう言った。
「ここ…」
「ああ、ここは元・ラオウの家だよ。尤も、もうすぐ取り壊しになるそうだがな」
ギゼーが答える。ラオウ、と聞いて、ジュヴィアの頭の中に「殺す自分」のヴィ
ジョンが克明に浮かんだ。
「私…」
「ジュヴィアさんは丸2日も寝てましたよ。まだ治っていないんですから、あん
まり喋っちゃダメです」
リングはジュヴィアの左手を軽く取る。だが、そんな忠告は今の彼女に必要な
かった。
「……驚いたでしょう」
室内の空気が、その一言でヒヤリと冷たくなる。
「な、何言ってるんだよ。今は寝て、話はそれからだろ」
ギゼーがそう言うが、ジュヴィアの言葉は続いた。
「…お話ししようと思います。全て」
自分の手を取るリングの手を、微かに握り返しながら。
ジュヴィアは、話し始めた。
「……私の母は、国ではそれなりに名の通った魔術師でした」
ひとつひとつを、ただ静かに語る。
「王国のアカデミーを飛び級卒業した時に、宮廷魔術師ではなく遺跡ハンターと
しての道を選びました」
「フリーの遺跡ハンター?宮廷魔術師でなく?」
ギゼーの言葉に、リングが首をかしげる。
「遺跡ハンター?宮廷魔術師?」
「遺跡ハンターってのは、まだ手付かずの遺跡を調査するのが仕事の奴らさ。宮
廷魔術師はその名の通り、宮廷に使える魔術師だ。当然遺跡ハンターより危険
も少ないし、給料だって比べ物にならない」
「そうです。国で極めて有名だった大賢者の息子と二人組みで、あちこちの遺跡
を探索していました。でも」
一旦口をつぐみ、それから一呼吸置く。
「……母は、裏切られたのです」
「…裏切られた?」
「……その、パートナーに、ですか?」
ゆっくりと、ジュヴィアは首を縦に動かした。
「彼の手引きで、母は…」
声が僅かに震える。
言わなくても良い事なのに。
――でも。
「母は、夢魔インキュバスに犯されたのです」
その言葉を聞き、ギゼーとリングの顔が驚愕に引き攣った。
――やっぱり
ぎゅ、と一度瞼を閉じて、もう一度開ける。
――最後まで、言わなくちゃ。
「私は、その時の子です」
「――何だって!それじゃ――」
思わずギゼーが立ち上がる。
「私の父親は、インキュバスです」
「…そんな…!」
リングが、ぎゅっと手を握ってくる。
段々、視界が薄れてきた。
「ごめんなさい…今お話できるのはここまでです…」
こんな話をして、予想以上に疲れた。
精神的にも。
「少し…眠ります」
そして、ジュヴィアはゆっくりとまどろみの世界に落ちた。
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