忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2025/03/10 00:11 |
1.故郷/ギゼー・クロース(葉月瞬)
◆――――――――――――――――――――――――――――
登場人物(キャラ):クロース、ギゼー
場所:ポポル付近の遺跡群(11年前)
◆――――――――――――――――――――――――――――

 今から、11年ほど前―。
 ポポル―。
 深い森に囲まれ、古の街が沈む場所。
 新緑が映える深き森の一隅を占める遺跡群の片隅で、幼き少女は発見された。
 奇妙な箱に入れられて。
 実際それは、奇妙奇天烈だった。楕円を象った箱の表面にはこの時代において珍しい硝子が嵌められており、透明なそれの表面には霜が付いていた。それも、中が見通せないほどに。
 トレジャーハンターを自称するその男は、少年と言ってもいい容姿を持っていた。彼自身気にして止まない丈の無さと、多少わんぱくさが残る顔を持ち合わせていた。その風貌から察するに、年齢は16歳だと推察できる。くりくりと良く動く鳶色の大きな瞳孔で、周囲の壁や天井を好奇心一杯で視線を這わせる。短く刈った栗色の髪の毛が、数少ない光源の光を受け天井にその影を躍らせる。
 初めての遺跡。トレジャーハンターとしての、初めての仕事。実際彼は、多少上気していた。夢にまで見た遺跡の中の探索行に、興奮すら覚えていた。父親と約束した事が頭をちらつく。
――前人未到の遺跡を探索し、宝を持って帰ること。それが、お前を一人前と認める条件だ。
 具体的な何かを指定された訳ではない。己が宝と認める物ならば良いのだ。
「へへっ!楽勝だぜィ」
 少年っぽいあどけない笑みを満面に浮かべ、軽口を叩く。
 今目の前にあるものは、楕円を象った箱―不可思議な装置―だった。少年が、宝箱と目する物体だ。思わず鼻歌も混じるというものだ。
 そっと、その箱に触れてみる。
 チャリッ。
 未だ幼さの残るその指に、何か―金属性のプレートが触れる。
「……?何だ?」
 覗き込んだその金属板には、何か文字のようなものが彫り込まれていた。
「…?古代文字?……へへっ、こんな事も有ろうかと、勉強しておいて正解だったぜっ!今じゃ、古代文字は俺の得意分野さ。…………………え~と、なになに~?C・L・O・S・E………?クロース?密着している?なんのこっちゃ」
 その時、プレートに彫られていた文字を読み違えた事に、彼はずっと気付く事は無かった。当然この文字C・L・O・S・E―クローズ―の本当の意味に思い至る事は無かったという。
「ふんふん~♪あれ?この箱、どうやって運べば良いんだろう?」
 少年の指が箱の他の部分をなぞって行く。程なく何やら難い突起物にぶつかり、力を入れると同時に箱の表面を覆っている硝子の部分が上に持ち上げられていった。真っ白い冷気が足元を覆って行き、硝子に張った霜が溶け始める。中から愛くるしい幼女が顔を覗かせる。といっても、彼女は未だ眠ったままだったが。一目見て、色素が薄い子だと解る。銀色の長髪を横たえた体の下敷きにし、透き通るような白磁の肌
との境目が良く見えない。瞳の色は、眼が閉じたままなので見ることは出来ないが、おそらくこれも薄い色なのだろうと想像をめぐらす事ぐらいは出来る。見たところ、3歳前後と言ったところか。
「うわぁ!なんっじゃこりゃぁ!!」
 なんっじゃこりゃー、なんっじゃこりゃー、わーん、わーん、わーん。
 少年の驚愕の叫び声が、周囲の壁という壁、天井という天井に反響してドルビー効果を生み出す。
 驚くのは無理も無い。箱の中に少女が入っていたなどとは、露ほども考えなかったからだ。ましてや、宝だとばかり思っていた物が人間の、それも女の子だったとは…。驚いて、三十センチばかり飛び上がってもおかしくは無い。
 その大きな声に驚いた少女は、愛くるしい瞳をゆっくりと開き、少年の方にその寝呆け眼を向ける。
「あふっ?」
 頭の中身は、未だに眠ったままのようだが。
 驚いて1歩も動けない少年が次に発した言葉は、
「あっ、きっ、君だれ?俺、ギゼーって言うんだけど」
 だった。体は驚いていても、頭は正常に働いているらしい。まずは自己紹介、と言ったところか。ところが、少女の反応は無愛想極まりないものだった。
「………?」
 もともと3歳なのだから言葉などあまり知り得ないものだが、それにしたって自分の名前くらいは言えるはずだ。だが、答えなかった。彼女は。
 ところが少年は、その沈黙を勝手に解釈し、勝手に想像をめぐらし、先程見つけた銘板の文字と少女の名前とを結び付けて考えようとした。 
「……?あっ、そうだ!さっきその箱見たとき、クロースって銘打っていたけど、それって君の名前かなぁ?なぁ~んちゃって」
「……………」
「何とか言ってよ…不安になるじゃん…」

 かくして、卵の殻は割られ、雛鳥が世に放たれたのだった―。
PR

2007/02/14 22:36 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<クロスフェードA第11話 乾坤 | HOME | 2.『トレジャーハンターの勘』―ギゼー編―/ギゼー・クロース(葉月瞬)>>
忍者ブログ[PR]