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2024/11/01 07:49 |
2.『トレジャーハンターの勘』―ギゼー編―/ギゼー・クロース(葉月瞬)
◆――――――――――――――――――――――――――――
登場人物(キャラ):ギゼー、クロース(11年前)
エキストラ(NPC):ギゼーの父親チグリと母親ユーフラ、“消えゆく灯火”亭の主人
場所:ガロウズ村(11年前)~ソフィニアの安宿兼酒場“消えゆく灯火”亭(現在)
◆――――――――――――――――――――――――――――

「親父ィ!俺を、一人前と認めてくれィ」
 扉を勢い良く開け放つなり開口一番そう言ったのは、数日前少女をこの世に解き放った張本人、トレジャーハンターを自称する少年ギゼーだった。
 ここはガロウズ村の外れに建っている、ギゼーとその両親の住まう家だ。
 ガロウズ村―かつての英雄、ガロウズの作りし小さな村は、ガロウズの再来を信じ、明日の英雄を夢見る者達で構成されていた。創立当初、ガロウズがかつて生きていた頃の村人達は期待と憧れに満ち満ちていた。そしてそれは、ガロウズ没後50年を過ぎた今も見事に受け継がれている。村の規模こそさして大きくないものの、人々の期待と憧れがそのまま活気へと繋がっている、良い村と言えた。
 村が活気付いているのにはもう一つ理由があった。特産品の評判が良いのだ。英雄ガロウズを記念して売り出した、“ガロウズ・グッズ”の美術品としての価値の高さが噂となり世界中を駆け巡り、衆知の事実となっているのだ。それだけではない。村の周辺に群生している天然のアラウネと言う果実を蒸留酒に漬込むアラウネ酒という名物も風の便りに乗って、広められているのだ。その為、グッズコレクターや、酒飲が良く観光がてらここガロウズ村を訪れるようになり、そのお陰で、村やその近辺が活気付いているのだ。
 ギゼーの両親チグリとユーフラは、ギゼーが生まれる1年前にこの村に越して来たばかりだった。越してきて早々、直ぐに村人達と打ち解け、井戸端会議や仕事帰りの酒盛りにも参加する仲になった。村人達は「まるで昔からこの村に居たかのようだ、不思議な夫婦だ」と噂しあっても、彼等の過去や職業などを詮索するまでには至らなかった。対してチグリとユーフラの方も、村人達が詮索しないのをこれ幸いとばかりに自分達の過去―ここへ来る前の事など一切話さなかった。特にチグリは自分の本当の職業、“トレジャーハンター”の事が村人達に知られるのを避けたがっている風であった。
 そう言う事も有ってか、村人達はチグリとギゼーの本当の職業、トレジャーハンターの事は知る由も無かった。

「なんだ?お前、そんなに血相変えて。またな~んか、面白い物でも拾ったか(笑)」

 ギゼーの開口一番に言った台詞を受け、豪快に笑い飛ばす父チグリ。未だ現役のトレジャーハンターらしく、褐色の血色の良い肌をこれ見よがしに露出している。黒のタンクトップにやや幅広のだぶついた白いパンツという、実にシンプルないでたちだ。家の中に居るときは、いつもこう言う格好で居るのだこの男は。鳶色の、息子と同じ色の瞳を息子自身に向けている。だが、笑いに乗じて揺れ動く髪の毛は息子と違って赤毛だ。
 台所の方では母ユーフラが夕食の支度に精を出しつつ、息子と父親の会話に注意を向けている。母はいつもそうだ。何時如何なる時でも余裕を忘れない。栗色の髪を肩まで揃えて伸ばし、青紫色の瞳が印象的だ。今だってそうだ。満面の笑みを湛えながら、野菜を切りつつ二人の会話に聞き入っている。ギゼーの位置からでは後姿しか見えないが。
「拾ってねぇっ!……って、そんな事より!!親父、俺を今すぐ、一人前と認めろ!」
 父親の冗談に突っ込みを入れながらも、自分の主張は忘れない。この父親に育てられたからこそ、如何なる時でも冷静さを保っていられる。その上、明朗快活で…良い息子に育ったものよと母は密かに微笑む。その間も、会話は続けられていた。
「…一人前に…だぁ?なんだお前、もう自分のお宝見つけて来ちまったのかぁ?……どれどれ、見せてみろィ」
 そう言われて、ギゼーは今まで自分の後に隠れて様子を覗っていた3歳くらいの幼女―名をクロースと言う―を父親の前に押し出す。見ず知らずの人を見て弱気が表に出ているクロース。そのクロースを見て驚きを隠せないチグリ。母親も夕食を準備する手を休め、こちらを振り返って様子を見ている。やはり驚きを隠せない様子だ。
「………なんだ?こいつは…?」
 チグリがやっとの思いで言葉を紡ぎ出す。その様子を見て取ったギゼーは、得意を満面に浮かばせる。
「何って?へへっ、当然っ、俺のお宝さっ!」
「…おいっ。幾らなんでも人間がお宝なんてぇ、ちょっと無理が過ぎねぇか?さしずめ、遺跡の内部で見つかった…なんて能書きたれるんだろうが、そ~んな嘘っぱち、俺には通じねぇぜ。…………!?まっ、まさかっ!?お前、他所様んとこで子種を…」
「大きく、違う!!」
 何処から出したのか、ハリセンで思いきり突っ込みを入れるギゼー。このやり取りももうそろそろ板に付いてきた頃だ。
 ともすると後に引っ込もうとするクロースをもう1歩父チグリの方に近付けつつ、自己紹介の準備に取りかかるギゼー。引っ込み思案なクロースの為に気を揉んでいるのが、良くわかる。
「……まっ、とにかくよっ、紹介するぜ親父。この子はクロースって言うんだ。正真正銘遺跡の中で見つけた子だ。…クロース、ほらっ」
「あっ、あのっ……ワタシ…クロースって言います。…よろしくです」
 色素の薄い子、一目見てそんな印象を受ける。長い銀髪を腰まで伸ばし、青灰色の瞳を宿した眼を瞬かせている。肌の色は白く、青みが差している。どちらかと言うと病気勝ちで室内に閉じ篭りっきり、と言う感が強い。遺跡で発見したというギゼーの証言も、あながち間違ってはいないのでろう事が色白の肌を見れば推測できる。眉目秀麗なその顔の造形は、将来を期待させると共に他人の警戒心や猜疑心を解く効果も得られるらしい。多少オドオドしてはいるが、その愛くるしい微笑を目にしたチグリは相好を崩した。
「あっ、ああ、クロースちゃんよろしくな。こちらこそ」
「……!?うそっ、あの頑固親父が、ヘラヘラしてらぁ…」
 信じられない物を見た、と言うショックでよろめきそうになるギゼーであった。

「で?親父。俺の事を、一人前と認めてくれるんだろうな?」
 食事が終わり一家団欒の様相を呈したとき、ギゼーが先程の話を掘り返した。
「クロースちゃん、今日の食事はどうだった?……ん?何の事だ?」
 対してギゼーの問いかけに、あくまで白を切り通す糞親父ことチグリ。
「だっだからっ!俺がお宝を見つけて持って帰ってきたら、一人前と認めるって話だよ!!…呆けるには未だ早いぜ、糞親父」
「だれが糞親父だ!礼儀もわきまえぬ、糞ガキが!……ああ、あの話か。いいか?アホなお前の事だから、何か勘違いしているようだがな、俺は宝物を持って来いって言ったんだ。子宝を持って来いって言った覚えはねぇ!」
 そう、捲し立てた後チグリはクロースに笑顔を向け、遊び相手になってやっている。人見知りがちなクロースも、何故だかチグリに対しては懐いている様だ。
「なっ!子宝って…!?…おいっ、親父!」
 子宝のその一言に反応し、ギゼーは顔を紅潮させ言葉に詰まる。今だ少年然とした確たる証拠だ。彼の、純な一面が除いた瞬間だった。

 クロースを寝かしつけた後、今だ納得いかず憮然としている息子に対し、チグリは諭す様に口を開いた。
「なあ、お前には、トレジャーハンターなんてもンは未だ早過ぎる。お前が成るようなしろもんじゃねえんだ、トレジャーハンターなんてものはな。トレジャーハンターなんて常に危険と隣り合わせなんだぞ。お前にもしもの事が有っちゃ、俺は……母さんに申し開きがたたねぇだろう。それにお前は、一人前ってものがどう言う事か知らなさ過ぎる。一人前って者がどう言うものか、お前が自分自信の中で答えを見出せねぇうちはまだまだ半人前だってことだ。逆に答えを見つけられれば、もう一人前ってことだ。誰に認められなくてもな」
 酒を煽りながらしみじみと語った父親の、その翳りのある顔を少年は一生忘れることなくその言葉と共に胸に刻むのだった―。


 11年後、ソフィニアの安宿兼安酒場“消えゆく灯火”亭―。
 ギゼーは酒場の一隅にて、己の過去へと思いを馳せていた。
 手元には、ラム酒と豪勢な料理の数々。それらの美味なるものに舌鼓を打ちつつも、思惟は止まらずただ流れるのみだ。
 村に残して来たクロースの先行きに行き付いた時、今まで室内に響いていた楽曲は終わりを告げ長い長い物語が終わった事を知らされた。
 大体、吟遊詩人がこのような安酒場に来る事自体稀である。大抵はもっとギャラの良い中級か上級の酒場に行き、演奏するものだ。その吟遊詩人の美声を、この様な安酒場で聞けた事自体が極めて稀で、幸運に恵まれている事なのだ。
 いくつか酒場の主人と親しく会話を交わしているところを見ると、酒場の主人と吟遊詩人とはどうやら知り合いらしい。彼はどうやらここ―“消えゆく灯火”亭―の二階に宿を取っているようだ。
 吟遊詩人の弾き語りが終わった途端に、周囲の他愛も無い噂話がギゼーの耳にねじ込まれてくる。
(…噂話など…聞きたくも無い…)
 そう思って、ラム酒に口をつけるが、ある噂で動きを止める。
 そして、その話が聞こえて来た方向に耳を傾ける。

―なあ、その話本当か?
―ああ、確かな情報だ。向うに行っていた俺の友達が話してた事だからな。ガロウズ村の連中が一番で全滅したってな…。
―ひでぇ話だ。
―ああ、全くだ。なんでも、何処からとも無く現れた炎で焼かれたらしい…。

(ガロウズ村が…焼かれた!?……親父!母さん!…クロース!!)
 その話を聞いた途端、無意識の内に椅子を蹴倒し立ち上がるギゼー。大きな音が辺り一面に響き渡り、酒場にいた数人の飲んだくれがギゼーの方を振り向く。
 彼等の目に移ったのは、ギゼーの驚愕に引きつった顔だった―。
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2007/02/14 22:36 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

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