場所 :断崖の国コモンウェルズ 祭壇の間
PC :イカレ帽子屋・ウピエル
NPC:女王マルガリータ・少女リーゼリット
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女王の絶叫と共に、より一層炎は燃え上がる。
罪を薪に萌える罰はより紅く、より美しく、まさしく女王の望みのままに何よ
りも美しく燃え上がった。血の色をした焔はまさしく古来に潰えた鳳凰の嘆き
かあるいは贄と成り果てた子供らの憎悪か。
「…美しいですね、貴方の望みのままに」
皮肉めいた帽子屋の呟きに、先程まで戦意を顕にしていたウピエルは呆れて肩
を竦めた。
「そりゃぁ綺麗だろうさ、何せ数千年の呪いと数十人の生贄の集大成さ」
倒れこんでいたリーゼリットを抱き起こすウピエル。額に汗を浮かべ、前髪を
張り付かせてぐったりとしているが、とりたて体に異変はないようだ。安心し
て息をつくと、とりわけ甲高い絶叫が断崖の空に響いた。
ウピエルがその声に振り返ったのは、最後を見届けるためではない。魂までも
炙るような熱風と、爆発的な神意を感じたからだ。
「あれが、最も古き神々の一人…」
紅い光が撒き散らされ、産毛のような火の粉が舞う。思わず帽子屋とウピエ
ル、そして意識が朦朧としていたリーゼリットまでも目蓋を閉じて顔を庇う。
翼を広げたその神は、たった一声鳴くと明け方の空に飛び立った。
その声は歌のような、叫びのような不思議な声だった。断崖を見下ろすように
首を下げていたが、やがて朝焼けの空に飛んでその姿は紛れてしまった。
「…見ましたか」
「…あぁ、見たけれど」
しばし、帽子屋もウピエルも無言。気が抜けたように二人とも空を見上げてい
たが、帽子屋がいつもの笑みに戻って、
「生で神様を見たのは初めてですよ」
「まぁ…ナマモノではなぁ」
動いてる神様はウピエルも永く生きてるが初見えだ。今回の事件は、普段なら
絵画やら石像やらでしか見れない存在のオンパレードだった。
神にしろ魔物にしろ、とにかくハチャメチャな日々だった。リーゼリットがよ
うやく意識を取り戻したのか、目を瞬いてウピエルの顔を凝視する。
「あ、あれ?」
「残念でしたね、貴女はハズレみたいだったですよ」
「なんつー言い方すんだよオメーは」
薄気味悪く笑う帽子屋と、いかんしがたい表情で腕を組むウピエルを交互に眺
めて、そして明け方の空を見る。今はもう青く澄み渡り、今までの紅い景色が
嘘のようだ。
「…あの、女王様は?あと神は…」
「ババアはそれ、神さんは上だ」
ウピエルが灰の残骸を指差し、次に空を指差した。しばしリーゼリットはクエ
スチョンマークを浮かべていたが、納得いったようないかないような妙な顔の
まま立ち上がる。
「…なんだか、あっという間でした」
いまや姿も確認できないが、神は確かにいたのだ。
「それでよ、これからどーするんだ」
ウピエルの浮かない声が現実を引き戻す。
悪の親玉である女王は滅んだが、王を亡くした国はどうなるのか、子供達を失
った都はどうするのか。問題は今だ多岐にわたり、流された血と命は数え切れ
ず、先行きは暗澹とした闇の中だ。だからといって、ウピエルや帽子屋がそれ
を抱え込めるかいうわけでもなく、ただの通りがかりである二人には国の未来
などはとてもじゃないが抱えきれない。
「…どう、なるんでしょう…」
当事者のリーゼリットも困惑しきった様子だった。だが、やがて意を決したよ
うに笑った。背後の空のように澄み切った笑顔だった。
「困ったときの、神頼みとか」
「都合いいなぁ」
ちら、と舌を出して笑うリーゼリット。どうやら根はこちらのほうらしく、明
け空を眺めながら手を差し伸べる。
「今まで女王様が神様でした。でも、本当の神様がいらっしゃるようなら、き
っとこれから頑張ることは実を結ぶでしょう?だって、神様は空から常に見て
いてくださっているのですから、頑張ればきっと報われますでしょう」
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二日後。
「…質問、アンタどうやってコモンウェルズに来たんだ」
「それはこちらの台詞ですよ。当初ギルドの身分証を偽って行こうと思ってい
たら、コモンウェルズ手前で女王の息のかかった野党に襲われるわむしろギル
ドの関係者だと思われて四方八方追い回されるわ…陸路でいくならギルド繋が
りの商人とかで行った方が楽だとふんだら、とんだ誤解で幾日も崖に隠れたり
よじ登ったりして大変でしたよ」
「…んで、どう入ったの?」
「仕方ないので、女装で」
野党も宗教関係者でしかも女性は狙わないようだ。
と、いうことでリーゼリットが着ていたような神官服を購入しそれに顔を隠し
て断崖の国に侵入したのだった。
「…マジか…」
「こちらからの質問ですが、なんで貴方が凹むのですか?」
脱力した吸血鬼、どうやら本格的に脳裏に破滅的な映像がよぎったらしく、
少々立ち直るのには時間がかかりそうだ。それを横目で見て、何故か不満げに
なりつつも荷馬車の横揺れで乱れた襟元を正す。
断崖の国から出て行く商人の馬車に乗せてもらいながら、二人は非常にゆっく
りとしたスピードで谷を下っていった。断崖を降りているのでがこがこと揺れ
る上に、馬車の荷台には大量の鶏が乗っていた。今ウピエルが大勢の鶏に囲ま
れて慰められるようにつつかれているのを見ながら、なぜか膝上に載っている
ひよこを撫でつつ澄んだ青空を眺める。
「今頃どのへんを飛んでるんでしょうね…」
「あー…見えねぇなぁ……」
でしょうね、と帽子屋は頷く。ウピエルのあぐらの中で鶏が決闘していて、常
に彼の視界には澄み渡った蒼空と鶏の姿が7:3ぐらいの割合で映っているだ
ろうから、青空の向こうの鳳凰を見たくとも、見えるのは血気盛った鶏ぐらい
だろう。
「まぁ」
鶏の声が煩すぎるので、たとえ今ここで神の啓示がなされても多分聞こえない
だろう。あの澄み渡る夜明けに響いた神の一鳴きは、断崖で血を流しながら生
きてきた人々に何を授けるんだろうか。
神がいるという、ただそれだけで人は何ができるというのか。
「せいぜい、意味も無く祈るぐらいですかね」
神さえいれば、人は星に祈る事ができよう。意味も無く晴れた星空、理由もな
く澄んだ青空に、人はきっと今日は良い事があると理由もなく思えるだろう。
神がどこかにいる空へ、今日もきっと祈りが響く。
断崖の国に灯がともる。
人が宿した希望の火、未来の火が。
「ところで、あんたコレどうやって情報売んの?まさか自分で見ただけですっ
ていう目撃談だけ?」
「……(そうだよなぁ)」
最初にこの依頼を受けた知己を口八丁で丸め込めるかどうかは、神様に祈るし
かないようだ。とりあえず神様のいる方向(青空)に祈ってみる帽子屋だっ
た。
PC :イカレ帽子屋・ウピエル
NPC:女王マルガリータ・少女リーゼリット
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女王の絶叫と共に、より一層炎は燃え上がる。
罪を薪に萌える罰はより紅く、より美しく、まさしく女王の望みのままに何よ
りも美しく燃え上がった。血の色をした焔はまさしく古来に潰えた鳳凰の嘆き
かあるいは贄と成り果てた子供らの憎悪か。
「…美しいですね、貴方の望みのままに」
皮肉めいた帽子屋の呟きに、先程まで戦意を顕にしていたウピエルは呆れて肩
を竦めた。
「そりゃぁ綺麗だろうさ、何せ数千年の呪いと数十人の生贄の集大成さ」
倒れこんでいたリーゼリットを抱き起こすウピエル。額に汗を浮かべ、前髪を
張り付かせてぐったりとしているが、とりたて体に異変はないようだ。安心し
て息をつくと、とりわけ甲高い絶叫が断崖の空に響いた。
ウピエルがその声に振り返ったのは、最後を見届けるためではない。魂までも
炙るような熱風と、爆発的な神意を感じたからだ。
「あれが、最も古き神々の一人…」
紅い光が撒き散らされ、産毛のような火の粉が舞う。思わず帽子屋とウピエ
ル、そして意識が朦朧としていたリーゼリットまでも目蓋を閉じて顔を庇う。
翼を広げたその神は、たった一声鳴くと明け方の空に飛び立った。
その声は歌のような、叫びのような不思議な声だった。断崖を見下ろすように
首を下げていたが、やがて朝焼けの空に飛んでその姿は紛れてしまった。
「…見ましたか」
「…あぁ、見たけれど」
しばし、帽子屋もウピエルも無言。気が抜けたように二人とも空を見上げてい
たが、帽子屋がいつもの笑みに戻って、
「生で神様を見たのは初めてですよ」
「まぁ…ナマモノではなぁ」
動いてる神様はウピエルも永く生きてるが初見えだ。今回の事件は、普段なら
絵画やら石像やらでしか見れない存在のオンパレードだった。
神にしろ魔物にしろ、とにかくハチャメチャな日々だった。リーゼリットがよ
うやく意識を取り戻したのか、目を瞬いてウピエルの顔を凝視する。
「あ、あれ?」
「残念でしたね、貴女はハズレみたいだったですよ」
「なんつー言い方すんだよオメーは」
薄気味悪く笑う帽子屋と、いかんしがたい表情で腕を組むウピエルを交互に眺
めて、そして明け方の空を見る。今はもう青く澄み渡り、今までの紅い景色が
嘘のようだ。
「…あの、女王様は?あと神は…」
「ババアはそれ、神さんは上だ」
ウピエルが灰の残骸を指差し、次に空を指差した。しばしリーゼリットはクエ
スチョンマークを浮かべていたが、納得いったようないかないような妙な顔の
まま立ち上がる。
「…なんだか、あっという間でした」
いまや姿も確認できないが、神は確かにいたのだ。
「それでよ、これからどーするんだ」
ウピエルの浮かない声が現実を引き戻す。
悪の親玉である女王は滅んだが、王を亡くした国はどうなるのか、子供達を失
った都はどうするのか。問題は今だ多岐にわたり、流された血と命は数え切れ
ず、先行きは暗澹とした闇の中だ。だからといって、ウピエルや帽子屋がそれ
を抱え込めるかいうわけでもなく、ただの通りがかりである二人には国の未来
などはとてもじゃないが抱えきれない。
「…どう、なるんでしょう…」
当事者のリーゼリットも困惑しきった様子だった。だが、やがて意を決したよ
うに笑った。背後の空のように澄み切った笑顔だった。
「困ったときの、神頼みとか」
「都合いいなぁ」
ちら、と舌を出して笑うリーゼリット。どうやら根はこちらのほうらしく、明
け空を眺めながら手を差し伸べる。
「今まで女王様が神様でした。でも、本当の神様がいらっしゃるようなら、き
っとこれから頑張ることは実を結ぶでしょう?だって、神様は空から常に見て
いてくださっているのですから、頑張ればきっと報われますでしょう」
----------------------------------------------------------------------
二日後。
「…質問、アンタどうやってコモンウェルズに来たんだ」
「それはこちらの台詞ですよ。当初ギルドの身分証を偽って行こうと思ってい
たら、コモンウェルズ手前で女王の息のかかった野党に襲われるわむしろギル
ドの関係者だと思われて四方八方追い回されるわ…陸路でいくならギルド繋が
りの商人とかで行った方が楽だとふんだら、とんだ誤解で幾日も崖に隠れたり
よじ登ったりして大変でしたよ」
「…んで、どう入ったの?」
「仕方ないので、女装で」
野党も宗教関係者でしかも女性は狙わないようだ。
と、いうことでリーゼリットが着ていたような神官服を購入しそれに顔を隠し
て断崖の国に侵入したのだった。
「…マジか…」
「こちらからの質問ですが、なんで貴方が凹むのですか?」
脱力した吸血鬼、どうやら本格的に脳裏に破滅的な映像がよぎったらしく、
少々立ち直るのには時間がかかりそうだ。それを横目で見て、何故か不満げに
なりつつも荷馬車の横揺れで乱れた襟元を正す。
断崖の国から出て行く商人の馬車に乗せてもらいながら、二人は非常にゆっく
りとしたスピードで谷を下っていった。断崖を降りているのでがこがこと揺れ
る上に、馬車の荷台には大量の鶏が乗っていた。今ウピエルが大勢の鶏に囲ま
れて慰められるようにつつかれているのを見ながら、なぜか膝上に載っている
ひよこを撫でつつ澄んだ青空を眺める。
「今頃どのへんを飛んでるんでしょうね…」
「あー…見えねぇなぁ……」
でしょうね、と帽子屋は頷く。ウピエルのあぐらの中で鶏が決闘していて、常
に彼の視界には澄み渡った蒼空と鶏の姿が7:3ぐらいの割合で映っているだ
ろうから、青空の向こうの鳳凰を見たくとも、見えるのは血気盛った鶏ぐらい
だろう。
「まぁ」
鶏の声が煩すぎるので、たとえ今ここで神の啓示がなされても多分聞こえない
だろう。あの澄み渡る夜明けに響いた神の一鳴きは、断崖で血を流しながら生
きてきた人々に何を授けるんだろうか。
神がいるという、ただそれだけで人は何ができるというのか。
「せいぜい、意味も無く祈るぐらいですかね」
神さえいれば、人は星に祈る事ができよう。意味も無く晴れた星空、理由もな
く澄んだ青空に、人はきっと今日は良い事があると理由もなく思えるだろう。
神がどこかにいる空へ、今日もきっと祈りが響く。
断崖の国に灯がともる。
人が宿した希望の火、未来の火が。
「ところで、あんたコレどうやって情報売んの?まさか自分で見ただけですっ
ていう目撃談だけ?」
「……(そうだよなぁ)」
最初にこの依頼を受けた知己を口八丁で丸め込めるかどうかは、神様に祈るし
かないようだ。とりあえず神様のいる方向(青空)に祈ってみる帽子屋だっ
た。
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