場所 :断崖の国コモンウェルズ
PC :イカレ帽子屋・ウピエル
NPC:女王マルガリータ・少女リーゼリット
-----------------------------------------------------------------------
--------------------
ウピエルは女王の元に殴りこみにいったようだ。
でも、おそらく間に合わないだろう。数百年の時間で進化は終わり、数千人の
子供の贄によって炎を宿す資質は完成された。一つの生命が進化の系譜を変え
るのに、ここまで来たのだ。
女王の高笑いする幻聴が聞こえてきそうだった。
□□□□
「私、死んじゃうのでしょうか…?」
意識が戻ったリーゼリットは、ぼんやりと天井を見上げながら呟いた。
「このままでは、そうなるでしょうね」
まったく配慮の欠片もない返答をしたのはイカレ帽子屋だった。即席相棒たる
吸血鬼は野暮用といって外に出てしまった。必然的に二人だけの会話となる。
「死が怖いのですか?」
「…このまま私は燃えて、灰になってしまうのでしょうか…そうして、死んで
しまうの?」
呼吸も苦しいのか、熱に浮かされた頭で必死に言葉を紡いでいる。
今も少女は灼熱の地獄を彷徨っている。だが隣の青年は同情もせずに笑った。
「貴女は、終わる。けれど別のモノが始まるのでしょう」
「別、の…モノ?」
「平たく言えば、太古の生物の遺伝子が発現して現在の遺伝子を生きたまま
組み替えているということです。生きながらに別のモノに変わっていく気分
はどうですか?」
「………」
苦しそうに瞼を閉じた娘の額の氷嚢を取りあげると、すでに温い温度に変わ
っていた。それくらいはしてやろうと、帽子屋は席を立とうとし、細い手が
裾を掴んでいた事に気がついた。
「教えてください」
「…何を?」
「見知らぬ方…私達の知らないこと、知ってらっしゃるのでしょう?」
「………」
「見てください」
リーゼリットが捲り上げた腕。
汗に塗れ、衣服の裾から見える腕はあまりにも大きかった。それは、黄金の
羽毛だった。
「…五年前くらいでしょうか?
私は父さんと母さんと三人の妹と末の弟と暮らしてた。その頃空を飛ぶ夢を
よく見たんです。
ある朝、目が覚めてみれば羽が生えていた。女王様の衛兵が“貴女は選ばれ
た者だ”って言って私を神殿まで連れていった。
女王様は約束してくれた、私が神に生涯仕える間は家族に有り余るほどの食
事と水をくれる、と」
帽子屋が目を細めた。
よく見れば、その少女の瞳には人間にはありえない水晶体の形をしていた。
鳥の瞳のような細い虹彩が揺らめいている。
少女はほとんど自覚していた。自分の身に起こり、やがて来るであろう未来
を。
「…鳳凰になっても、神様になっても、私は父さんや母さんを覚えていられ
るのでしょうか?
人との繋がりなど、神の心には不要かもしれません。…人でなくなることは
怖いですが」
一言区切って、少女はうっすら涙を浮かべた。
「それより何より、大好きな家族を忘れてしまうことが、もっと怖いんで
す…」
□□□□
「これはこれは…ウピエル殿、かような慌て様いかがしました?」
「やっぱ、お前が黒幕かよ」
十八人目の兵士が倒される音が、大広間に響いた。
敬語ですらない青年に、さして気にせずに鷹揚に頷く女王の美貌があった。
「事件は解決しましたか?」
「お前を倒せば、な!」
常人では認識できない速度で投げつけられた短剣は、女王の頬を浅く掠めた。
切り裂いた頬から赤い血が流れ、だが女王は嫣然と微笑んでいた。
「なるほど…子供が【再生】の遺伝子を覚醒させ、大人が【不死】の遺伝子
を覚醒させるっつうことか」
「吸血鬼殿、それは誤解だ。
不死、とは死なぬことよ。それは【再生】遺伝子が完全でなければならない」
傷口が瞬時に塞がっていく。元通りの白く滑らかな薔薇色の頬に朱色の血が
輝いた。
「我らの【不死】など所詮、時間稼ぎ。数回程度心臓をもぎ取ってしまえば
事切れる程度。かといって子供の体では遺伝子の改変に耐え切れずに自滅し
てしまう。はて、嘆かわしいことです」
兵士が続々と集まる広間。
ウピエルは構わずに、短剣の切っ先を女王に向ける。
「次は本気でやるぞ。リーゼリットはどうすれば治る?」
「治る?これは病気ではない、進化だ!我らは人と神を繋ぐミッシング・リ
ングだったのだ。
そして失われた進化はようやく埋まり、私たちは新たなる神の一つとなるの
だ!」
ウピエルは鼻で笑った。
「神様なんて笑わせる。てめぇの神様ごっこのためにどんだけの子供達が蜿
蜒(えんえん)と苦しませた?正気の沙汰じゃねぇ」
ウピエルの反抗にも眉一つ動かさずに、穏やかに微笑み続ける女王マルガリ
ータ。
その余裕がウピエルには分からなかった。相手は自分の力量を軽視している
だけだろうか?兵士の力があるといっても、一般人とウピエルの戦闘能力は
歴然だ。
「駒の配役が逆になってしまったが、まぁいいでしょう。
今頃リーゼリットはすでに祭壇へ捧げられているはず」
「何だと?」
マルガリータは白い喉を逸らせながら笑った。
「【外】の国々が邪魔者を送り込んできたことはお前が来るより先に知って
いたこと。
【外】の邪魔者…あの不気味な喪服男は我らの内情を通敵し、【外】へと垂
れ流すためにやって来たのだ。たかが調査員の失踪事件程度では国は動かぬ
、その裏には【鳳凰】を手に入れようとする【外】の愚かな俗界の魂胆が透
けて見えるわ!」
哄笑しながら、女王の凄惨な美貌が歪んだ。
「だが我が国には未だ【鳳凰】は目覚めていなかった。
だからあの喪服男は【神】の可能性のあるリーゼリットに近づこうとしたが
、先にお前が接触してしまった、ということだ。あの喪服男の狙いはお前の
注意を我らにむけ、自分はのうのうと【神】を覚醒させて【外】の俗界から
【神の情報】を高値で売りさばくつもりなのだよ!」
□□□□
向こうと自分は利害は一致した。
【神を目覚めさせること】…その点においてはイカレ帽子屋と女王マルガリ
ータは暗黙の了解を互いに交し合っていたのだ。
帽子屋は特定の国家に属してはない。彼が考えるのは己が利益のみ。
だから、リーゼリットには【鳳凰】として覚醒してもらったほうが、この依
頼の情報量と価値は格段に跳ね上がり、いくらでも他国家は湯水のように金
を貢だろう。それで国同士の戦争が始まろうが、この国が滅ぼうが特に問題
はない。
「…帽子屋さん…ご、ごめんな、さい…少し…」
問題は、無いはずだけれど。
「さすがに高熱の貴女に山登りはきつそうですね」
伝承では神の剣といわれる幅の細い岩山。中は空洞であり、そこはコモンウ
ェルズでも聖域として扱われているため、滅多なことでは足を踏み入れるこ
とは許されない。
「休みましょうか?頂上はもう少しですから」
「…へ、へい…気です…」
衣服を引きずりながら、熱っぽい呼吸を繰り返す少女。
もうすでに覚醒しているのに、まだ少女の意識があるからその体は人間のま
ま発熱している。生き地獄だろうに、ただ汗を流しては足を動かす。
「…逃げないのですね」
「帽子屋さん、言ったじゃないです、か…一人誰かが神様になれれば、発火
現、象…収まるって…」
発火現象の特徴は、まるで伝染病のように発病した子供に親しくしていた子
供へと鎖のように繋がっていた。恐らく、一度発症するとなんらかの要素で
近い個体も同じように変化を促されるのだろう。
つまり、発火現象の究極たる【鳳凰復活】が発現すれば発火はそこで止まる。
社会的集団要素に近い共有現象がそれを引き起こしているのだろうと見た帽
子屋は、つまり一度誰かが“完成”されれば、その他の個体の症状は徐々に
治まると仮説を立てた。
もちろん、ただの仮説だ。
『みんなが苦しんで死んでいくよりも、私が両親や妹、弟達を思い出せなく
なるぐらいですむのなら』
少女は笑った。
澄み切った清流のように透明な笑顔で。
リーゼリットには【鳳凰】として覚醒してもらったほうが、この依頼の情報
量と価値は格段に跳ね上がり、いくらでも他国家は湯水のように金を貢だろ
う。
…それで国同士の戦争が始まろうが、この国が滅ぼうが特に問題はない。
「…リーゼリットさん、しばらく我慢してくださいね」
「…わっ」
軽い少女を背中におぶって、また聖域の階段を上がっていく。
それぐらいの力は一応ある。始めリーゼリットはもぞもぞしていたが、高熱
と疲れのためにすぐにぐったりとおとなしくなった。
しばらくはどちらも口を開かずに、黙々と歩き運ばれる。
「…帽子屋さん…、ウピエルさんに、ありが…とうって伝えて、ください
ね…」
「神の言葉ですから、必ずや」
くだらない冗談に、リーゼリットは笑ったようだ。
靴裏がかつんと、違う地層に触れた。そこは最上階、整備され高価な玉が敷き
詰められた祭壇の広間だった。
「さて」
少女を広間に下ろすと、殺気じみた気配が横を掠めた。
「…マルガリータも口ほどにもない。足止めどころか先回りされているじゃな
いですか…」
苦笑ついでに、真っ赤な口腔を三日月に裂きながら、祭壇のステンドグラスを
仰ぎ見た。
光を透過させるガラスの絵画の真ん中に、切り取ったような長身の影。
金髪の下の瞳が、無造作に二人を見下げていた。
PC :イカレ帽子屋・ウピエル
NPC:女王マルガリータ・少女リーゼリット
-----------------------------------------------------------------------
--------------------
ウピエルは女王の元に殴りこみにいったようだ。
でも、おそらく間に合わないだろう。数百年の時間で進化は終わり、数千人の
子供の贄によって炎を宿す資質は完成された。一つの生命が進化の系譜を変え
るのに、ここまで来たのだ。
女王の高笑いする幻聴が聞こえてきそうだった。
□□□□
「私、死んじゃうのでしょうか…?」
意識が戻ったリーゼリットは、ぼんやりと天井を見上げながら呟いた。
「このままでは、そうなるでしょうね」
まったく配慮の欠片もない返答をしたのはイカレ帽子屋だった。即席相棒たる
吸血鬼は野暮用といって外に出てしまった。必然的に二人だけの会話となる。
「死が怖いのですか?」
「…このまま私は燃えて、灰になってしまうのでしょうか…そうして、死んで
しまうの?」
呼吸も苦しいのか、熱に浮かされた頭で必死に言葉を紡いでいる。
今も少女は灼熱の地獄を彷徨っている。だが隣の青年は同情もせずに笑った。
「貴女は、終わる。けれど別のモノが始まるのでしょう」
「別、の…モノ?」
「平たく言えば、太古の生物の遺伝子が発現して現在の遺伝子を生きたまま
組み替えているということです。生きながらに別のモノに変わっていく気分
はどうですか?」
「………」
苦しそうに瞼を閉じた娘の額の氷嚢を取りあげると、すでに温い温度に変わ
っていた。それくらいはしてやろうと、帽子屋は席を立とうとし、細い手が
裾を掴んでいた事に気がついた。
「教えてください」
「…何を?」
「見知らぬ方…私達の知らないこと、知ってらっしゃるのでしょう?」
「………」
「見てください」
リーゼリットが捲り上げた腕。
汗に塗れ、衣服の裾から見える腕はあまりにも大きかった。それは、黄金の
羽毛だった。
「…五年前くらいでしょうか?
私は父さんと母さんと三人の妹と末の弟と暮らしてた。その頃空を飛ぶ夢を
よく見たんです。
ある朝、目が覚めてみれば羽が生えていた。女王様の衛兵が“貴女は選ばれ
た者だ”って言って私を神殿まで連れていった。
女王様は約束してくれた、私が神に生涯仕える間は家族に有り余るほどの食
事と水をくれる、と」
帽子屋が目を細めた。
よく見れば、その少女の瞳には人間にはありえない水晶体の形をしていた。
鳥の瞳のような細い虹彩が揺らめいている。
少女はほとんど自覚していた。自分の身に起こり、やがて来るであろう未来
を。
「…鳳凰になっても、神様になっても、私は父さんや母さんを覚えていられ
るのでしょうか?
人との繋がりなど、神の心には不要かもしれません。…人でなくなることは
怖いですが」
一言区切って、少女はうっすら涙を浮かべた。
「それより何より、大好きな家族を忘れてしまうことが、もっと怖いんで
す…」
□□□□
「これはこれは…ウピエル殿、かような慌て様いかがしました?」
「やっぱ、お前が黒幕かよ」
十八人目の兵士が倒される音が、大広間に響いた。
敬語ですらない青年に、さして気にせずに鷹揚に頷く女王の美貌があった。
「事件は解決しましたか?」
「お前を倒せば、な!」
常人では認識できない速度で投げつけられた短剣は、女王の頬を浅く掠めた。
切り裂いた頬から赤い血が流れ、だが女王は嫣然と微笑んでいた。
「なるほど…子供が【再生】の遺伝子を覚醒させ、大人が【不死】の遺伝子
を覚醒させるっつうことか」
「吸血鬼殿、それは誤解だ。
不死、とは死なぬことよ。それは【再生】遺伝子が完全でなければならない」
傷口が瞬時に塞がっていく。元通りの白く滑らかな薔薇色の頬に朱色の血が
輝いた。
「我らの【不死】など所詮、時間稼ぎ。数回程度心臓をもぎ取ってしまえば
事切れる程度。かといって子供の体では遺伝子の改変に耐え切れずに自滅し
てしまう。はて、嘆かわしいことです」
兵士が続々と集まる広間。
ウピエルは構わずに、短剣の切っ先を女王に向ける。
「次は本気でやるぞ。リーゼリットはどうすれば治る?」
「治る?これは病気ではない、進化だ!我らは人と神を繋ぐミッシング・リ
ングだったのだ。
そして失われた進化はようやく埋まり、私たちは新たなる神の一つとなるの
だ!」
ウピエルは鼻で笑った。
「神様なんて笑わせる。てめぇの神様ごっこのためにどんだけの子供達が蜿
蜒(えんえん)と苦しませた?正気の沙汰じゃねぇ」
ウピエルの反抗にも眉一つ動かさずに、穏やかに微笑み続ける女王マルガリ
ータ。
その余裕がウピエルには分からなかった。相手は自分の力量を軽視している
だけだろうか?兵士の力があるといっても、一般人とウピエルの戦闘能力は
歴然だ。
「駒の配役が逆になってしまったが、まぁいいでしょう。
今頃リーゼリットはすでに祭壇へ捧げられているはず」
「何だと?」
マルガリータは白い喉を逸らせながら笑った。
「【外】の国々が邪魔者を送り込んできたことはお前が来るより先に知って
いたこと。
【外】の邪魔者…あの不気味な喪服男は我らの内情を通敵し、【外】へと垂
れ流すためにやって来たのだ。たかが調査員の失踪事件程度では国は動かぬ
、その裏には【鳳凰】を手に入れようとする【外】の愚かな俗界の魂胆が透
けて見えるわ!」
哄笑しながら、女王の凄惨な美貌が歪んだ。
「だが我が国には未だ【鳳凰】は目覚めていなかった。
だからあの喪服男は【神】の可能性のあるリーゼリットに近づこうとしたが
、先にお前が接触してしまった、ということだ。あの喪服男の狙いはお前の
注意を我らにむけ、自分はのうのうと【神】を覚醒させて【外】の俗界から
【神の情報】を高値で売りさばくつもりなのだよ!」
□□□□
向こうと自分は利害は一致した。
【神を目覚めさせること】…その点においてはイカレ帽子屋と女王マルガリ
ータは暗黙の了解を互いに交し合っていたのだ。
帽子屋は特定の国家に属してはない。彼が考えるのは己が利益のみ。
だから、リーゼリットには【鳳凰】として覚醒してもらったほうが、この依
頼の情報量と価値は格段に跳ね上がり、いくらでも他国家は湯水のように金
を貢だろう。それで国同士の戦争が始まろうが、この国が滅ぼうが特に問題
はない。
「…帽子屋さん…ご、ごめんな、さい…少し…」
問題は、無いはずだけれど。
「さすがに高熱の貴女に山登りはきつそうですね」
伝承では神の剣といわれる幅の細い岩山。中は空洞であり、そこはコモンウ
ェルズでも聖域として扱われているため、滅多なことでは足を踏み入れるこ
とは許されない。
「休みましょうか?頂上はもう少しですから」
「…へ、へい…気です…」
衣服を引きずりながら、熱っぽい呼吸を繰り返す少女。
もうすでに覚醒しているのに、まだ少女の意識があるからその体は人間のま
ま発熱している。生き地獄だろうに、ただ汗を流しては足を動かす。
「…逃げないのですね」
「帽子屋さん、言ったじゃないです、か…一人誰かが神様になれれば、発火
現、象…収まるって…」
発火現象の特徴は、まるで伝染病のように発病した子供に親しくしていた子
供へと鎖のように繋がっていた。恐らく、一度発症するとなんらかの要素で
近い個体も同じように変化を促されるのだろう。
つまり、発火現象の究極たる【鳳凰復活】が発現すれば発火はそこで止まる。
社会的集団要素に近い共有現象がそれを引き起こしているのだろうと見た帽
子屋は、つまり一度誰かが“完成”されれば、その他の個体の症状は徐々に
治まると仮説を立てた。
もちろん、ただの仮説だ。
『みんなが苦しんで死んでいくよりも、私が両親や妹、弟達を思い出せなく
なるぐらいですむのなら』
少女は笑った。
澄み切った清流のように透明な笑顔で。
リーゼリットには【鳳凰】として覚醒してもらったほうが、この依頼の情報
量と価値は格段に跳ね上がり、いくらでも他国家は湯水のように金を貢だろ
う。
…それで国同士の戦争が始まろうが、この国が滅ぼうが特に問題はない。
「…リーゼリットさん、しばらく我慢してくださいね」
「…わっ」
軽い少女を背中におぶって、また聖域の階段を上がっていく。
それぐらいの力は一応ある。始めリーゼリットはもぞもぞしていたが、高熱
と疲れのためにすぐにぐったりとおとなしくなった。
しばらくはどちらも口を開かずに、黙々と歩き運ばれる。
「…帽子屋さん…、ウピエルさんに、ありが…とうって伝えて、ください
ね…」
「神の言葉ですから、必ずや」
くだらない冗談に、リーゼリットは笑ったようだ。
靴裏がかつんと、違う地層に触れた。そこは最上階、整備され高価な玉が敷き
詰められた祭壇の広間だった。
「さて」
少女を広間に下ろすと、殺気じみた気配が横を掠めた。
「…マルガリータも口ほどにもない。足止めどころか先回りされているじゃな
いですか…」
苦笑ついでに、真っ赤な口腔を三日月に裂きながら、祭壇のステンドグラスを
仰ぎ見た。
光を透過させるガラスの絵画の真ん中に、切り取ったような長身の影。
金髪の下の瞳が、無造作に二人を見下げていた。
PR
トラックバック
トラックバックURL: