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2024/05/16 15:12 |
5.イカレウクレレレレレ<病棟と真実の隙間>/イカレ帽子屋(Caku)
PC@イカレ帽子屋、ウピエル
NPC@子供達、衛兵
場所 コモンズウェル特別病棟にて


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「予想外といえば予想外。
普通さぁ、予告なしで現れる助っ人キャラって人外魔境な隠されし必殺技とか
、無敵素敵な強力魔法とか持ってるのが不滅の掟だぜ?」

「…それは小説や物語の中だけでしょうに」

吸血鬼の嫌がらせな台詞は、帽子屋の袖口に向けられていた。
剣で斬りつけられた袖口は、無残に切り裂かれてズタズタに裂けていた。

「そもそも、私の本業は情報戦ですよ。
…だからこういう現場組の仕事は向いてないと、今更愚痴っても仕方ないです
か」

彼は、珍しく憮然としてため息をついた。


ウピエルは拍子抜けした。
向かってきた警備員は、腰に帯剣していた剣を抜き放った。
ウピエルが殺さない程度に倒したものの、帽子屋があまりに素人並みの体術と
護衛術しかできないことに、落胆半分疑問半分おまけに笑顔つき。

「はっきり言っておく、お前素人だろ?」

「当たり前です」

だが、言葉とは正反対にウピエルは彼の言葉を一欠片も信じなかった。
帽子屋の言葉には揶揄や含みなどなかったが、それではあのカジノで自分を欺
いた力は何なのだ?

転がり込んだ病院の一室。
外を駆けるのは靴音と腰に帯びた剣が金具にあたる不協和音。
早々にして侵入に悟られた二人は黙って青い月明かりの部屋で息を潜める。

「こうなりゃ突っ走るしかねぇな」

「相手を皆殺し?ですか」

「なんだよ、人道的な意見でも出す気か?」

帽子屋は、再び微笑んだ。あまり人道的ではない笑みで。

「いえ、構いませんよ。ただそうすると、貴方のお邪魔になりそうな気がし
て」

ウピエルが面倒くさそうに頷いた。
確かにこの素人以前な即席相棒を連れては動きが取りにくい。
その心中を察したのか、彼は笑みを深くして続きを提案した。

「ではどうぞ。
私はここに隠れていますので、ご自由に真実をご覧になってください。
ああ、ただ迎えには来て下さいね。私一人だと武装した兵士の集団に捕まって
しまうと思われるので」

「あーぁ、これで可愛い子ちゃんだったら抱えてでも一緒に行くんだがな」

ウピエルのささやかな嫌がらせにも、帽子屋は大げさに肩を竦めるだけだっ
た。


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それが、つい20分前の会話だったと思い出して帽子屋は非常に自分を呪っ
た。
柱の影に身を潜め、まったく今度の依頼は運が足りなさ過ぎると嘆くと、その
柱の際を掠める矢。
魔法的な処理が行われているのか、雷撃にも似た光が迸り廊下の冷たい床を抉
る。

「ああ嘆かわしい。ここまで悲惨な目に合うのはアダムぐらいだと思っていた
のですが…」

さり気に酷い台詞を、本来の相棒に呟く。
ウピエルと別れた直後、さて一休みしようかと肩をほぐしていたら唐突に扉が
蹴破られたのだ。
鉢合わせたのは魔法剣と弓を抱えた兵士の一団。
…そうして、現在の状況にいたるのである。

「これでは、迎えの前に本当に捕まってしまいますよ…」

そう言いつつも、不気味な笑みは刻まれたまま。
だが状況は非常によろしくない。すでに右手が弓矢の群れに食い千切られてぼ
ろぼろに垂れ下がっているのだ。不思議なことに血が流れない。白い筋肉の糸
と少しだけ覗いた骨がぷらんぷらんと揺れているだけだ。

そんな無残で違和感ある右腕をちらりと見て、帽子屋は今日何回目かの溜息を
ついた。


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矢弾と剣戟を潜り抜けて、逃走の先には袋小路。
誘導されたのだと気がついたときは既に遅く、一際大きい兵士が帽子屋を壁に
たたきつけた。

「残念だったな」

言葉には有り余る侮蔑と勝利の余韻が滴り落ちる。
腕に力を込めて、相手の胸元をしめつけると相手は少しだけ苦しそうに呻い
た。

「さて、吐いてもらおう。我らの女王陛下に噛み付いた鼠の雇い主を、な」

これからの捕虜の扱いを待ち焦がれてか、後ろの一団は嬉しそうにそれぞれの
武器を掲げた。
ふと、リーダー格の大きな男は掴んだ弱者の顔が癪に障った。
笑っていたのだ。

「貴様、立場をわかっているか?」

苛立ちと優越感に、骨を砕くまでの過分な握力で胸元を押し付ける。
俯いたスーツ姿の青年は、笑った。ごきりと、何かが折れて潰れる音。帽子屋
の肋骨を兵士は折った。本来なら、人間は激痛に悶えるはずだ。

「……ですが?」

「あぁ?」



「こういう展開だと、物語や小説の場合。大多数の敵のほうが滅ぶのです
が…?」



真っ赤な邪悪の微笑みと共に、青く青い魔法の式が周囲を舞った。



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「あ?」

何か、第六巻に触る気配を感じてウピエルは立ち止まった。
気のせいかと思い直して、三回の踊り場から跳躍。見事なジャンプで向こう側
の手摺に着地。
着地成功を気障っぽく決めて、一人だった事を思い出して笑う。
常に楽しんでる雰囲気の吸血鬼。

「お、ここか」

特別病棟・関係者以外立ち入り厳禁。
分厚い錠前が三つも取り付けられている。ご丁寧なことだ、と粗雑に掴んで壊
す。
わざわざステークを使う必要もない。ぼろぼろとあっけなく零れていく錠前を
つま先で蹴り上げてウピエルは無造作に扉を引き放った。


呼吸が一瞬停止し、余裕のある瞳が凍りついた。


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最後の音は、甲冑が床にぶつかって転がる音。

ころころと肉体を亡くした鎧はだらしなく床に落ちた。
布のずり落ちる音。それはマントや彼らの衣服が主をなくしてさらりと崩れる
音。

重い瞼を開けると、さっきの廊下が見えた。
先ほどと違う点は、自分を追い詰めていた者達が肉体をなくして、残っている
のは着ていた衣服と着けていた武具だけであるというところだけ。

「まったく、本当に厄介な依頼だ」

右手を見ると、奇妙なことに白い指先から肘まで全てが綺麗にある。
つい2、3分前までは肉隗の屑のような状態だった手は見事に修復されてい
た。その代わり、といっては何だが絵の具で塗りたくったように、青い線が幾
重にも浮かび上がっている。

「12人分の兵士の情報を取り込めたのは幸いですが、やはり精度が足りな
い」

指先が歪に曲がっている。
やはり、それぞれ違う個体を取り込めばおのずと規格に差異が出る。
体の構成に余った一人分の情報を加工して、服の破れと新しいシルクハットを
精製する。
青い青い魔法式がすぐに真っ黒な式に変わって、文字の端からするするとシル
クハットを作る。

「さて、吸血鬼殿は真実を見れたのですかね…」

とりあえず、適当な部屋で何事もなかったように隠れていなければ。
そのまえに、彼らの遺品を手短な場所に隠す必要がある。こういうものを指先
を鳴らすだけで片付けられたほうがカッコイイのだろうが、生憎とそこまで便
利な技術と持ち得ない。


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よろめいたのは一瞬だった。
強靭な精神はすぐに現実を理解して受け入れた。だがそれでも衝撃は深く心を
貫いた。

すすり泣く声、喉が潰れてなお叫ぼうとする呼気。
ウピエルは似たような構図を絵画で見たことがある。地獄の火の海で焼かれる
罪人の絵だ。
目の前の光景は、それを罪人を子供に。火の海ではなく、火の穂が肉体を糧に
焼いている。
火傷どころですまない焼け跡を全身に生えさせた幼い子供達。

『コモンウェルズ、子供だけが焼死する謎の連続人体発火事件。
 百年単位で数十件が頻発に起こり、そして外部調査の者達がことごとくこの
国から事件を解決せずに忽然と……消え去っていることは、ご存知ですか?』


その後に語られた物語はこうだった。


鳳凰信仰、神に選ばれた民などいなかった。
聖なる炎と不死を司る神は、人によって食い滅ぼされていたのだから。
断崖に住まう人々。過酷で苛烈な環境と天気否応なしに人々の命を奪っていっ
た。
死と隣り合わせで呼吸するには人は脆すぎた。
再生と不死の奇跡を宿す火の鳥を食らえば不死になれると信じた古代の人々は
まさに崇めていた神を捕らえ、喰らい、その肉を貪ったそうだ。
しかし、肝心の不死は喰らっただけでは得られず、人々は次第に寿命などで死
亡。
神殺しの事実は「神は選ばれた民に力を残し去った」という都合のよいものに
摩り替えられて世代世代に伝わった。

そんな過去話はあったのか、語った帽子屋もこの物語自体に脚色があると説明
した。
だが、続きの話のほうが重要だった。

少なくとも、人間以外の生命体を摂取した民。
鳳凰の遺伝子は確実に受け継がれていた。人の肉となり要素となり世代世代で
繋がれる。
それは人間の求めた不死ではなく、再生の遺伝子にスイッチが入った。
人の血肉になった一部は、元の姿に戻ろうと他の部分を焦がして燃える。
全てを焼き尽くしながら羽ばたこうとする。しかし翼はなく、ただ体を燃やす
だけ。
中途半端な遺伝によって、必要な遺伝を失った鳥は翼が形成できない。

再生発動には人類の預かりしない一定の条件が存在する。
かろうじて分かることは「成長期の子供」だけ。発症がなぜ子供だけで、なぜ
ある時期に一斉になるか、全ては今だ未解明。
発症しても火傷程度で済むもの、あるいは全身から発火して狂いながら泣きな
がら滅びる子供。
ここは、後者の集まる死亡予定者の国だ。

「ふざ……」

けんな、と口から零れなかった。
最初に出会った少女の笑顔がよぎる。その少女がここにはいないことに安堵を
覚え、次に自分の思考に反吐を吐きそうになる。

背を向けて歩き出せそうにない。
子供達が呻く森で彼はどうしようもない憎悪ともどかしさともっと深い場所に
ある心のなにかが叫んだ。
火傷の腐臭がひどく、不快だった。


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ひらりと窓から飛び込んできた吸血鬼を帽子屋は恨めしそうに眺めた。

「なんだよ?一人は寂しかったか?」

「…いいえ、たしかに寂しかったですね。ええ、色々と」

意味有りげな帽子屋の言葉も、吸血鬼にはまったく分からない。
綺麗に着地、衣服の乱れを直し、無意味なまでに爽やかに笑ってみせる。
白い八重歯が輝く。

「まあそういうわけで裏はばっちり取った…どうした、それ」


と、ウピエルは帽子屋の袖のカフスが消えていることに気がついた。
目ざとい奴だ、と内心感嘆舌打ちしながらも笑顔で誤魔化す。

「ああ、どこかで落としたみたいですね…」

「へーぇ、生真面目なお前みたいな人種が、がねぇ」

吸血鬼の観察眼に内心呆れそうになる。
むしろ自分が作成し忘れていたカフスにすら気がつくとは。そしてそれを兵士
を取り込んだ時に製作し忘れていたことに悔しさを覚える。

と、窓ガラスがけたたましい音を立てて破壊される。
ウピエルが咄嗟に机を転がして盾を作る。欠片が次々に突き刺さり、机に刺さ
る。
その後に突入してきた五人の兵士。
しかしウピエルの投げたナイフが三人を射抜き、一人は殴り倒され一人は仲間
を盾に突進してきたウピエルの行動に虚をつかれて動きが遅れ、蹴り飛ばされ
て壁に撃墜した。

「脱出しますか?」

「……あぁ、行くか」

子供達を思うと、このまま病院全てを破壊しつくしたくなる。
だが今ここでそれをやっても無意味だ。ウピエルはすでに決意していた。

「では戦陣をお任せしますよ吸血鬼殿」

「お前は闘わないのかよ」

「…情報専門、なので」

会話中でも剣戟を平気でナイフ一本で受け止めるウピエル。
頼りないナイフが、吸血鬼の手で聖剣さえも凌駕する魔力を発揮するかのよ
う。


二つの影は、剣戟をすり抜けていく。

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2007/02/11 23:02 | Comments(0) | TrackBack() | ●イカレウクレレレレレノレ

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