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2024/05/16 20:42 |
3.イカレウクレレレレレノレ<吸血鬼+帽子屋 +事件>/イカレ帽子屋(Caku)
PC :ウピエル、イカレ帽子屋
場所 :断崖の国コモンウェルズ・カジノ→喫煙スペース→宿屋

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断崖は、かつて神々が悪しき邪神と戦った際、最後の一振りを大地に這いずる
邪神に突き立てた。
そして邪神は息絶え、神の剣は大地の物となり切り立つ崖となった。
ここは、神々の勝利の国。断崖は、神の剣の場所。

王は代々、神の化身である鳳凰の聖なる血を受け継いだ神の代理者として得難
き美と長寿を誇る。
まさに現女王こそ、その映し身であろう。
人々はより一層彼女を信仰し、信頼し、また崇拝している。

辺境で生き抜く腕前、政治手腕から見ても、たしかに彼女は有能だ。
この過酷な土地で国民が満足している、という最も素晴らしい統治を成し遂げ
ているのだから。
そんな中、少しだけ不安が広がり始めている事件がある。
その事件とはーーーーー。


ウピエルがカジノに入ろうとする前に、幾台もの馬車が猛スピードで目の前を
走りぬけた。

「のわっ!……あっぶねぇじゃねぇか」

馬車の走り去った方向を見て、少しだけ眉をひそめる。
人だかりが出来つつあり、また悲鳴も幾つか聞こえる。足をそちらに向けてみ
る。

「ああ、早く!私の娘が…はやく、はやく…」

「どけ!邪魔だ!!早く水をもってこい、燃え尽きるぞ!!」

「むごい、むごすぎる…これで12件目だぞ……」

周囲の人だかりの会話を聞いて、ウピエルから笑みが消えた。
人並みを掻き分けて目にした光景とはーーーー。



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「どうすっかな」

カジノの喫煙スペースで、ウピエルは安物の煙草をふかした。
ちらりと柱の向こうを眺めると、先ほどから入れ替わった店員達が卓上の賭け
を笑顔で配当している。
積み上げられた金貨とチップに比例して、ギャラリーは興奮して見守ってい
る。

賭博場に入ったウピエルは、目にした事件を忘れるかのようにカードゲームに
興じた。
異国人が勝ち続けている物珍しさと、ウピエルの度肝を抜く試合状況にいつし
か見物人も出来始めてきた。
それが収まらないのが、店側である。
摩り替わった店員からして、おそらく不当な仕業を繰り出してくる可能性があ
る。
かといって、この熱狂的な雰囲気でゲームを終了すれば、ギャラリーにどやさ
れるに決まっている。
店側も取られたぶんを取り戻そうと、周囲を煽っているのでなお悪い。

現在休憩中と笑みを零して席を立ったのが2分前。

そろそろ戻らないと逃げ出したのかと笑われるか、勝てない戦いをするなんて
分が悪すぎる。
だがしかし、ウピエルの性格からして尾っぽを巻いて逃げるなど断じてするわ
けにはいかなかった。
自分も妙に頑固者だな、とせせら笑い、さてどうやって店側を上手く騙せるか
ーーーと思案して席を立った。
と、立ち上がろうとして一瞬硬直した。

「……気付かなかったぜ、いつの間に?」

「“ずっと前から”」

含み笑いが零れてきそうな返事は、真後ろから流れてきた。

「……そりゃ存在感なかったな、クラスでも手を上げたのに数えてもらえない
タイプだろ。アンタ」

「残念ながら、学校出の経歴はないんですよ。
でもお察しの通り、ギルドの集会などで挙手してもよく無視されますね。これ
からは気をつけましょう」

それはどちらかというと嫌がらせの無視ではなかろうか、とウピエルは思った
が振り返りもせずに笑った。
煙草の灰を落とすフリをして、再び椅子に座りなおす。
まだ、いつの間にか背後にたった人物の顔も姿も見てないが、俗人ではないこ
とだけは確かだった。
吸血鬼である自分の感覚を欺いた何者が、くつくつと笑う声が床に落ちながら
這いずり回った。

「驚かないんですね、さすがは長く生きてらっしゃる…年の功、ですかね」

「驚いてるさ、結構小心者でね。顔に出ないから得してるだけさ」

「貴方が小心者というなら、世の人々は蟻一匹程度の心しか持てないでしょう
ね」

どっちも腹に何かを抱えている会話。
喫煙のこの場所以外は煩いほどに音が騒々しいのに、この区画だけまるで歪ん
でいるように静かに感じた。

「とりあえず、だ。お友達になりたいならまず自己紹介といこうや」

敵か味方か、あるいは別か。
とりあえずこんな公の場所で会話をしてくるということは、少なくとも今は自
分に害を成すとは考えにくい。
まあ、そんな常識が通じるのはある程度の相手だけだが。

「“幸運の女神(フォルトゥーナ)”」

「…はぁ?」

「赤に入れなさい。幸運の女神を呼び出したいなら、ね」

そう言って、背中越しの相手が離れていく気配が響く。
やがて、騒々しい熱狂が周囲を包んだ。トランプが配られるのだろう。そろそ
ろ戻らなくては。

「なぁにが“幸運の女神”だ。思いっきり男の声じゃねぇか…まさか、オカマ
とかそーいうオチか?」

毒つつきながら、自分も席を立つ。
今の会話で少なくとも3つのことが判明した。この事項をどう料理するかは自
分次第。

『ずっと前から』言葉どおりに取れば、彼が喫煙スペースに入る前からだが、
のちの会話を考えるに別の意味もありそうだ。例えば、自分のように人とはか
け離れた、呼吸し歩いてきた時間。
『長く生きてらっしゃる…』自分の素性を知っている。少なくとも、人ではな
いということを。
最後の一つは『赤に入れなさい』。
どうやら、負けるはずだったトランプ遊びに女神を引き寄せた人物がいるらし
い。
煙草を捨てて、彼は不敵に笑った。立ち上がり席に近づくと熱狂はますます度
合いを増す。
唇から、鋭い犬歯がちらりと覗いた。


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幸運の女神を引き寄せた、というよりむしろ捕らえ引き摺り回したというよう
なまでに冒涜的な白い手が札を配る。
微笑みは穏やかだが、きっとその口内は真っ赤に染まりきっているのだろうと
誰もが連想した。

唯一、彼を知るものや現在悲惨中の相棒が口を開けて驚くならば、彼が素顔を
現しているからだろう。
髪を後ろで束ね、服装は喪服色ではなくディーラーの色相。眼鏡で隠してるつ
もりなのか、それでもあざといセルリアンの瞳は異様に目立った。

席に戻った吸血鬼にむける彼の微笑みは、まごうことなく営業員の笑顔であっ
たが。
幸運の女神を名乗る割には、かなり無理のある邪悪な微笑みだった。

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「んで、女神さんよぉ?何が悲しゅうて俺ら密室にいるわけ?」

「別に私は悲しくないので、お気遣い無く」

「俺は悲しいんだけどね」

カーテンを閉めながら、笑顔で応対する声は、まさしく客商売の見本にするに
は相応しいものだ。
その顔に浮き彫りになった、見る者を不安にさせる微笑みさえなければ。

「人に聞かれたり、見られると困る話題ですので」

「まあ、女神様ったら大胆」

「…先ほどのは冗談ですよ。とりあえず『イカレ帽子屋(Mad hatte)』と覚え
ていただければありがたいですね」

その名前を出しても、ウピエルはへ-ぇと生返事を返した。
だが本心で何を考えているのか分からないタイプ。どちらもだったが。

カジノ建設以来の大勝利をかましたウピエルは鼻歌交じりでその場を後にし
た。
さて、酒場でいっちょ飲み明かすか…と、本来の目的を忘れかけたところで笑
顔の青年に呼び止められた。
その青年は、酒場ではなく宿屋の一室に彼を連れ込んで現状にいたるのであ
る。

「……13件目ですね」

ふと、カーテンの隙間に目を細めていた帽子屋の瞳がさらに細くなった。
ウピエルもつられて見てみると、隙間からも分かるほどの人だかりと喧騒、そ
して悲鳴。


「吸血鬼が……吸血鬼を呼び寄せた だそうですよ」

「…なんだって?」


カーテンの隙間から照りだされた赤い炎のような斜陽は、帽子屋の顔半分を赤
く染めた。
ただ、青い瞳だけが凍りついたように赤くはならず、反逆めいている。




「コモンウェルズ、子供だけが焼死する謎の連続人体発火事件。
百年単位で数十件が頻発に起こり、そして外部調査の者達がことごとくこの国
から事件を解決せずに忽然と…消え去っていることは、ご存知ですか?」


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2007/02/11 23:00 | Comments(0) | TrackBack() | ●イカレウクレレレレレノレ

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