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2024/05/17 04:37 |
2.イカレウクレレレレレノレ<吸血鬼断崖に立つ >/ウピエル(魅流)
PC :ウピエル
NPC:リーゼロッテ、女王マルガリータ
場所 :断崖の国コモンウェルズ
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「ここが断崖の国の入り口か」

 大陸横断鉄道を途中下車して、やや北東へ。スズナ山脈の一角にひっそりとある洞窟の、衛兵が待機している検問所を抜ければそこはもう断崖の国コモンウェルズだ。

 この厳しい自然環境の中に敢えて国を作り住んでいるのは、一言で言うと信じる心が為せる技で、コモンウェルズは100%全国民が鳳凰を信仰している特殊な宗教国家だ。その形態は非常に閉鎖的で、外から中の様子を伺い知る事はできない。

「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

 そう呟きながらウピエルはここに来る前に屋敷のメイドに言って調べさせた情報が書いてある紙にもう一度ざっと目を通した。やや小さめの紙に纏められた項目は三つ、閉鎖的であること、鳳凰信仰であること。そして、何十年かに一度鳳凰信仰とまったく関係のない外部の者が中に入り、そのまま行方不明になっていること。最後の点をもう一度確認すると、手紙をポケットに仕舞い、洞窟に向けて歩き出した。

――鬼が出るか蛇が出るか。間違いなく言えるのは、待ち受けているのが仏などではないという事だけである――

                ◆☆★◇†☆◆◇★

 女王からの手紙を見せるとあっさりと入り口を抜ける事ができた。どうやら話はしっかりと通っていたらしい。王族がいる神殿までの案内も提案されたが丁重にお断り申し上げ、洞窟を抜ける。
 視界に入って来たのは、絶壁をくり貫いて作ったと思われる茶色い家々とところどころに生えている針葉樹。正直ウピエルは全員が全員顔見知りのような地方の村のような場所を想像していたのだが、断崖の"国"と言うだけにそれなりの規模はあるらしい。予想外の事態だったが、今更戻って案内を頼むのもしゃくなので適当に大きめの道で上の方に向いている道を探して適当に歩くことにした。

 しばらく行くとやや開けた広場に辿り着いた。ざっと見渡しただけでも指針にしていた大きめな道が三本もあり、ウピエルはどうしたものかと考えを巡らせた。なんとなく辺りを見渡していると、一人の少女が目に止まる。
 先ほどから目にするここの住民は大体同じような民族衣装を着ているのだが、この少女だけは少し派手というか装飾が付いてやや豪華な服装になっている。恐らくは宗教関係の役職にいる娘なのだろう。
 仕事なのか単に面倒見がいいだけなのか、広場の隅で泣いている男の子の世話をしていた少女は人が近づく気配を感じて顔を上げた。

「こんにちわ、お嬢さん」

「あ、はい。こんにちわ……?」

 半ば条件反射的に挨拶は返したものの、見上げた先のこの国では滅多に見ない服装をした男に戸惑いを隠せない少女に、ウピエルはさらに言葉を重ねる。

「実は俺様、ここの女王様にちょいと頼まれ事があってな。
 神殿てヤツを探してるんだけど良かったら道教えてくれないか?」

 言いながら女王から受け取った国の紋章入りの手紙を振って見せた所為か少女はあっさりと警戒心を解き、さっと泣いていた少年の腕を包帯で巻いて立ち上がる。包帯に染み込ませてるらしい、薬湯と思しき甘い匂いがウピエルの鼻腔をくすぐった。

「私もちょうどこれから神殿に戻りますから、よろしければご一緒しますか?」

 礼を言って駆けて行く男の子を見送ってから少女がそう提案した。ウピエルがそれを断るはずもなく、二人は軽く自己紹介した後山頂近くの神殿を目指して歩き始めたのだった。

 リーゼロッテと名乗った少女はやはり神殿に仕える存在である巫女で、祭事の時などにいろいろな雑事をしたり病人やけが人の世話をするのが主な仕事らしい。
 先ほど広場で少年を診ていたのもその一環で、ああいう時の為に救急セットは肌身離さず持っているんですよ、とリーゼロッテは小さなポーチを取り出して見せた。
 ウピエルが受け取って蓋を開けてみると、綺麗に並べられた包帯やガーゼ、消毒薬が入った瓶など普通の救急パックと同じようなモノが並んでいる。この国独特の治療法でもあるのか、薄い緑色をした液体を入れた小瓶とガーゼに包まれた細長い何かが入っているのが目を引いた。

 そんな風にお互いの事やこの国の話をしていると、気付けばもう神殿は目の前という所に辿り着く。
 岩壁の斜面から綿密な計算をもって削りだされた神殿はその冠に炎を頂き、荘厳で重厚な気配を惜しむことなく醸し出している。それは名を残す事はなかった人間の、確かな才能と実力の上に建つ一つの芸術の姿だった。

「へぇ、コイツが神殿か……案内ありがとな、助かったよ」

 雰囲気との相乗効果でただ燃えているだけの炎さえ神々しく見え、ウピエルは軽く顔をしかめた。自然の神に感謝をしつつ生きていた人間時代の事がフラッシュバックしかけるのを頭を振って強引に押さえ込み、ここまで案内してくれたリーゼロッテに礼を述べた。
 しかし当のリーゼロッテは何かを思い悩むような表情をしており、全然耳に入った様子がない。

「リズちゃん?」

「え、あ、ごめんなさい。考えごとしてました」

「ん、案内サンキュな。お陰で迷わずに済んだわ」

「いいえ、私もここに戻ってくる所でしたから。
 それよりもウピエルさん、実はちょっとお願いが――」

「リーゼロッテ様、お帰りなさいませ。
 やや、そちらの方は……もしかして、ウピエル様ですか?」

 意を決して口を開いたリーゼロッテの言葉はしかし大きな声によって遮られてしまった。意図的ではないにしろリーゼロッテの邪魔をしたのは白を基調とした貫頭衣に身を包みハルバードと小型のラウンドシールドで武装した男。恐らくは神殿を守る衛兵なのだろう。
 親しげを通り越して馴れ馴れしい笑みを浮かべてリーゼロッテに歩み寄り、本人的にさりげなくリーゼロッテの手を取ろうもさらっとかわされて失敗。表情を軽くひきつらせながらも何事もなかったかのようにウピエルの方に向きなおった。

「ウピエル様、ご本人であれば女王様からのお手紙を見せていただきたいのですが」

 言葉面こそ丁寧だが、その行動の端々には相手を見下すような節が見られる。ウピエルは『貴族のボンボンか何かか』と判断を下し、下手に逆らわないで適当に相手する事に決めた。こういう手合いを怒らせるのはそこそこ楽しめ、しかも非常にお手軽なのだが後々面倒な事になる可能性も高い。後で万が一コイツの助力が必要ということにでもなったら目も当てられないのだ。

 ウピエルが渡した手紙を無駄に時間だけかけて確かめて(偽造されてないか確かめたかったのだろう)、衛兵は神殿の奥を指差してみせた。

「まっすぐ行くと謁見の間がありますのでどうぞお進み下さい。
 ……さて、リーゼロッテ様。お部屋にお連れしましょう」

 言い終わると同時は後は知らんとばかりにリーゼロッテの方にまた向き直った。正直、ここまで下心丸出しな人間もそうはいないのではないだろうか。これも日常茶飯事なのか、リーゼロッテも何か言うという事はしていないもの表情は明らかに嫌そうだし体に至っては半歩引いている。
 仕方ないので、ウピエルは助け舟を出すことにした。

「おいおい、ここの国では手紙で一通で呼びつけた挙句ろくな応対もしないのかよ?」

 流石に、それは衛兵としてはあまりにもマズいと自覚できる程度に職業意識はあったらしい。しぶしぶとリーゼロッテから離れ、ウピエルを先導するように歩き始めた。

「それじゃあ、またな。リズちゃん」

 特に愛称にイントネーションを置いて発音すると、前を行く衛兵の肩が面白いくらいに痙攣した。さらにリーゼロッテの「はい、また後で」と言う返事が追い討ちを掛ける。
 普通に考えればなんてことはないやり取りなのだが妙に意識している者にとってはそういう風に聞こえる、そんなやりとり。意図した以上の結果を受けて、ウピエルは満面の笑みを浮かべた。――まったく。これだから、人をからかうのはやめられない。

「ここが謁見の間です。それでは、私はこれで」

 挨拶もそこそこに衛兵はいそいそと自分の持ち場へと引き返していった。よもやリーゼロッテがまだいるとでも思っているのだろうか。
 ウピエルは彼のもはや執念じみた行動にいっそ感動すら覚えかけ、それをリーゼロッテの不幸を憐れむ気持ちに切り替えた。あんなのに付きまとわれたらノイローゼになったっておかしくないだろうに。

 ちょうど鳴り響いた正午を知らせる鐘の音をきっかけにウピエルは謁見の間に注意を戻した。体を火で覆われた鳥、つまりは鳳凰が舞う姿が美しく刻み込まれた両開きの扉があり、その扉の両脇にはやはり同じ制服の衛兵が二人、待機している。

「ここの女王様から呼び出されたウピエルっつうもんなんだが、通してもらえるか?」

 言いながら片方に手紙を渡す。渡された衛兵はざっとその手紙を確認すると、相方に頷いてみせた。

「どうぞお通り下さい、女王様がお待ちです」

 なにか操作をしたのか、二人が声を揃えて言うと同時にゴゴゴゴと音を立てて扉が開く。ウピエルが中に入るとまた音を立てて扉は閉まった。
 この神殿の謁見の間はその言葉面から想像されるような、よく城に見られるそれとは全然違うものだった。どちらかといえば横長な部屋を簾が二つに仕切っている。しばらくすると、簾の向こうに人が入ってくるのがわかった。

「ようこそ我がコモンウェルズへいらっしゃいました。ウピエル殿」

 やってきた女王は大変美しい鈴を転がしたかのような声をしていた。道中にリーゼロッテに聞いた話だと彼女が物心ついてから10年余、女王マルガリータは衰える事ない美貌を保っているらしい。それが鳳凰の加護を受けるこの国の女王の証なんだそうだ。
 どうやらこの国の女王は近来稀に見る絶世の美女、それも男を落しに掛かれば落ちない者はいないというほどの魔性の女のようだ。

「事件の解決がご希望だそうで?」

 相手への尊敬の念など欠片も入っていない丁寧語。人、それを慇懃無礼という。
 しかし女王はウピエルのそんな不遜な物言いに特に腹を立てる様子もなく、話を進める。

「その通りです。今我が国で起きている事件を調査し、解決してください。
 その結果が私の望む通りであれば報酬は貴方の望むとおりに差し上げましょう」

「おいおい、そんだけかよ。ちょいとアバウト過ぎねぇか、それ」

 あまりといえばあまりに無茶な物言いにウピエルの眉が跳ね上がる。事件がどういうモノかも言わず、自分が望む解決法さえ言わないのであればどう考えたところで動きようがない。喩え事件を無事解決できたとしてもそれを望む通りではないとし、報酬を支払わないという事だって出来てしまうのだ。

「一週間はこちらで宿を手配します。その間に事件を解決してください」

 女王はウピエルが何を言おうが淡々と自分の話を進めて行く。それは王族特有の強引さに加え、相手を自分の策に絡めとった自信を持つ策士の余裕を合わせたような行動だ。

「テストも兼ねてるってか。呼びつけておいて偉そうな話だな?」

 拒否する要素などはない。それはとうにわかっていたが、敢えてウピエルは否定的な言葉を口にした。無駄なのは百も承知でも、無抵抗でいるのはウピエルの矜持が赦さない。

「もちろん、貴方には依頼を受けないという選択肢もあります。
 ただ、我が国では信徒以外の入国は例外を除いて一時たりとも赦していませんが」

 案の定、女王は断れば只では済まないというカードを切ってきた。閉鎖的な国に君臨する女王とその国を訪れる部外者では手札に差がありすぎる。もとよりこの場での交渉においてウピエルに勝ち目はないのだ。

「やれやれ……ま、いいだろ。ついでも出来たしな」

 これ以上ゴネてもらちが明かないのでウピエルはさっさと話を進める事にした。脳裏に悩んだ末に口を開くリーゼロッテの姿がよぎった。どちらにしろ、すでに引く道はないのだ。
 どうやらと言うかやはりと言うか、待ち受けていたのは鬼。これからの面倒くささを思ってウピエルは盛大に溜息をついた。

「貴方が賢明で助かります。それでは、何か分かったら私の所へ報告に来てください」

 話は終わりといわんばかりに音を立てて後ろの扉が開く。「へいへい、わかりましたよ」と投げやりな返事を残してウピエルは謁見の間を後にした。
 アテなんてもの当然なかったから、ウピエルはとりあえず顔見知りになったリーゼロッテにでも話を聞きに行く事にしたのだった。

                ◆☆★◇†☆◆◇★

 結論から言うと、リーゼロッテを捕まえる事はできなかった。巫女というのはあれやこれやと忙しい仕事らしく、あの後また下の街の方へ降りていってしまったらしい。探しに行く事も考えたが、まったく土地勘の無い街で行動パターンを把握できていない人を一人探せるような広範囲を探索する術をウピエルは持っていない。彼にあるのは基本たる足だけなのだ。
 仕方が無いので神殿まで案内される途中で教えてもらった外部の人間の区画の方へ足を伸ばして見る事にした。基本的にこの国は信徒だけで成り立っているが、この断崖という厳しい環境においてそれだけでは人が生活して行くにはあまりにも沢山の物が不足している。だから例外として商人隊が滞在したりする為の宿屋と酒場が用意してあるのだ。

 ウピエルはとりあえず宿屋に行き、部屋に入って一服する事にした。無目的に動いた所で得るものなんて限られている。そういう幸運に期待するのも悪くはないが、その前にもっと分があるものを探してそちらから当たった方が効果的だ。酒場で安ワインを一本買い、部屋に持ち込んでちびちびと飲りながら考えを纏める。――とはいっても、纏めれるほどの情報すらないのだが。
 結局のところ、圧倒的に情報が不足している。思索に行き詰ってなんとなく窓の外に目をやると、派手なカジノの看板が目に付いた。大方外部の人間から金を巻き上げる為に作ったのだろうが、入って行く人をみるとこの国の国民の姿も結構見える。恐らくはこの厳しい環境にある国の数少ない娯楽の一つなのだろう。

 しばらく窓からその様子を眺めていたウピエルは不意に邪悪な笑みを浮かべた。
 ――久しぶりに、ポーカーで一儲けするのも悪くはねぇな――
 コップのワインを飲み干すと軽い足取りで外にでてカジノに向かう。その先に特大級の幸運と不運が同時に待ち受けている事を彼はまだ知らない。
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2007/02/11 22:59 | Comments(0) | TrackBack() | ●イカレウクレレレレレノレ

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