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2024/05/19 05:49 |
イェルヒ&ジュリア9/イェルヒ(フンヅワーラー)
キャスト:イェルヒ
場所:ソフィニア
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 首都ソフィニアから、少しだけ南下した所に位置する遺跡パジオ。
 発見されたのは数年前なんてモノではない。47年前だ。きっかけは、どっかのお偉いさんがピクニックに行ったところ、はぐれ、雨露をしのごうと遺跡に迷い込み、そこに文明の跡を発見したのがきっかけであるらしい。
 その発見者が魔術学院関係者であり、なおかつ魔法都市ソフィニアから近い場所にあるということで、魔術学院によって管理され、ギルドにも働きかけ、冒険者の介入を遮ってきた。とはいっても、血の気の多い冒険者は何度か侵入したらしいと、記録には残っている。
 だが。その数も少なくなっていく。
 理由は簡単である。
 たいしたものが発見されないからである
 骨董品価値にしても、学術的価値にしても、低いものしか発見されないのだ。
 遺跡自体も、他の地域で多く発見されている時代のもので、規模は、小さくはないが、把握しきれないというほどでもない、中規模程度。
 大体のめぼしい発掘物は、初期段階に学院が管理しているし、後発の冒険者にとっては、魅力的ではない遺跡であった。
 こうなると。
 損をするのは学院側で。ギルドに掛け合ってまで規制を敷いたというのに、このザマである。赤字の上、赤っ恥以外の何ものでもない。徐々に、発掘作業は小規模なものになっていった。
 そして、近年、学院はその地味な遺跡のことを思い出したようで、『観光地化』の提案の採用に踏み切った。

 今から行く遺跡について関連する情報を、イェルヒは頭の中で復唱していた。

「……ピクニックではぐれるほどはしゃぐから、余計なものを発見するんだ」

 うんざりと、発見者を恨む。名前は浮かばない。所詮、その程度の価値遺跡であるということを示している。
 その時、木々の隙間から、何かが覗いた。
 それは、風景に馴染んでいた。
 なぜ、人工物が、自然の風景になじんでいるのか。理由は簡単。寂れているからだ。

「少し……早かったか」

 日が出てから、出発したのだ。ボランティア要員がまだいなくても不思議ではない時間帯である。
 明確な目標物が視界に存在し、少し足が速まる。
 と、その時。
 つまづいた。

「……っと」

 転んだのではない。ただ、つまづいた。
 妙な感触だった。石や、木の根などにつまづいたのではない。
 足元を、観察する。
 草が、結わえられていた。

「………何なんだ?」

 この手の罠は、決定的な攻撃には成り得ない種類だ。隙を付くという意味しか持たず、それの意味を有効にさせるには、第2の手が必要である。
 が。一向に、それは作動しない。
 何者かが待ち伏せて出てくる様子も、無い。
 結わえられた草を観察する。先の萎れ方を見ると、しばらく時間が経っている様子ではあるが、昨日の夜からのものではないようだ。
 よくよく見ると、他にいくつかまだその意味不明な罠は存在していた。(その内、二つは既に踏み越えられていた)
 と。明らかに不自然に萎れた雑草が一部に積み重なっていた。持ってきた杖で、その部分をいじってみる。
 穴があった。
 深さは30cmほどで、中には何も仕掛けていない、単なる穴が。
 付近の草の足掛けの罠との位置を見る。連動されるような位置ではない。いや、よしんば連動したとしても、やはり、決定打にはならないのは明白である。

「………意味が分からん」

 その、意図の汲めない仕掛けを、踏み、あるいは避けながら、遺跡の入り口を目指す。
 その途中、これまた不自然な、泥があったが、ひょいと避ける。隠そうとしていない分だけ、先ほどの、穴よりも稚拙である。
 どんどん、思考能力が奪われていく感覚に、イェルヒは襲われていた。
 入り口にたどり着いた。そこは、一本のロープで、その入り口はさえぎられていた。が、越えようと思えば、何の支障にもならない程度のものだ。
 そのロープにぶら下がっている板切れには、『関係者以外立ち入り禁止』と、『関係者』の定義が明確ではない、ありふれた言葉が書かれている。
 イェルヒはその文字を見て、少しだけ、散らばってしまった思考能力を掻き集められたような気がした。
 だから、その遺跡の入り口から、意味不明の罠を眺める気になったのだ。
 改めて眺めると、先ほどの仕掛け以外にも、木の枝から不自然にぶら下がった縄や、木にロープで吊り下げられた棒などが存在していた。
 もはや「仕掛け」などと呼びたくない、その光景に、イェルヒは度肝を抜かれていた。
 思考能力は、一気に霧散した。
 その思考能力の最後かけらで、イェルヒは、ただ一つのことを認識した。

 ……とてつもない馬鹿が、先に来ている。

 なんだか、もぉ全部がどうでもいいような心地で、イェルヒは思った。
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2007/02/10 16:43 | Comments(0) | TrackBack() | ●もやしーず

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