キャスト:イェルヒ
場所:ソフィニア
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首都ソフィニアから、少しだけ南下した所に位置する遺跡パジオ。
発見されたのは数年前なんてモノではない。47年前だ。きっかけは、どっかのお偉いさんがピクニックに行ったところ、はぐれ、雨露をしのごうと遺跡に迷い込み、そこに文明の跡を発見したのがきっかけであるらしい。
その発見者が魔術学院関係者であり、なおかつ魔法都市ソフィニアから近い場所にあるということで、魔術学院によって管理され、ギルドにも働きかけ、冒険者の介入を遮ってきた。とはいっても、血の気の多い冒険者は何度か侵入したらしいと、記録には残っている。
だが。その数も少なくなっていく。
理由は簡単である。
たいしたものが発見されないからである
骨董品価値にしても、学術的価値にしても、低いものしか発見されないのだ。
遺跡自体も、他の地域で多く発見されている時代のもので、規模は、小さくはないが、把握しきれないというほどでもない、中規模程度。
大体のめぼしい発掘物は、初期段階に学院が管理しているし、後発の冒険者にとっては、魅力的ではない遺跡であった。
こうなると。
損をするのは学院側で。ギルドに掛け合ってまで規制を敷いたというのに、このザマである。赤字の上、赤っ恥以外の何ものでもない。徐々に、発掘作業は小規模なものになっていった。
そして、近年、学院はその地味な遺跡のことを思い出したようで、『観光地化』の提案の採用に踏み切った。
今から行く遺跡について関連する情報を、イェルヒは頭の中で復唱していた。
「……ピクニックではぐれるほどはしゃぐから、余計なものを発見するんだ」
うんざりと、発見者を恨む。名前は浮かばない。所詮、その程度の価値遺跡であるということを示している。
その時、木々の隙間から、何かが覗いた。
それは、風景に馴染んでいた。
なぜ、人工物が、自然の風景になじんでいるのか。理由は簡単。寂れているからだ。
「少し……早かったか」
日が出てから、出発したのだ。ボランティア要員がまだいなくても不思議ではない時間帯である。
明確な目標物が視界に存在し、少し足が速まる。
と、その時。
つまづいた。
「……っと」
転んだのではない。ただ、つまづいた。
妙な感触だった。石や、木の根などにつまづいたのではない。
足元を、観察する。
草が、結わえられていた。
「………何なんだ?」
この手の罠は、決定的な攻撃には成り得ない種類だ。隙を付くという意味しか持たず、それの意味を有効にさせるには、第2の手が必要である。
が。一向に、それは作動しない。
何者かが待ち伏せて出てくる様子も、無い。
結わえられた草を観察する。先の萎れ方を見ると、しばらく時間が経っている様子ではあるが、昨日の夜からのものではないようだ。
よくよく見ると、他にいくつかまだその意味不明な罠は存在していた。(その内、二つは既に踏み越えられていた)
と。明らかに不自然に萎れた雑草が一部に積み重なっていた。持ってきた杖で、その部分をいじってみる。
穴があった。
深さは30cmほどで、中には何も仕掛けていない、単なる穴が。
付近の草の足掛けの罠との位置を見る。連動されるような位置ではない。いや、よしんば連動したとしても、やはり、決定打にはならないのは明白である。
「………意味が分からん」
その、意図の汲めない仕掛けを、踏み、あるいは避けながら、遺跡の入り口を目指す。
その途中、これまた不自然な、泥があったが、ひょいと避ける。隠そうとしていない分だけ、先ほどの、穴よりも稚拙である。
どんどん、思考能力が奪われていく感覚に、イェルヒは襲われていた。
入り口にたどり着いた。そこは、一本のロープで、その入り口はさえぎられていた。が、越えようと思えば、何の支障にもならない程度のものだ。
そのロープにぶら下がっている板切れには、『関係者以外立ち入り禁止』と、『関係者』の定義が明確ではない、ありふれた言葉が書かれている。
イェルヒはその文字を見て、少しだけ、散らばってしまった思考能力を掻き集められたような気がした。
だから、その遺跡の入り口から、意味不明の罠を眺める気になったのだ。
改めて眺めると、先ほどの仕掛け以外にも、木の枝から不自然にぶら下がった縄や、木にロープで吊り下げられた棒などが存在していた。
もはや「仕掛け」などと呼びたくない、その光景に、イェルヒは度肝を抜かれていた。
思考能力は、一気に霧散した。
その思考能力の最後かけらで、イェルヒは、ただ一つのことを認識した。
……とてつもない馬鹿が、先に来ている。
なんだか、もぉ全部がどうでもいいような心地で、イェルヒは思った。
場所:ソフィニア
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首都ソフィニアから、少しだけ南下した所に位置する遺跡パジオ。
発見されたのは数年前なんてモノではない。47年前だ。きっかけは、どっかのお偉いさんがピクニックに行ったところ、はぐれ、雨露をしのごうと遺跡に迷い込み、そこに文明の跡を発見したのがきっかけであるらしい。
その発見者が魔術学院関係者であり、なおかつ魔法都市ソフィニアから近い場所にあるということで、魔術学院によって管理され、ギルドにも働きかけ、冒険者の介入を遮ってきた。とはいっても、血の気の多い冒険者は何度か侵入したらしいと、記録には残っている。
だが。その数も少なくなっていく。
理由は簡単である。
たいしたものが発見されないからである
骨董品価値にしても、学術的価値にしても、低いものしか発見されないのだ。
遺跡自体も、他の地域で多く発見されている時代のもので、規模は、小さくはないが、把握しきれないというほどでもない、中規模程度。
大体のめぼしい発掘物は、初期段階に学院が管理しているし、後発の冒険者にとっては、魅力的ではない遺跡であった。
こうなると。
損をするのは学院側で。ギルドに掛け合ってまで規制を敷いたというのに、このザマである。赤字の上、赤っ恥以外の何ものでもない。徐々に、発掘作業は小規模なものになっていった。
そして、近年、学院はその地味な遺跡のことを思い出したようで、『観光地化』の提案の採用に踏み切った。
今から行く遺跡について関連する情報を、イェルヒは頭の中で復唱していた。
「……ピクニックではぐれるほどはしゃぐから、余計なものを発見するんだ」
うんざりと、発見者を恨む。名前は浮かばない。所詮、その程度の価値遺跡であるということを示している。
その時、木々の隙間から、何かが覗いた。
それは、風景に馴染んでいた。
なぜ、人工物が、自然の風景になじんでいるのか。理由は簡単。寂れているからだ。
「少し……早かったか」
日が出てから、出発したのだ。ボランティア要員がまだいなくても不思議ではない時間帯である。
明確な目標物が視界に存在し、少し足が速まる。
と、その時。
つまづいた。
「……っと」
転んだのではない。ただ、つまづいた。
妙な感触だった。石や、木の根などにつまづいたのではない。
足元を、観察する。
草が、結わえられていた。
「………何なんだ?」
この手の罠は、決定的な攻撃には成り得ない種類だ。隙を付くという意味しか持たず、それの意味を有効にさせるには、第2の手が必要である。
が。一向に、それは作動しない。
何者かが待ち伏せて出てくる様子も、無い。
結わえられた草を観察する。先の萎れ方を見ると、しばらく時間が経っている様子ではあるが、昨日の夜からのものではないようだ。
よくよく見ると、他にいくつかまだその意味不明な罠は存在していた。(その内、二つは既に踏み越えられていた)
と。明らかに不自然に萎れた雑草が一部に積み重なっていた。持ってきた杖で、その部分をいじってみる。
穴があった。
深さは30cmほどで、中には何も仕掛けていない、単なる穴が。
付近の草の足掛けの罠との位置を見る。連動されるような位置ではない。いや、よしんば連動したとしても、やはり、決定打にはならないのは明白である。
「………意味が分からん」
その、意図の汲めない仕掛けを、踏み、あるいは避けながら、遺跡の入り口を目指す。
その途中、これまた不自然な、泥があったが、ひょいと避ける。隠そうとしていない分だけ、先ほどの、穴よりも稚拙である。
どんどん、思考能力が奪われていく感覚に、イェルヒは襲われていた。
入り口にたどり着いた。そこは、一本のロープで、その入り口はさえぎられていた。が、越えようと思えば、何の支障にもならない程度のものだ。
そのロープにぶら下がっている板切れには、『関係者以外立ち入り禁止』と、『関係者』の定義が明確ではない、ありふれた言葉が書かれている。
イェルヒはその文字を見て、少しだけ、散らばってしまった思考能力を掻き集められたような気がした。
だから、その遺跡の入り口から、意味不明の罠を眺める気になったのだ。
改めて眺めると、先ほどの仕掛け以外にも、木の枝から不自然にぶら下がった縄や、木にロープで吊り下げられた棒などが存在していた。
もはや「仕掛け」などと呼びたくない、その光景に、イェルヒは度肝を抜かれていた。
思考能力は、一気に霧散した。
その思考能力の最後かけらで、イェルヒは、ただ一つのことを認識した。
……とてつもない馬鹿が、先に来ている。
なんだか、もぉ全部がどうでもいいような心地で、イェルヒは思った。
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